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automobile study
2018年4月にオーストリア・ウィーンで開催された「国際エンジン・シンポジウム」で、フォルクスワーゲンは、次世代の環境対応エンジン「TGI」技術を発表した。
フォルクスワーゲンのCNG戦略
e-ガス(CNG:再生可能な圧縮天然ガス、メタンなど)を燃料とする火花点火の内燃エンジンは、持続可能なCO2負荷のない自動車のパワートレーンとして無視することはできない。気体燃料のe-ガスやCNG(圧縮天然ガス)で動力を発生する車両は、電気自動車に完全移行する間の理想的な存在としている。
フォルクスワーゲンは、サプライヤーやパイプライン燃料網、燃料ステーション事業者と協力して、2017年にドイツのCNGガス・ネットワークの燃料ステーションを2000箇所まで拡張し、2025年までに100万台のCNG車をドイツで導入することを目指している。
CNG車両はフォルクスワーゲンのe-ガス普及化戦略のために、重要であり、かつ顧客の多様な要求を満たす唯一の方法としている。ガソリンエンジンの「1.5L EA211型 TSIエボ」の技術を継承し、新しい「1.5 LのEA211型TGIエボ」をウイーンで発表した。TGIとはCNGを燃料として使用するエンジンを意味する。この最新エンジンは、液化ガス、気化ガスのいずれにも対応でき 高圧縮比、可変ジオメトリーターボと組み合わせた効率的なミラー燃焼サイクルを採用している。
2017年のウィーン・エンジン・シンポジウムでフォルクスワーゲン・グループのマティアス・ミュラー元会長は、グループ戦略として「CNG 攻勢」戦略を発表している。つまりフォルクスワーゲンは、電動化戦略だけではなくCNG戦略も強力に推進しているのだ。
このフォルクスワーゲン・グループが提唱するCNG攻勢戦略、つまりCO2をより早く効果的に削減するために、幅広い産業連合体がプロジェクトに加わっており、エネルギー企業の担当者だけではなく、ガス供給ネットワーク、燃料ステーションなどのインフラ運営業者も参加している。
2017年の終わりには、フォルクスワーゲン・グループは、最量産セグメントのポロとセアト・イビサにCNGモデルを追加した。今後、さらに高性能で経済的なCNGパワートレーン搭載モデルを拡充する計画であり、今回発表された最新のTGIエボ・エンジンはゴルフに搭載される予定だ。
フォルクスワーゲン・グループは、ドイツ連邦政府が提供する環境インセンティブ(補助金)に加えて、CNGモデルの購入者に最大2000ユーロ(約26万円)の特別ボーナスを提供している。こうした施策の効果もあり、ヨーロッパでCNG車は順調に成長しており、CNG普及促進の企業連合は、短期間でドイツ国内において100万台の普及を目指している。
再生可能CNGは通常電力を使用する電気自動車を上回るCO2削減
フォルクスワーゲン・グループは、CNGエンジン車の存在は今後ますます重要になると考えている。ひとつは、世界のエネルギー供給の動向は、化石燃料から天然ガスにシフトしつつあり、 国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、2040年までにCNGの需要は25%の増加が予測されている。 もうひとつはフォルクスワーゲンが意図する再生可能な代替燃料としてのCNG(e-ガス:合成メタン)の普及である。
地中から採取される化石天然ガスは、石油系の燃料よりCO2発生量が少ない特性を持つ。さらに、フォルクスワーゲンが普及を目指すe-ガスは、水を電気分解し、得られた水素とCO2を原料として製造されるメタンガスを意味する。電気分解に使用する電力は風力発電によるため、製造された合成メタンガスは、再生可能なエネルギーと位置付けられるのだ。
またこの合成メタンガスは、気体もしくは液化ガスとしても使用できるため自動車用として扱いやすい特性となっている点もメリットだ。ちなみにe-ガスを生成するための中間生成物としての合成水素(風力発電による電力で水を電気分解し水素を製造)は既にアウディが運営するパイロットプラントで実証生産されている。
また、これ以外に第2世代のバイオ燃料(メタン)もCNGを生み出すことができる。麦わらや下水汚泥などの有機廃棄物から製造されるバイオ燃料は、人間の食料事情に影響を与える食材由来のバイオ燃料とは異なり有意義だ。このバイオ由来のメタンからは化石燃料からのガソリン抽出、精製とほぼ同量のCO2が生成されるが、その後の燃焼過程で放出されるCO2の量は、有機物によって大気から吸収されたCO2であり、結果的にクローズドCO 2ループとなるため、 全体的なwell to wheelの計算では、非常に低いCO2発生量とされる。そしてe-ガスは、化石天然ガスやバイオ・メタンと自由に混合できるという特性を持っている。
この結果、再生可能エネルギーから生まれたCNGを使用するクルマは、内燃機関を搭載しているにもかかわらず、ほぼ100%CO2の排出を削減でき、これは再生可能エネルギーで発電された電力を使用するバッテリー駆動の電気自動車と同等のレベルなのである。
