マニアック評価vol523
ボルボ90シリーズに新たなモデルがラインアップに追加された。ステーションワゴンとSUVの要素を併せ持った「V90クロスカントリー」がそれだ。洗練されたデザインで目を惹く90シリーズだが、そのルックスに大きく影響する車高の高いクロスカントリー(CC)。実車を目の前にして見るV90CC、そして走りはどうなのか?そのレポートをお伝えしよう。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
■ポジショニング
ボルボブランドは先代60シリーズをリリースしてからプレミアムブランドであることを、明確に打ち出し、その存在感も年々高まっている。特にこの90シリーズはそのデザインセンスの良さから注目度が高く、また、パワートレーンの方向性も明確にしている分かりやすさなどもあり、ドイツプレミアムブランドが絶対だ!というユーザーにも響いているのは間違いない。
90シリーズはそのボルボのトップグレードでEクラスや5シリーズ、A6などがライバルとなるモデルだ。その90シリーズのラインアップにはセダンの「S90」、ステーションワゴンの「V90」、SUVの「XC90」があり、そして今回のV90クロスカントリーというモデルがラインアップが加わった。この手のモデルは、意外とありそうでないモデルで、アウディのオールロードクワトロぐらいが同じカテゴリーだろう。だがボルボはこのコンセプトを20年以上続けているのだ。
90シリーズは2014年にデザインコンセプトとして3つのモデルが発表され、そのコンセプトモデルがベースで開発されている。その時のコンセプトクーペがS90に、コンセプトエステートがV90、そしてコンセプトXCクーペがこのクロスカントリーというモデルとなって、現実にリリースされているのだ。
またボルボの新世代パワートレーン「Dirive-E」にはT4、T5、T6、T8、D4、などがあり、T8はプラグインハイブリッド、D4はディーゼルエンジン、T4が1.6Lガソリン、T5、T6が2.0Lガソリンに過給器をもったダウンサイジングで、出力違いのエンジンといった新世代のパワートレーンが揃っている。さらにFFとAWDという設定もある。
■搭載パワートレーン
今回国内導入したV90CCには、T5のパワートレーンを搭載したAWD、2.0Lガソリンターボエンジンのモデルから投入された。
スペックを見ると254ps/350Nmで8速ATを搭載。JC08モード燃費は12.9km/Lというスペック。ドライブモードにはコンフォート、エコ、ダイナミックの他にクロスカントリーにはオフロードモードが搭載されている。このオフロードモードは、20km/h以下の低速時に作動し、デフロックされ急こう配であればヒルディセントコントロールも連動して稼動するという機能。そしてエンジン、ミッションともにトラクション重視のモードになるように変更されるモードだ。
■ボディストラクチャー
洗練されたこのデザインを構成するボディ構造でも、超高張力鋼板のボロンスチールが従来比+20%まで増やし、全体の高剛性化を図った造りになっている。このあたりの詳細はこちらの記事をご覧いただきたい。
特徴的なのはサスペンションだ。90シリーズのフロントは高級車御用達のダブルウイッシュボーン形式を採用し、アルミ材も多用し軽量化もしている。今回のクロスカントリーはSPAプラットフォームのサブフレームに、90シリーズのアッパーアーム、ハブキャリアは専用品。ロワアームはXC用のロアアームを流用するなど、90シリーズにXCのパーツを使うことでCCを構成している。
そしてリヤサスペンションにはV90と共通だが、樹脂製のリーフスプリングを採用するという新しい試みもやっているのだ。コイルスプリングを使ったマルチリンク構造に対して、約4.5kgの軽量化ができ、またリーフで左右をつなぐことから、アンチロールバーの役目も果たしている。
