2013年2月21日、ウォルフスグルグのVW本社は、燃費性能世界一の「XL1」を量産車としてジュネーブモーターショーでワールドプレミアを行い、近日中に市販することを発表した。プラグインハイブリッドシステムを採用した「XL1」は、燃費0.9L/100km(111km/L:新欧州ドライビングサイクルモード計測)を達成し、50kmをモーターのみで走行できる性能を備えた2シーターだ。
VW社の1.0L/100kmという燃費への挑戦は、2002年のピエヒ会長が自ら開発を指揮した「1Lカーコンセプト」からスタートし、2009年には第2世代の「L1コンセプト」がフランクフルトショーで登場。そしてさらに大幅な技術革新を加え、第3世代の1Lカーとして2011年に登場したのが、「XL1コンセプト」だ。そして今回のジュネーブショーで、ついにこのコンセプトカーが市販前提の量産モデルとして登場することになった。
「XL1」はVWのフェルディナント・ピエヒ氏(前VW社・会長、現監査役会・会長)の執念を感じさせるクルマで、実際にピエヒ氏は「1Lで100km走れて日常的に使用できるXL1を市場に投入する運びとなり、2000年代を迎えるにあたって掲げた我々のビジョンが現実のものとなりました」と語っている。
市販モデルの「XL1」は、まるで手作りのレーシングカーのようなデザインだが、ニーダーザクセン州のオスナブリュック工場で量産される。この工場はカルマン社の工場でもあり、ゴルフ・カブリオレ、ポルシェ・ボクスターが生産されているが、XL1は新開発された独自の革新的なラインで製造される。この工場では、オーストリアのサプライヤーで製造されたモノコックが運び込まれると、新開発の高精度な接着などを多用するアッセンブリーシステムで組み立てられるのだ。
「XLl」のボディ重量はアウターパネル、モノコック、ガラス類を含み230kgと超軽量だ。モノコックもボディパネルもすべてカーボンファイバー(CFRP)を使う「XLl」の狙いは、2013年中にオールカーボン・ボディで販売予定のBMW i3に先んじるという思惑も含まれている。しかも「XL1」はスタビライザーまでCFRP製であるなどカーボンによる軽量化は驚くほど徹底してる。
すべてのカーボンは自動化されたRTM(金型を使用したレジン・トランスファーモールディング)製法で製造され、厚さ1.2mmというアウターボディパネル部だけでもスチール製の20%の重量しかない。自動化されたRTM製法は、レーシングカーに多用されるプリプレグ・カーボン(樹脂含浸カーボン布織)の張り合わせ製法に比べ、量産性に優れ低コストなのだ。RTMで製造されるカーボンパーツは多層構造で、金型は加熱されバキューム吸引と高圧によりレジン樹脂が注入されることで成形される。
「XLl」の車両重量は795kgで、その内訳は、エンジン/トランスミッション/バッテリーが227kg、サスペンション/走行部品が153kg、内装・装備品が80kg、電動システムが105kgとっている。比率では「XLl」の21.3%にあたる169kgがカーボン製部品、22.5%が軽合金部品(179kg)、23.2%(184kg)がスチール部品となり、残余の重量は樹脂部品、ピロカーボネートガラス、電子部品などであるという。
「XLl」は高強度のカーボン製モノコックを備えているため、乗員保護から見た安全性も傑出している。モノコックはサンドイッチ材が内蔵され、衝撃を分散させることが可能だ。またモノコックの前後に装備されるアルミ構造部が、前後からの衝撃を効果的に吸収する。同様に頑丈なカーボンドアの内部はアルミ製のインパクトビームを内蔵。さらにウイング式ドアは横転事故の場合でも確実に開く構造となっている。
「XLl」は、Cd=0.189という空力ボディに、800ccの2気筒TDIディーゼル(48ps)エンジン、20kWの出力を持つモーター、7速DSG、リチウムイオンバッテリーを搭載し、家庭電源で充電できるプラグインハイブリッド・システムとしている。このTDIエンジンは1.6LTDI・4気筒エンジンの2気筒を使用しているが、もちろんXL1用に専用チューニング済みだ。独自のピストンやコモンレール・インジェクターを備え、フリクションの低減も徹底されている。また振動を低めるためにバランサーシャフトも装備。EGRシステム、酸化触媒+DPFを備え、ユーロ6規制に適合している。
