1兆3000億円を超える投資により全てを一新した新世代ボルボの第1弾が、2016年1月末に発表された。オールニュー「XC90」の登場だ。ボルボのような小規模の自動車メーカーにとっては、新プラットフォーム、新世代エンジン群を一挙に開発するのは投資額や開発工数を考慮すると、途方もなくハードルが高いことは容易に想像できるが、ボルボは果敢に挑戦した。
■デザインコンセプト
これまでのボルボ・デザインは、ダイナミックでエモーショナルな感性を前面に打ち出したピーター・ホルベリーはジーリー(吉利自動車)に移籍。その後を受け継いだチーフ・デザイナー、トーマス・インゲンラートはボルボのデザインに新たなフェイズをもたらすことになった。
トーマス・インゲンラートはフォルクスワーゲン・グループでシュコダ、フォルクスワーゲンのコンセプトカーデザインを担当していた。ボルボに移ってからはコンセプト・クーペ(2013年:フランクフルトショー)、コンセプト・エステート(2014年:ジュネーブショー)をデザインし、そして満を持して今回の新型XC90のデザインをデビューさせた。
トーマス・インゲンラートはボルボのアイデンティティとスカンジナビア・デザインを洞察し、静寂、落ち着きのある、内面に秘めた美を追求するという新たな境地を切り開いたのだ。インゲンラートは、「表面的な存在感の強調や自動車デザインの主流に追従するようなことはせず、新たなプラットフォームをベースに、スカンジナビア・デザインの証である抑制され、自信に満ちた美しさを追求した」と語っている。
XC90は、ボルボのデザイン・アイデンティティはもちろん、新たなデザイン・アイコンとなる北欧神話に登場する雷神の持つハンマーをイメージしたヘッドライト、そして上質さを徹底したクラフトマンシップなどの要素を生かし、新世代プラットフォームならではのフォルムを生かしている。
さらに、ベントレーから移籍してきたインテリア・デザイン担当のロビン・ペイジは、かつてない高品質のクラフトマンシップを生かしたモダンなインテリアを生み出した。したがってXC90のインテリアは、その後「インテリア・デザイン・オブ・ザ・イヤー(量産車部門)」を受賞している。
ロビン・ペイジは、「新しいXC90のインテリア・デザインは、ボルボのパラダイム・シフトが反映されたものです。ボルボは豊かな所有体験を創造することに重点を置いています。ウッドやレザー、そしてクリスタルといった天然素材を用いることで、ドライビングに静けさと安らぎを与えています]と語っている。
そのため、インテリアは宝石のようなカット処理をした金属製ダイヤルや、上級グレード用にクリスタルガラス製のシフトセレクター、高級感あふれるステッチを採用した本革シート処理など、これまでのプレミアム。クラスの常識を破る洗練された、高い質感を実現している。
こうしたデザイン哲学からもわかるように、新型XC90はボルボのフラッグシップというだけではなく、ボルボという自動車メーカーを既存のプレミアム・ブランドとは異なる価値観、表現手法で位置付けるという役割を担っているのだ。
■新世代プラットフォーム【SPA】
新型XC90のボディサイズは、全長4950mm×全幅1960mm×全高1775mm(エアサスペンション車は1760mm)、ホイールベース2985mmと大柄で、アメリカ市場でいうミッドサイズSUVとなる。もちろんメイン市場はアメリカ、中国だ。ライバルはBMW X5、メルセデス・ベンツGLE、アウディQ7、レクサスRXなどだ。新型XC90のキャラクターとしてはクロスオーバーに近いSUVだが、最低地上高は225mmでフロードでの適合も十分考慮されている。
新型XC90は、ボルボが新開発したスケーラブル・プラットフォーム・アーキテクチャー(SPA)を採用した1号車である。ボルボはミッドクラス用のSPAと、小型クラス用のコンパクト・モジュラー・アーキテクチャー(CMA)という2種類を企画し、CMAの1号車は2017年に登場すると発表されている。
この2種類の新世代プラットフォームを使用し、年間販売台数80万台を達成することを目指しているのだ。そのためこの2種類のプラットフォームはパワートレーン(エンジンとプラグインハイブリッド)、インフォテインメント、空調システム、データネットワーク、安全システムがモジュール化されている。
SPA、CMAはいずれもモジュール設計とし、車両サイズは各種のボディ形式にも適合するフレキシブルさを備えている。また電装系や各コンポーネンツなどのユニットもモジュラー化され、どの車種にも適合することは言うまでもない。
SPAはフロントのホイールセンターとフロント・バルクヘッドの距離が固定化され、それ以外の部分はフレキシブルだ。もちろんエンジンはガソリンとディーゼル、さらに電動化にも適合する。
このSPAを採用したXC90は、軽量、高剛性というだけではなくさらなる衝突安全性能の向上にも寄与している。そのためプラットフォーム、アッパーボディは超高張力鋼以上のスチールが多用され、骨格の要所にはウルトラ高張力鋼板とされるボロン鋼のホットプレス材も採用されている。
