マニアック評価vol520
ボルボのフラッグシップモデル90シリーズのS90/V90にR-Designが加わった。ベースグレードのMomentumと上級グレードのInscriptionの中間に位置するスポーツグレードという位置づけだ。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
これまでボルボのラインアップではR-Designがトップグレードという位置づけの印象だが、スポーツサスペンションなどの装備から、性格的にはスポーティグレードになる。90シリーズはボルボのフラッグシップモデルだけに、豪華でラグジュアリーな装備を持つインスクリプションがトップグレードというポジションになっている。
また、ボルボがプレミアムブランドとしてポジションチェンジをしてから、ずいぶん時間が経過しているが、90シリーズの登場でいよいよ、ドイツプレミアム御三家のマーケットを侵食するタイミングが本格化してきたことを感じる。
Eセグメントのボルボ90シリーズはメルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、アウディA6シリーズなどが直接のライバルであり、魅力たっぷりのブランドに成長を遂げていることを感じる試乗だった。
■エンジン&サスペンション
R-Designに搭載しているパワーユニットはインスクリプションと同じ「T6」で、2.0L 4気筒ターボ&スーパーチャージャーで320ps/400Nmというスペック。このガソリンエンジンに8速ATを組み合わせている。そして、R-Designだけの装備としてパドルシフトが装備されている。駆動方式はAWD。
シャシーまわりは専用のチューニングがされている。フロントは強化コイルスプリング、リヤも特徴的なリーフスプリングを専用にチューニングしているという。この横置きリーフスプリングは樹脂の複合材で、材料をドイツの化学工業のヘンケル社が提供し、ベントラーオートモーティブ社がサスペンションパーツとして製品化しているものだ。ちなみに、素材はウレタン樹脂とグラスファイバーで、見た目は黄緑色をしているので、スチール製リーフとは明らかに異なることがひと目でわかる。
ダンパーは通常ツインチューブを装備しているがR-Designにはモノチューブタイプのダンパーが装備されている。また、スタビライザーも強化され、フロントが24.5mmから25.5mmへ、リヤが21.7mmkら22.5mmへと太くなっている。ちなみに、フロントのサスペンション形状はダブルウイッシュボーンだ。
注目は90シリーズからタイヤが専用開発されたタイヤの装備というポイントがある。現状はピレリ社からだけの供給となっているが、プレミアムモデルには専用タイヤの装着は常識であり、ボルボにも「VOL」の文字が刻印された専用タイヤ255/35R20サイズを装着していた。もちろん、ホイールもR-Design専用デザインで、8.5J×20のアルミホイールを履いている。
■エクステリア&インテリア
エクステリアでR-Design専用装備をみてみよう。ボディサイドでは、専用シルクメタル・サイドウインドウ・トリムと専用のマットシルバーのドアミラーカバーが目を惹く。フロントには専用デザインのグリルとリヤは専用バンパーを装備している。ちなみに、フロントグリルはモメンタム、インスクリプション、R-Designともに異なるグリルデザインを装着している。
インテリアは他のモデルが明るいトーンのインテリアに対し、R-Designはブラックトーンを基調にしているのが特徴だ。またカーボン調のパーツもダッシュボードやドアトリムに使用している。シートはナッパレザーを使用したサポート性の高いスポーツタイプに変更され、R-Designのロゴマークも入る。シフトレバーに使われるレザーもパンチングレザーで差別化もされている。そして前述したようにパドルシフトを装備するのはこのR-Designだけとなっている。
■試乗インプレッション
走り出してすぐに感じるのは高いボディの剛性感と20インチという大径サイズのタイヤにも関わらず、乗り心地のいいことだ。スポーツグレードなので、硬さはそれなりにあるが、ダンパーのフリクションを感じるようなことはない。
走行音は静かで、高級車に相応しい静粛性を持っているが、切り替えができるドライブモードで「ダイナミック」を選択すると加速音が気持ちよく聞こえる。ノーマル、エコモードでは音量を抑えた仕様になっているのも好ましい。
エンジンの軽快さも印象に残る試乗だった。インスクリプションと共通のエンジンだが、とても軽快にまわりワインディングを走るとつい、アクセルを踏み込みたくなる衝動が起こる。エンジンにざらつきがなく、滑らかに回るエンジンは気持ちがいい。
低速でのスーパーチャージャー、中速以降のターボ過給という切替えや、過給器そのものの存在を感じさせないトルクフルな加速感が気持ちいい。かつてのような加速度の変化を演出する時代は完全に終わりを告げ、人間が自然だと感じる加速度の作り方をしていることがよくわかる。2.0Lであることや4気筒であることなど、微塵も感じさせないエンジンで、軽く滑らかで高級感があり、力強いトルク感のあるエンジンだ。
ハンドリングでは旋回性の良さが印象に残った。AWDモデルだが、もはや、FFなのか、FRなのか分からないほど癖のない特性で、コーナリング中のアクセルオン、オフに対しても舵の方向へクルマは動く。スロットルでクルマの向きを変える特性ではない。そして切り足しをしても素直に回頭し、切り戻しも自然に感じる。
こうしたスポーツグレードでも高級車らしく、静粛性と乗り心地の良さを確保し、アクティブに走れば、それに応えるという味付けがよくできていると感じる試乗だった。さらに、ボルボにはシアンレーシングのノウハウを持つポールスターがあり、いずれ、よりパワフルな90シリーズも加わってくるだろう。もちろん、PHEVのT8やディーゼルモデルもラインアップし、セダン、ステーションワゴン、SUV、そしてクロスカントリーというフルラインアップが揃っているのも強みのブランドで、ドイツ御三家を脅かす存在であることは間違いない。
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