【フォルクスワーゲン】Specialist海外試乗 無敵を誇るポロに搭載した気筒休止エンジン 1.4LTSIブルーGT レポート:石井昌道

マニアック評価vol133
ポロ・ブルーGTは、1.2LターボのTSIコンフォートライン/ハイライン(105PS/175Nm)と1.4LツインチャージャーのGTI(179PS/250Nm)の間に位置するグレードだ。VWが環境対応技術に用いるブルーと、GTをかけ合わせたネーミングから低燃費とスポーティを両立していることがわかる。

気筒休止エンジンを搭載したポロ・ブルーGT

確かにTSIとGTIにはパフォーマンスで大きな差があったのですんなりと納得できるグレード追加ではあるが、エンジンの内容をみれば単純に商品企画的な要件で”置き”にきただけのモデルではないことは明白だ。穴埋めだけだったらゴルフTSIコンフォートラインなどに使われている1.4Lターボ(122PS/200Nm)あたりでも十分なところを、ブルーGTはまったく新しい1.4Lターボを仕立てて搭載してきたのである。
この新しいエンジンは最高出力140PS/5600rpm、最大トルク220Nm/1500rpm-3500rpmとパフォーマンスが高められた1.4TSIだが、第一の注目ポイントはACT(アクティブ・シリンダーマネージメント)と呼ぶ気筒休止システムを採用したことにある。

V型エンジンの片バンクを止めるシステムを始め6気筒以上ではいくつも例があるが、直列4気筒で行うのは珍しい。ハイブリッドカー以外では1980〜1990年代に三菱が実用化しているが、その頃の制御技術やスロットルシステムではスムーズさに欠けて長続きはしなかった。

ACTは低〜中負荷時に2番、3番のシリンダーの燃焼をとめて燃料改善を図る。ちなみに1番、4番ではなく中央の2気筒を休止することに大きな意味があるわけではなく、単に周辺機器の取り回し上でやりやすかったからだそうだ。

試乗インプレッション

ポロ・ブルーGTの国際試乗会の舞台に選ばれたのはオランダ・アムステルダム近郊。国土の1/4が海抜ゼロメートル以下で起伏も少ないオランダは、ワインディングがほとんどないため通常は試乗に向いているとは言いがたいが、その平らで真っ直ぐな道路ばかりという環境は、低〜中負荷領域で作動するACTを試すには絶好だった。

国際試乗会はオランダで行われた

まずは欧州としてはゆっくりとした50km/h〜60km/hで流れる一般道で試乗。発進からアクセルを踏み込んでTSIらしい低回転・大トルクでスルスルと加速していき、60km/h到達時点で速度を保てるだけのアクセル開度となったところでメーター内のマルチファンクションインジケーターに目をやる。すると「2Zyl-Modus(ドイツ語で2気筒モード)」と表示され、気筒休止システムが作動したことを知る。そのまま60km/hを保つ、あるいはごく軽い加速をするだけなら2気筒モード。アクセルをスッと踏み増すと4気筒モードへ移動していく。

↑1.4LのTSI。走行中気筒休止し2気筒になるとインジケーターに表示される

その際のショックや不自然な前後G変動は最小限に抑えられており、過去に経験したいくつかの気筒休止システムのなかで最良の部類と言える。トヨタやホンダのハイブリッドカーでモーターのアシストとチャージが転換するときに比べても自然なフィーリングだ。

どれぐらいまで2気筒モードのまま加速できるのか、慎重にアクセルを踏み増したときにはヒュルヒュルという明らかに通常とは異質のエンジン音と振動が感知できたが、それもごく小さく気になるレベルではない。オーディオをかけていたら気がつかないだろう。

高速道路でも100km/h程度なら結構頻繁に2気筒モードになるが、120km/h巡航になると負荷が大きくなりほとんど4気筒モードになる。つまり、日本の法定速度内ならば、ACTの作動頻度は高いということになる。

ACTが作動するのはエンジンが1400rpm〜4000rpmで発生トルクが25Nm〜100Nmの間。2気筒モードと4気筒モードの切り替えは13〜36/1000秒で完了する。

メカニズム

燃料消費削減はポンピングロス低減によるところが多いという。プレミアムブランドではないフォルクスワーゲンとしては対費用効果をシビアに見極める必要があるが、可変バルブリフト・システムを使うよりもローコストで済むための選択だそうだ。