バッテリーの容量は5.5kWh。モーター用の電圧は220Vだ。バッテリーの電力だけで50kmを走行でき、複合燃費は0.9L/100km 、CO2排出量は21g/kmという燃費性能を実現している。これはもちろん世界トップの燃費である。プラグインハイブリッド・システムであるため、都市部などでの近距離使用がメインであればエンジンを使用せず、減速エネルギー回生と家庭充電の利用によりEVとしても使用できる。常識的なプラグインハイブリッドカーよりはるかに電力容量の小さいバッテリーであるにもかかわらず、EV走行が50kmとしているのは超軽量ボディの大きな効果である。
シートは横方向にオフセットされた2座席で、タンデム式2座席より実用性が高くなっている。また「XLl」は燃費性能だけではなく、まったく新たなドライビングプレジャーを味わうことができる。動力性能は、0-100km/hは12.7秒、最高速は160km/hでリミッターが作動する。エンジンのトルクは120Nmを発生し、全力加速のブーストモードでモーターのトルクが加わると最大トルクは140Nmとなり、超軽量なクルマならではの、これまで体験したことにない走りを実感可能だ。
「XL1」のボディサイズは全長3888mm、全幅1665mm、全高1153mmで、全長、全幅はVW ポロよりわずかに小さく、全高はポルシェ・ケイマンより低い。 左右のドアはスイングアップ・タイプで、ヒンジはAピラー根元とルーフレール部の2ヶ所だ。またドアミラーはなく、左右のドア部に後方視認用のカメラが装備され、キャビン内のディスプレイに映し出される。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤはセミトレーリング式で、軽量コンパクトにまとめられ、カーボンモノコックにダイレクトマウントされている。サスペンション、ダンパー、ブレーキ・キャリパーなどはすべてアルミ合金製、スタビライザーはカーボン製だ。またブレーキディスクはセラミック製、ホイールはマグネシウム製などシャシーの軽量化も徹底している。
タイヤは「XL1」専用に開発された低転がり抵抗タイヤで、フロントは115/80R15、リヤは145/55R16という細いスペシャルタイヤだ。
「XL1」は量産モデルとはいえ、いわゆる大量生産モデルではないのは言うまでもないが、性能追求のためにコストを惜しまず現在持っている技術をすべて投入し、世界一の燃費性能と日常での実用性を実現したといえる。気になる販売価格は?
■ゴルフGTIとGTDもワールドプレミア
なおVWはジュネーブショーで、予想された通り「ゴルフGTI」、「ゴルフGTD」のワールドプレミアも行われる。
GTIは2.0LのTSIエンジンで、スタート&ストップ付きエンジンを搭載。トランスミッションは6速MTと6速DSGが設定されている。最高出力220ps/4500-6200rpm、最大トルク350Nm/1500-4400rpmのGTIベースモデル以外に、より高出力の最高出力230ps/4700-6200rpm、最大トルク350Nm/1500-4600rpmの「GTI パフォーマンス」が設定される。「GTI パフォーマンス」はブレーキやサスペンションもベースモデルより強化されている。ドイツでは3月末から発売が開始される予定だ。
ゴルフGTI 2.0 TSI諸元表
ゴルフGTI 2.0 TSI Performance諸元表
ゴルフGTDはゴルフ7をベースに、強力な2.0LのTDIエンジンを搭載。184ps、380Nmを発生する。この直噴ターボディーゼルは圧縮比15.8とされている。トランスミッションは6速MTと6速DSGが設定されている。
燃費は4.2L/100km、CO2排出量は109g/km。ユーロ6規制適合だ。ガソリンエンジンのGTIに相当するこのGTDの動力性能は0-100km/h加速が7.5秒、最高速は230km/hの実力を持つ。
ゴルフGTDは、アウトバーンなどを利用した長距離ツーリングでの活発な走りと、燃費のよさを訴求するディーゼル・スポーツモデルといえる。