本編記事のアウディA3スポーツバックg-tronが開発された記事で、「なんだか凄そうだ」という印象があるものの、具体的に何が凄いか良く分からないという声がある。そこで、簡単に整理してみた。
まず、自動車メーカーが製造する際に排出されるCO2を削減するというのは大命題として、各社が取り組んでいる。そして個体となったクルマからもCO2が排出されている。今回、ジュネーブショーで発表したg-tronは個体としてCO2排出量が少なく30g/kmである。
実は、フォルクスワーゲングループ全体で2020年に企業平均CO2排出量を95g/km以下、燃費4.0L以下/100kmにするという目標を発表している。VWが製造する245車種はすでに排出量が120g/km以下のレベルを達成しており、36車種は100g以下/kmも達成している。
そしてジュネーブショーでは、「アウディA3 g-tron」と「VW ゴルフTGIブルーモーション」というCNG(圧縮天然ガス)とガソリンを燃料とするバイフュエル2車種を発表した。この2車種は単に新しいバイフュエル車というだけではなく、VWグループのCO2削減計画を象徴する車種という意味を持っているのだ。
2020年に向かってのロードマップでは、「Well to Wheel」(製造からホイールで走るまで)でCO2排出量が抑えられるという天然ガスの利用がクローズアップされるが、同時に社会全体で見ると再生可能エネルギーを利用した発電(グリーン電力)の比率を高めることでもさらにCO2排出量を抑えることができるとされている。
そこで、A3 g-tron、ゴルフ TGIブルーモーションに使用される燃料は、グリーン電力(風力発電)を利用して水素を生産し、CO2と合成することで天然ガスと同等のメタンガスを得る新技術を開発したのだ。VWグループが専用工場で合成により作り出した、再生可能化学合成メタンガス=e-gasの成分は、天然のメタンガス(CH4)とまったく同じというものだ。それでA3 g-tronでは、このメタンガスを燃料タンクに保存し、状況に応じて減圧しエンジン燃焼室に送り込み走行する。これがひとつ目の凄いこと。またガスを消費した後は通常のガソリンエンジン車として走行できる。つまりメタンガスで走行し、ガス欠したらガソリンに切り替えて走る。
では、このe-gas(天然ではないメタンガス=生成した再生可能化学合成メタンガス)をどうやって作り出すのか? それは電力で水を電気分解し、まず水素(H2)を作り出す。このクリーンに生産された水素は将来的には燃料電車に供給することも想定されている。
現時点ではこの電気分解され生じた水素とCO2(二酸化炭素)を合成することでメタンガスを生成している。従来は水素とCO(一酸化炭素)を合成することでメタンガスを生成する方法は確立されていたが、CO2と合成するところがミソだ。CO2と水素の合成については詳細発表がされていないが、新たな技術が採用されているはずだ。
そして、VWグループは水の電気分解に使用する電力を風力発電でまかない、化石燃料をまったく使用せずにメタンガスを作るプロセスを作り出した。これが凄いのふたつ目。
ここまでまとめると、燃料となるe-gasをつくるのに水(H2O)から水素(H2)を取り出し、二酸化炭素(CO2)を何らかの方法で分解し、水素(H2)と反応させe-gasを作る。化学合成されたe-gasは天然メタンガスとまったく同じCH4という化学式で表される。で、冒頭にあるようにこのe-gasを車載し、カセットコンロのガスボンベのように保存し、エンジンには圧力を可変できるインジェクターで噴射し燃焼させているのだ。
つぎに、生成されたe-gas=CH4は燃焼させることができるので、電力を生み出すことも可能(火力発電)。だから風力発電でつくられたe-gasはカタチを変えているが電力を保存できるということになるわけだ。もちろん既存の発電所から送り出される電力も、このメタンガス生成により電力を貯蔵できる。これが凄いの3つ目。
電力はご存知のように蓄積できない。原発問題で取り沙汰されたことで再認識させられたが、蓄えられないから発電し続けなければならず、いわば垂れ流しでありサスティナブルとの乖離がある。従ってこの壁を越える新たな革新的技術ということだ。
さらに、水(H2O)を分解してつくる水素(H2)は燃料電池として使える。燃料電池は水(H2O)の電解の逆で、水素(H2)と酸素(O2)から電気を作る方法で、その容量は燃料電池車全体の1日分の量が生成できるというのが凄いの4つ目。しかも現在建設中のドイツにある工場は、この能力をすでに持っている設計だから、夢のような話ではなく、現実にエネルギー連鎖を考え出してしまったということなのだ。
最後にこのe-gasの供給についてだが、前述のように天然ガスと同じ成分をもっているので、既存のパイプラインに充填できるというのが凄いの5つ目。天然ガスのパイプラインが欧州全土でネットワーク化されており欧州の各地でガスステーションは存在しているという。したがって、新たにつくられたe-gasは簡単に一般ユーザーの手元に供給できるインフラが整っているという点もインフラとしての親和性が高いといえる。
上記を踏まえ、再度コチラを読んで欲しい。