フォルクスワーゲンがクルマの電動化に積極的なことはご存じだと思うが、その電動化の第一弾として「ID.4」が国内デビューした。
ID.4は2020年9月にワールドプレミアを行ない、日本国内では2022年11月に発表となった。ボディサイズは欧州のCセグメントサイズのSUVで、世界戦略車というポジションでグローバルに販売される。国内に導入されるID.4はドイツ・ツヴィカウ工場で生産されるが、この工場の電力はサスティナブルな再生エネルギーで発電された電力だ。そのため、生産から車両の走行においてCO2を排出しない環境対応したモデルなのだ。
ID.4の狙いはこれまでガソリン車などのICE(内燃機関)に乗ってきたユーザーが、違和感なくEV車に乗り換えることができるように考えられたモデルで、ICE車の代替車両という位置付けで開発されている。
近年のEV化の流れでは、こうしたICEの代替と考える車両とは別に、従来車とは別な乗り物というコンセプトで開発されているEV車もある。後者は総じて斬新なデザインやこれまでになかった価値の提供といったことに注力されて開発されている。一方でICEの代替という位置付けで開発されたモデルは、乗り換えに対する抵抗感の払拭やガソリン給油が充電に変わっただけという限定的な違いに留まるようなコンセプトを持って開発されている。
ID.4はICEとの代替であるからVWであればゴルフやティグアン、あるいはT-RocあたりのICEからの乗り換えを想定し違和感なくEV車へシフトチェンジできることを目指している。試乗したのはLite Launch editionとPro Launch editionの2グレードのうち、Proグレードに試乗した。
スイッチレスでシステム始動
ボディサイズは全長4585mm、全幅1850mm、全高1640mmでホイールベースが2770mmあり、ティグアンより僅かに全長、全幅が大きくホイールベースも95mm長くなっている。その違いはプラットフォームによるものでティグアンなどICE用はMBQで、電動車両はMEBを採用している。MEBはプロペラシャフト、マフラー、トランスミッションなどがないEV車用なので、フラットなフロア構造で、そこにバッテリーを搭載することができる。そのため低重心になるメリットを持っている。
運転席に乗り込むとICEにはあったエンジン始動のアクションはID.4では不要だ。シートに座りブレーキペダルを踏むことでシステムが作動を始める。降りるときも「P」に入れブレーキペダルから足を離せばシステムはダウンするようになっている。
動き出しはEV車らしく静かに音もなく動き出す。加速はICEより優れているものの驚くほどでもない。このあたりは敢えての制御だそうで、EV車は制御でいかようにも味付けが変えられる性能を利用したものだ。ただ、レスポンスの良さはEV車のメリットなので、そこは活かされており走行中からの加速では反応の良さが気持ち良い。もちろん、出足の良さをアピールする制御もいいが、ICEにプラスアルファ程度がいいのかもしれない。
一般道、高速道路では静粛性が際立つ。とりわけ市街地では無音に近くアイドリングやら加速音やらがない分、静粛性が際立つ。そして高速走行においても風切り音は抑えられ、また追い越し加速などのレスポンスはEVならではの反応の良さがある。
特徴的なものにRWDというレイアウトがある。リヤアクスルにモーターを搭載した一体型で、非常にコンパクトはRWDシステムになっている。VWは従来FFを得意とするメーカーでもあったが、原点はRRで始まっているわけで、いわば原点回帰とこじつけることもできる。
モーターの出力はLiteグレードが125kW(170ps)/310Nm、Proグレードが150kW(204ps)/310Nmとなっている。またバッテリーもLiteグレードは52kWhで航続距離は388km、Proグレードは77kWhを搭載し561kmという航続距離だ。
ちなみにリヤにモーターを搭載した後輪駆動のRRのため、タイヤサイズが前後で異形サイズになっている。フロントは235/50-20で、リヤは255/45-20。ハンコックの「ventus S1 evo3」というEV車用に開発したタイヤを装着していた。ロードノイズも少なく、乗り心地も良いタイヤだった。この静粛性の高さはICEでは実現できない静かさだと感じる。
シフトレバーはハンドル横へ
インテリアではシフトレバーはなくなり、ハンドル横に回転式のレバーでドライブとリバースを切り替える。パーキングはレバー先端をプッシュする方式だ。また回生エネルギーを発生させる「B」モードは「D」ポジションをさらに回転させると「B」と「D」がローテーションで繰り返される方式になっている。実際使ってみるとドライブとリバースはこのレバーで不満はないが、Bモードはもう少し使いやすいパドルシフト式がいいように感じた。
ナビ周りでは期待されたフォルクスワーゲンOSを搭載するAIが未搭載だった。こちらは日本語対応の課題があり、まずは英語、ドイツ語、中国語という3大マーケットへの対応からスタートというわけで、今後のマーケット規模とニーズによって対応されていくと思う。
したがってApple CarPlayかAndroid Autoでの利用でローカルには地図データはない。だからITS対応はなく、運転支援システムのレベル2までの対応にとどまっている。ただボタンのワンプッシュですぐにシステムは作動し、レベル2の運転は可能なので渋滞時などでは利便性はある。
心地よいシートと十分なスペースの室内空間
シートは大きめのデザインで、マイクロフリースとレザレット(人工皮革)のコンビで座り心地は良い。硬めのシートは卒業したと感じさせる新しい感触だった。後席はフラットなフロアが魅力的で、足元が広く、余裕あるスペースが確保されていてひとクラス上の後席スペースだ。
そして荷室も広い。通常使いで543Lの容量があり、後席を畳むと1575Lのクラストップレベルの容量を持っている。EV車にありがちなラゲッジスペースの減少はなく、MEBプラットフォームを採用することでICEと変わらない積載容量を持っていることもICEからEVへの移行をスムースにする一助になっている。
このようにID.4は未来的なクルマというより、日常的に使うモデルで量販大衆車メーカーであるフォルクスワーゲンが環境に取り組んだ結果のモデルがEV量販モデルの提供というわけだ。だから毎日の生活に使えるEVを目指しつつ、EVのメリットを活かしたモデルになっているのだ。
価格
・Lite Launch edition:4,990,000円 (税込)
・Pro Launch edition:6,365,000円 (税込)