e-ガスのもうひとつのメリットは、既存のインフラに保存することが容易であることだ。特にドイツではCNGパイプラインが広範囲に敷設されている。さらに現在、政策的に電力源となるエネルギーが再生可能エネルギーに転換されており、近い将来には大量の再生可能電力が供給されるが、その電力の保存方法として合成水素→e-ガスが理想的な存在となると考えられている。つまり再生可能電力を貯蔵する機能を持つのがe-ガスなのだ。
CNG車は、ユーザーに航続距離や加速性能などで、何ら我慢や抑制を強いることなくドライビングを楽しむことができ、環境性能に優れており、コスト・パフォーマンスも優れているため、フォルクスワーゲンはより幅広い車種でCNGモデルを拡大することにしている。電動化戦略を前面に掲げつつ、実はCNG車によるバックアップという戦略も用意しているわけである。
1.5 LのEA211型TGIエボは、ガソリン用EA211 TSIエボから生まれた
フォルクスワーゲンは2016年のウイーン国際エンジン・シンポジウムで「EA211 TSIエボ」を発表した。ライトサイジング・コンセプトと呼ばれるこのエンジンは、4バルブ・DOHC、アルミニウムク・ランクケース、排気マニホールド一体型シリンダーヘッドを備えたEA211型をベースに、新たにミラーサイクル運転と可変ジオメトリーターボを組み合わせている。このライトサイジング・エンジンが、最新世代のTSIエンジン「EA211 TSIエボ」だ。
このエンジンは12.5:1という高圧縮比のミラーサイクルで、電動可変ジオメトリーターボ、燃圧350barのコモンレール直噴、可変バルブタイミング&リフト機構、電子制御油水温制御などを採用している。
CNGを使用するE211 TGI エボにとって、許容ピークシリンダー圧力130barという高負荷に耐えるEA211 TSIエボの素質は代えがたいもので、その多くの部品を流用している。そして、EA211型TGIエボはCNG、ガソリンのいずれでも運転できる特性も与えられた。ちなみにガソリンはユーロ95オクタン、CNG燃料はRONオクタン価130だ。
GTIエボは、圧縮比12.5、吸気早閉じによるミラーサイクルで、可変ジオメトリーターボにより吸気早閉じによる吸気量不足をカバーする。CNGでの燃焼は理想空燃比で行なわれ、最高排気温度は800度Cと、ガソリンの場合より低くなる特長を持つ。
最新の電動VTGターボは、ミラーサイクル運転とは切っても切れない関係にある。ミラーサイクルが持つ充填効率の悪さをカバーし、同時に排気ガスの積極的な掃気効果も得られるからだ。またCNGは耐ノッキング性能が優れているため、低回転、大負荷でもノッキングが発生しにくく、その時の大きな排気圧力をターボが利用することができる。このためTGIエボは1400rpmで200Nmを発生し、5000rpmで130psを発生する実力で、ドライバーはCNGでの運転でも何らストレスを感じることはないのだ。
TGIエボは排気温度が低いため、触媒は加熱するシステムとしている。ウォームアップ中でも触媒のしきい値である500度Cに、より早くするため点火時期の遅角を行なう。シリンダーヘッドはTSIエボをベースとしながらもさらに改良され、よりコンパクトな燃焼室として冷却損失を抑え、冷却水路も改良されている。
バルブ駆動部も改良され、バルブギヤ式にモジュール化されている。これは、生産時にカムシャフトが一体型ヘッドカバーに挿入される構造になっている。その際には液体窒素で冷却されることでヘッドカバーのホルダー部への挿入がスムーズになり、常温になるとしっかりとシリンダーカバーのホルダーで保持されるという。
また、このエンジンはミラーサイクルなので、ポート部の精度ばらつきにより吸気の充填効率が大きな影響を受ける。そのため、ピストンとバルブ位置との間の公差管理は極めて高精度に行なわれている。正確なバルブタイミングを決定し維持するために、カム角度の偏差、吸排気カムシャフトのセンサーからの実際の信号、そしてクランクシャフト角度センサーの信号との整合が生産時に厳密に行なわれるようになっており、カムシャフト角度の誤差は0.15度以内とされている。
さて、この最新の1.5L TGIエボ・エンジンはゴルフTGIブルーモーションに搭載される。MQBプラットフォームを採用した結果、3本の円筒形のCNGタンクも無理なく搭載されている。ガスタンクは114.5Lの容量で、200barのCNGで18.5kgに相当する。12Lの容量を持つ補助ガソリンタンクはリヤ・アクスル前側にレイアウトされている。NEDCモードでのCNGの航続距離は500kmと、十分に実用的な距離を確保している。さらにガソリンを使用して190km走行することができる。
エンジン・パフォーマンスは、CNG、ガソリンのいずれでも130ps、最大トルクは200Nm/1400-4500rpm。そして0-100km/h加速は9.6秒、最高速は206km/h、燃費はCNGで0.034kg/L、CO2排出力は93g/kmと優れた性能を発揮している。