新型XC90は従来型より一回りサイズアップされているが、重量は約120kgの軽量化が実現している。その結果、前面衝突はもちろん後方からの追突でも世界トップレベルの安全性を実現し、特に3列目シートの安全性はフロントシートと同等に確保され、従来のレベルを大きく上回っているという。
■エンジン&シャシーそしてPHEV
サスペンションは、フロントがアルミ製のハイマウント型のダブルウイッシュボーン、リヤは複合樹脂素材製のリーフスプリングを横置きにしたインテグラルアームサスペンションを採用している。また5つのドライブモードを選択できるエアサスペンションをオプションとして設定している。なお、小型車用のCMAはフロントがストラット式となっている。
搭載されるエンジンは、新世代のDrive-Eシリーズの2種類のガソリンエンジンがラインアップされている。4気筒2.0L直噴ターボ「T5」エンジンは、最高出力254ps、最大トルク350Nm、JC08モード燃費はで12.8km/L。
4気筒2.0Lスーパーチャージャー+直噴ターボエンジン、つまりツインチャージャーの「T6」は最高出力320ps、最大トルク400Nmを発生する。ヨーロッパではもちろんディーゼルも投入され、トランスミッションはすべてアイシン製の8速ATと電子制御AWDと組み合わされている。
また新型XC90では、ボルボとして日本に初めてプラグインハイブリットモデルが導入される。「T8 Twin Engine AWD Inscription」と名付けられたこのPHEVは、T6型4気筒2.0Lスーパーチャージャー+直噴ターボエンジンとリヤ駆動用電気モーターのユニットを組み合わせ、システムトータルで407ps/640Nmの大出力と、JC08モード燃費は15.3km/Lの低燃費を実現する。ちなみにモーター出力は87ps。電気モーターのみで35.4kmのゼロエミッションEV走行ができる。
搭載されるリチウムイオン電池は9.2kWhの容量を持つ。このバッテリーはセンタートンネル部に格納されているため、3列目シートやラゲッジ容量に対する影響がないのが特徴で、もちろん重量配分や衝突安全性にも貢献している。
なお、T8ツインエンジン(PHEV)はエンジンとトランスミッションの間に発電用+スターター、加速時のブースト駆動の役割を持つクランクマウント・インテグレーテッド・スターター&ジェネレーターを備え、実質的には2個のモーターによるプラグインハイブリッド・システムを構築している。
■インフォテイメント
インテリアでは、インフォテイメントシステムが一新されている。ドライバーの直感的に操作ができる「SENSUS(センサス)」を採用。走行中に必要な情報は、新たに設定された12.3インチのドライバーディスプレイ(メーターパネル)と、ヘッドアップ・ディスプレイに表示される。
さらにセンター部に縦型の大型タッチスクリーン式センターディスプレイが装備され、ナビゲーションや空調、メディア操作など主要機能を集約。その結果、ボタンやスイッチの数は8個だけで、従来より大幅に減らしたシンプルなインテリアとし、他のプレミアムカーのそれとは一線を画している。
なお操作系のほとんどは、音声認識技術をベースにしたボイスコントロールで行なうことができる。エアコンの温度調整やメディア、ナビ操作などが音声入力でき、ドライバーは手を使用することがないので、この点でもコマンド・コントローラー方式より進化している。
新たにAppleのCarPlayも標準装備。ステアリングスイッチや、タッチスクリーン、そして音声コマンドを使用することで、ストレスなくiPhoneの通話、ショートメールの送受信、メディアの再生やSiriといった機能を使うことができる。
■安全装備
安全装備も一段と進化している。従来の近距離用赤外線レーザーは廃止され、高精度化された単眼カメラとミリ波レーダーに絞られ、夜間でも認識できる歩行者・サイクリスト検知機能付フルオートブレーキ、50km/h以下の速度域でのステアリングアシストを実現したパイロットアシスト(追従時車線維持機能)などを標準装備。カメラとミリ波レーダーの一体化ユニットは室内のバックミラー上部に設置されている。
XC90の安全性に関する世界初の新機能は「ランオフロード・プロテクション」(道路逸脱事故時保護システム)」と、「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」だ。ランオフロード・プロテクションは車両のASDM(アクティブ・セーフティ・ドメインマスター)、ミリ波レーダー、高解像度カメラ一体型センサーユニットが、道路から逸脱したことを検知すると、即座にシートベルト・テンショナーがシートベルトを巻き上げ、シートとシートフレームの間にあるメタル製クッションが乗員にかかる衝撃を吸収。乗員の身体へのダメージ、特に脊椎損傷による重症化を防ぐ。
また、インターセクション・サポートは、交差点の右折時に直進してくる対向車との距離や速度を検知し、そのまま右折すると衝突すると判断された場合、衝突を回避・軽減するオートブレーキが作動するシステムも装備している。
新型XC90のグレードは、XC90 T5 AWDモメンタム、XC90 T6 AWD R-DESIGN、XC90 T6 AWDインスクリプション、XC90 T8Twin Engine AWDインスクリプションの4機種の展開となっている。