こうしてV90に対して車高は+55mmで最低地上高は210mm。トレッドも拡大されV90比でフロント+35mm、リヤ+25mmとなっている。こうしたシャシースペックからクロスカントリーとしての悪路走破力性能をあげ、アプローチアングル18.9度、デパーチャーアングル20.7度、ランプアングル17.7度というスペックを持つことになる。
■試乗レポート
試乗会場は軽井沢の別荘エリアだ。このモデルが持つ世界観にもっとも近い場所だろう、という思いから、ボルボカージャパンが設定した会場だ。おしゃれでハイセンスを感じさせるエクステリアデザイン、少し車高が高くアウトフィールドをイメージさせ、アクティブな印象もあるクロスカントリーは、別荘でアクティブに、そしてセンス良く遊ぶオーナーにぴったりなエリアだというわけだ。
試乗して最初の印象は、他の90シリーズと同様にボディ剛性が高く、しっかり感があり、全体に硬質でがっちりとした印象を受ける。しかしながら、走り出すとしなやかなサスペンションの動きを感じ、気持ちの良いい滑らかな走りを体感する。この乗り心地の良さは、90シリーズが255/35-20という大径、超扁平のタイヤサイズに対し、CCは235/50-19というエアボリュウムのあるサイズも強く影響しているのだろう、まろやかな、優しい乗り心地を味わえる。
ちなみに、装着するタイヤはボルボの専用タイヤ「VOL」マークの入ったミシュランのラチュードスポーツ3というタイヤで、20インチをピレリ、19インチをミシュランが供給している。
また、ハンドリングでは、S90/V90と同様にスポーティな走りだ。特に回頭性が高く切り足すようなシーンでもリヤの追従性があり、安心感の高い回頭性を示す。リーフスプリングを採用していることやAWDかFFなのか?など、さっぱり感じない。感じるのはただただ、静かに滑らかに走り、ひとたびアクセルを踏み込めばスポーティに走り、アクティブさも味わえる。軽井沢の気持ちいい高原エリアを楽しくドライブできるということだけだ。
エンジンは前述のT5で軽井沢周辺を走行すると、キツイ上り坂でシフトダウンをするビジーさはあるものの、変速ショックもなく音も静かなため、ドライバー以外は気づかないだろう。それも標高の高いエリアゆえのことかもしれないが、決してパワー不足という印象はない。254ps/350Nmというスペックを見れば納得できるはずだ。
ステアリングの操舵感は軽めだが、手応えがしっかりあるのでちょうどいいバランスに感じる。BMWのように少しの操舵でも重さを感じるのはBMWらしさなのだろうが、CCの洗練されたセンスのモデルにはこの軽さがよい。ただ、アクセルレスポンスに関しては少しリニア感にズレを感じた。
それは少しのアクセル開度でも加速がいいので、力強さを感じさせる、とも言えるのだが。これはドライブモードがエコ、コンフォート、ダイナミックすべてに共通しているので、エンジニアの制御指向ということだろう。ただこうしたフィーリングに関しては即座に慣れてしまうものなので、他車に乗り換えたときに気づくときの話だ。
試乗車のインテリアはタンカラーのレザーでとても上品な印象。ルーフは大きなパノラマガラスルーフで、開放感たっぷりのインテリアだ。
90シリーズのインターフェイスも自慢のひとつだ。タッチコントロールが可能になり、ナビをはじめ空調のコントロールなどスイッチ類が非常に少なくなっていて、すっきりしている。その分タッチパネルで操作するのだが、どうにも左手での操作なので、ボルボに限らず、タッチ式はいかがなものか?というストレスは常にある。ボケ防止に左手の多用はよいことかもしれないが。
CCはストローク感のある乗り心地が気持ちよく、高い静粛性を持ち高級車に乗っているという満足感が得られるモデルだ。インテリアも凝った作りのウッドパネルやゴージャスに感じさせる加飾も程よい。クルマから降りてスタイルを眺めれば、センスの良さや上品さを感じさせ、どこかガラの悪さを持つプレミアムモデルとは明らかに異なる品の良さを感じるのだ。一度実車をお試しあれ。
■グレードと価格
■ラインアップカタログ
併せて読みたいボルボ90シリーズ
S90/V90試乗レポート
S90/V90 R-Design試乗レポート
吉田由美の連載コラムボルボ篇