ユニット重量はわずか3kgでアクチュエーター、カムシャフト、ベアリングフレームはエンジンのシリンダーヘッドに内蔵されるから、スペース効率にも優れている。今後、直噴ターボ系では採用を拡大していく見込みだ。しかし、電気モーターを組み合わせてハイブリッド化する際には、EV走行でエンジン自体を休止させられるのでACTの必要はなくなる。

ACTによる燃費改善効果は欧州モードで0.4L/100km、市街地のみなら最大1L/100km、5速70km/h巡航で0.7L/100km。ブルーGTは4.5L/100km(約22.22km/L)だから、ATCがなければ4.9L/100km(約20.4km/L)だったということになる。ちなみに日本のJC08モードで21.2km/Lの1.2L TSIブルーモーションテクノロジーは、欧州モード燃費は5.0/100km/L。

ブルーGTはスポーティな銘柄の215/40R17のタイヤを履いていることを考えれば、新1.4TSIはACT抜きでもかなりの高効率化が図られていることがわかる。

じつはこのエンジン、これまでの延長線上というわけではなく、1.0L、1.2L、1.4Lと3つの排気量を新たに開発したEA211シリーズと呼ばれるニューファミリーなのだ。シリンダー間隔はすべて82mmと共通化されている。そのうち1.0Lは3気筒のMPI(マルチポイントインジェクション)ですでにup!に搭載。1.2Lと1.4Lは直噴&過給機でTSIとなる。

なぜこのタイミングで刷新されたかというと、すでに発表されているMQB(モジュラートランスバースマトリックス)と呼ばれる新しいプラットフォーム戦略に対応するためだ。MQBはポロからパサートまで、フロントアクスルとABCペダルの間をモジュール化してスケールメリットを最大限に得ようという戦略。そのため、EA211シリーズもマウント等は共通化されている。また従来のガソリン・エンジンは前方排気で前傾搭載され、ディーゼルは後方排気で前傾搭載されていたが、MQBでは共通化が図られる。そのためブルーGTも従来型プラットフォームながら後方排気となっている。

新1.4TSIは超高剛性アルミダイキャスト製クランクケースを採用しており鋳鉄ブロックの従来型1.4TSIに比べると、エンジン重量は25kg減の114kgと極めて軽量に仕上がっている。メインベアリングの径が54mmから48mmに縮小されたクランクシャフトは20%軽量化、ベアリングピンを中空としたコネクティングロッドは25%軽量化などがその内訳だ。

また、サーマルマネージメントにも取り組み、始動後素早く暖まり、高負荷時には効率良く冷却するためにエキゾーストマニホールドをシリンダーヘッドと一体化し、そこに冷却通路を設けている。

DOHCのドライブ機構はチェーンではなく、シングルステージコグドベルトとして内部抵抗を低減。これまでコグベルトは耐久性に課題があったが、素材の見直しによってクルマの寿命と同じにすることができたという。

インジェクターも最新のもので、従来は6穴で最大噴射圧150barの2段階噴射だったが、今度は5穴で最大噴射圧200barの3段階噴射となっている。

この新1.4TSIはEA211のなかでパフォーマンスが高い部類になるが、現行プラットフォームのブルーGT搭載でCO2排出量は105g/kmにすぎない。さらに燃費志向のエンジンが展開され、ディーゼルもあることを考えれば、フォルクスワーゲンにとって2015年のCO2排出量規制は高いハードルではまったくなく、95g/km程度になるといわれる2020年規制も十分にターゲットに入っていると見ていいだろう。

EA211から見えてくるのは2018年までに年間販売台数1000万台超で利益率を8%以上にするというStrategy2018というコミットメント、および販売台数世界一、環境性能世界一という野望に向けて着実な足固めができているということだ。今でさえ世界のトップ3の規模を誇りながら、どこよりもスケールメリットを追求して低コストで品質・性能の高い商品を提供することになるのだから、他が太刀打ちするのは相当に難しくなる。まさに盤石。

ここまでくると、「月夜の晩ばかりだと思うなよ」と無駄に嫌味のひとつでも言いたくなるぐらいだ。

モータージャーナリストの石井昌道氏

フォルクスワーゲン公式サイト

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