【フォルクスワーゲン】XL1海外試乗記「燃費世界一のクルマに乗ってみた」レポート:ピーター・ライオン

マニアック評価vol179

2013年ジュネーブショーの目玉のひとつ、XL1に試乗する機会が訪れた!

大きくてパワフル。それが今までのスーパーカーの定義だったが、ジュネーブショーでこれまで概念とはまったく異なるスーパーカーが現れた。コンパクトで軽量で、しかも世界一の燃費を誇る。それが21世紀の新しい形のスーパーカー、フォルクスワーゲン「XL1」だ。ジュネーブ・モーターショーの会場周辺の一般道で、このXL1を試乗する機会を得たので、早速そのレポートをお伝えしよう。

リアタイヤをカバーするなどして、空気抵抗Cd値は世界一の0.186をマーク

XL1は10年以上前に、当時社長だったフェルディナント・ピエヒ氏の「ガソリン1Lで100km走れるクルマを造りたい」というビジョンから生まれている。2011年のカタール・モーターショーでコンセプトカーとして発表された際に写真で見たことがあるが、XL1に試乗するのはもちろん今回が初めてのことになる。XL1は決して速くはないだろうけど、滑らかな外観は飛行機のように風を切る姿を想像できる。まるで1930年代のレーシングカー、メルセデスベンツW25の天才的な空力デザインにインスピレーションを受けたかのようだ。

走行中のXL1をリアから眺める。まるで航空機のようなスタイルだ

目の前に現れたXL1はまるでタイムマシンだった。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンみたいなガルウィングのついたXL1に乗り込んだ時に、2030年へとタイムスリップしてみようかな? と思ったほど。そういうことができそうな可能性を感じてしまうくらい、不思議なクルマだ。

ガルウィングドアを開けて、分厚いサイドシェルをまたぐようにしてお尻からコクピットへと入った。その動作はまるでレーシングカーのようでもある。

XL1のデザインはノーズが短く、長く伸びていくリヤセクションでは、リヤタイヤを覆うホイールカバーが目に付く。「風洞での実験で自然にリヤタイヤにはカバーをつけることになった」と、VWグループのデザイン担当取締役のデ・シルバ氏が言う。これらも合わせてXL1の空気抵抗Cd値は、何と世界一の0.186となった。そのためにサイドミラーは装備されず、代わりに両サイドには小型CCDカメラが設置されている。

超軽量化を狙った作りは、F1流のカーボンファイバーのモノコックをベースにし、 マグネシウム製ホイールと転がり抵抗の低い超薄型タイヤを履いている。このフォルムは14年前の初代ホンダ・インサイトに少し似ていると思うが、技術的には、インサイトが20世紀のクルマで、XL1は21世紀のクルマ。そのぐらい違うんだと思う。

運転席に座ってみると、「なーんだ、コクピットは普通のポロのよう」と感じさせる。最近のVWの室内の質感レベルは業界一なので、XL1のインテリアのデザイン、仕上がりは量産車そのもので、質感も高い。コックピット周りは量産車レベルだが、その一方でリヤウインドウがないので後方の視界はゼロだ。その課題を乗り越えるために、ドア内側に付くモニターで車両後方周辺を確認する。このモニターはiPhoneみたいだ。

シートは薄型で、ポジションも楽にとれる。全幅を抑えるために、「助手席を少し後ろにスタッガードさせた」とVW研究開発担当のハッケンベルグ氏が語っていた。前後にズレているため、運転席と助手席で肩がぶつからないというわけだ。

通常のハイブリッド車と同様に、スタートボタンを押すと電気モーターが作動し「レディ」状態になる。アクセルを踏み込まなければエンジンは作動しない。このXL1に搭載され後輪を駆動させるのは、プラグインのハイブリッドシステム付のディーゼルターボ、800ccの2気筒エンジンだ。この2気筒ユニットはポロの4気筒の1.6Lディーゼルを半分に切ったもので、振動を抑えるためにバランスシャフトを装着する。エンジンは47psを発揮し、電気モーターが27psを発生し、合計で68ps。

発進すると、XL1はモーターだけで静かに動き出す。インパネの中央に配置されたパワーフローのモニターには、バッテリーからモーターへの矢印が点滅する。加速するとエンジンが作動すると同時に、リヤミッドシップのエンジンから後輪に矢印が動き出す。ハブリッドの切り替えはシームレスだが、エンジン音は何か懐かしい感じで、70年代の空冷ビートルとトラクターを足して2で割ったようなという音だ。車重が800kgを切っているのと、音を通しやすいモノコック構造になっているので、エンジン音がダイレクトにキャビンに忍び込む。

0-100km/h加速が11.9秒、最高速度160km/hとXL1は決して速くはないが、ターボとモーターの恩恵でパワー不足を感じることはない。高速道では静粛性も案外といい感じだし、下り坂ではエンジンがストップして電気で走り燃費を稼ぐ。

未来的フォルムのXL-1。乗り心地は少々堅めだが、ハンドリングはシャープ

乗り心地は多少固めに感じるが、長距離をドライブしても疲れることはないだろう。ハンドリングではターンインのとき意外にシャープで手応えがあり、狙ったラインを上手くトレースしてくれる。ブレーキディスクはセラミック製だし、ペダル剛性も高くて制動力に文句はない。前方の視界があまりにも低くてスポーティなのと、DSGの変速も超スムーズなので、まるでゲームのグランツーリスモをやっているかのような錯覚を覚えるときもあった。

ビューモニター(左端)がある以外は今までのクルマとそう雰囲気は変わらないが、確実に未来のクルマと実感した

燃費は111km/L(NEDC)、CO2排出量も25g/kmと、XL1は間違いなく世界一燃費のよいクルマといってもいいだろう。2013年中には発売され、台数は限定250台。気になる価格は600万から1000万円の間に設定されるとのことだ。

XL1のステアリングを握ってみると、まさに近未来に行って帰ってきたという感じだった。いやそれ以上の体験かな。ガルウィングのドアを開けて乗り込んだXL1は、月まで飛べる宇宙船、いや映画バックトゥザフューチャーで主人公たちを過去や未来へと自在へと運んだタイムマシン(あちらはデロリアンだが)と共通点があるような気がした。

「2050年までに地球温暖化を制限するには、僕らが乗る一般車はこのXL1と同様の燃費やCO2レベルに達していなければならない」とはVWグループのウィンタコーン社長の言葉だ。そういう意味でこのXL1は、自動車の未来へと運んでくれるタイムマシンだ。この画期的なクルマを超える物は、そう簡単には現れないだろうね。

フォルクスワーゲンXL1主要諸元

フォルクスワーゲン公式サイト

COTY
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