マニアック評価vol160
このところフォルクスワーゲンの勢いが止まらない。今、VWが目指しているのは輸入車メーカーNO1の販売数の座を維持することではなく、国産車市場に食い込むことにモチベーションがあるのだ。もちろん、販売台数を大幅に増やすのとイコールだが、そのためには国内の需要に応える必要があり、続々この先も魅力的なVW車が投入されてくるのは間違いない。今回試乗したのはCセグメントのSUVでダウウサイジングしたFFのティグアン。投入の背景を含め早速試乗レポートをお送りしよう。
フォルクスワーゲンが、国内CセグメントのSUVマーケットに投入するにあたり、ティグアンのFFモデルが最適と判断し投入してきたのが2012年11月のこと。このセグメントでは250万円から300万円超えまでが量販ゾーンで、当然国産車がメイン。輸入車となると350万円を超えないと商品がラインアップしないセグメントでもあった。しかし、FFティグアンは339万円という価格を設定し、国産車と勝負できる戦略的な価格で市場投入をしてきたのだ。
それでも国産車に比較するとやや高めとなる価格だが、そのモデルの持つ魅力は大きい。まず、環境性能ではCO2排出量を削減するためのお家芸、ダウンサイジングを行い、これまで2.0Lが中心だったティグアンに1.4Lのツインチャージャーを搭載したブルーモーション テクノロジーを投入。排気量を下げつつ失うパワーはターボとスーパーチャージャーを使い150ps/5800rpm、240Nm/1500-4000rpmの出力を確保。さらに6速のツインクラッチ湿式DSGで、2ペダルでありながらダイレクトな変速ができるトランスミッションを搭載している。そしてJC08モード燃費は14.6km/Lでエコカー減税75%を取得している。
つまり、排気量が小さい魅力をアピールし、ツインチャージャーとDSGというテクノロジーの魅力を見せ、CO2、燃費性能が良いというポイントを挙げている。
次に、FFティグアンを投入するに至るもうひとつの背景に、国内需要においてSUV市場が活性化しつつあることと、コンパクトなSUV市場ではFFなどの2WDモデルが主流でSUV=4WDである要求度が低いこともあった。つまり走破性が高く大型のサイズが好まれた時代から、この10年で、取りまわしがしやくすコンパクトなサイズで環境性能がよく、アーバンライフにマッチするものが好まれる傾向に変化してきているとマーケティングデータを読み解いたという。
これは、FFティグアンを投入する絶好のタイミングと判断し、フォルクスワーゲンのブランドを持ちながら、国産SUVと勝負できる価格とし、さらに、走行性能ではしっかりアウトバーンを快適に走ることのできるドイツ車の魅力を持っていることを武器に勝負に出てきたと思う。
その結果、モデルラインアップを3モデルに絞り、このFFモデルであるTSIブルーモーションが339万円で設定。専用エアロパーツ、18インチアルミ、スポーツサスペンションなどのR-Lineパッケージモデル(FF)が379万円、そして従来からの4WD 2.0LのR-lineが426万円というラインアップになった。
試乗したFFティグアンは、「ティグアンTSI ブルーモーション テクノロジー」という車名で、箱根のワインディングでテストドライブをすることができた。
1540kgの車重を150ps/240Nmでまかなうには十分力強く、そして低回転から最大トルクを発揮するTSIエンジンはストレスなくレスポンスをしてくれる。たとえ箱根のワインディングでも力不足を微塵にも感じることはなく、快適に走破する実力はある。アクセルの踏み具合と実際の加速フィールとのリニア感もバッチリで、排気量を下げた分、アクセルの早開きで加速フィールを作るというセコイことはやっていない。
ハンドリングや乗り心地は従来のティグアンと変わりなく、フォルクスワーゲンの味が存分に漂う走りになる。FF、4WDの違いを感じることもなく、また、微小舵角から素直にクルマは反応し、そして直進安定性の高さは特筆ものだ。このあたりの走行性能はVWのセールスポイントとなる部分で、ドライバーの期待値どおりにクルマを走らせることができる。また、高いアイポイントのSUVだけにロールフィールと回頭性を、ドライバーにどのように感じさせるか、というのは開発において重要なポイントであり、フォルクスワーゲンのSUVで定評のある部分だ。
コースティングモードもドイツ勢が先行している技術で、走行中にアクセルペダルから足を離したときに、トランスミッションとエンジンが切り離され、滑空モードとして走行する機能だ。こうすることで無駄な燃料を消費しないで済む新技術である。ドライバーは特に何も意識することなく、スロットルのオン/フを通常のクルマを運転するのと同じでかまわない。スロットルを踏まない間は自動的に滑空する。まるで空飛ぶじゅうたんのように、滑らかに走る。
さらに、ナビゲーションでも国際標準化された最新の車両通信システム、DSRC機能を持つVW純正ナビゲーション「712SDCW」とリヤビューカメラを標準搭載している。この最新式のナビはITSスポットに対応し、また2年間の無償地図更新、オンライン交通情報探索など最新の機能を持っている。さらにipod/iphone接続でニュース、天気、SNSの情報閲覧も可能で先進のエンターテイメントも備えているのだ。
こうして国産車がマジョリティのセグメントにおいて、高い環境技術とフォルクスワーゲンの走りの性能を持ったFFティグアンがどこまで販売数を伸ばしていくのか興味深い。