ボルボS60が国内デビューし、早速試乗してきた。S60はセダンボディを持ち、先行して発売されているV60エステートから遅れること約1年で導入された。
スポーツセダン
試乗車はT5のインスクリプションで、パワフルなモデル。勘違いしそうなのがFFモデルであることだ。Dセグメントサイズのプレミアムモデルの多くはFRレイアウトだが、ボルボS60は走ってみてFFだと感じる場面がまったくないのだ。
乗り心地もフリクションのない滑らかさがあり、気持ちいい。特に路面の綺麗な場所ではなんの抵抗感もなくトロリとした滑らかさがある。路面が悪い状況になると急激に音がノイジーになるモデルも多いが、ボルボS60はそうした場面でも適度に音のカドが丸められ、まろやかに感じるように処理されている。印象としては侵入する音の整え方が上手で、うまく整音しているイメージだ。
操舵フィールも「ちょうどいい」と感じる反応で、過敏でもなくスローでもない。コーナリング中の手応え、また切り戻しのフィールでもFF特有のキックバックなど皆無。滑らかにステア操舵できる。ステアリングアシストの電動モーターの許容量が大きいということだろう。
ハンドリングは回頭性がよく、初期ロールも少なく、ヨーを感じるタイプの味付けだ。実際はロールしているが、ドライバーには感じにくいようにサスペンションがしなやかに動いているからだろう。フリクションのない、初期の動きから大きな入力になっても減衰力が滑らかに働いている。
ドライブモードで「ダイナミック」を選択してみる。エンジンは高回転まで伸び、ステアリングの反応は少しクイックになる。より回頭性の良さを感じながらコーナーを脱出し、加速させる。エンジン音も心地よい程度のサウンドを出しながら高回転まで回る。
ブレーキングではDモードでも自動でダウンシフトする。パドルシフトを装備していないが、自動でダウンシフトするのはかなりスポティに感じるし、より攻めていきたい気持ちへと昂る。
長いコーナーなどでGが連続してかかる場面では、リヤの追従性の良さと接地感の安心が際立つ。ステア特性としてはニュートラルで、スポーツドライビングをしても余裕を感じてくるのだ。クルマの大きさも手伝っているのだろうが、全体に余裕がありプレミアムモデルを操る満足感も湧いてくる。
以前はレーンキープアシストが強烈に働き、少しでも車線をはみ出しそうになると強いモータートルクで車線内に戻す制御が行なわれていたが、S60ではそうしたモーターの介入が強く入らず、穏やかな修正舵となるように進化していた。
インテリアは先行して発売しているV60と同じだ。話はすこしズレるが、V60エステートから約1年遅れての導入となったS60セダンだが、なぜ1年も遅れたのか。
日本の広報に確認したところ生産工場の違いによるものだという。V60はスウェーデンの工場で生産され、グローバル展開しているが、S60のセダンは北米のサウスカロライナ州チャールストンの新工場で生産されている。そのため、出来上がり品質の統一も重要であり、工場の稼働タイミングなども合わせて、1年遅れての導入となったということだ。したがって、セダンは北米で生産されたモデルが国内導入されるわけだ。
パワートレーン
ボルボブランドのイメージはエステート、つまりステーションワゴンタイプをイメージする人が多いと思うが、セダンもなかなかのスタイリングでかっこいい。しかも、パワートレーンにはかなりパワフルなモデルもラインアップしている。
ちょっとわかりにくいが、ガソリンエンジンにはT4とT5があり、出力の低い方がT4、ハイパフォーマンスがT5となっている。排気量はいずれも2.0Lの4気筒ターボを搭載し8速ATと組み合わされ、試乗したT5の出力は187kW(254ps)/5500rpm、350Nm/1500-4800rpm。ディーゼルエンジンのように低回転から最大トルクを出しているのも特徴だ。
ついでにお伝えするとディーゼルモデルはない。D4エンジンを搭載するモデルは存在していないということで、ボルボの電動化へのロードマップでディーゼルは、より大きなボディのモデルに限定されるということだろう。
ほかにプラグインハイブリッドモデルもあるが、こちらも2種類ありT6とT8になる。同様に出力違いだ。ただ、このプラグインハイブリッドにはモーターの他にスーパーチャージャーも搭載し、エンジンとモーターがあるので「ツインエンジン」という言い方もしている。そしてPHEVはT6のみ導入予定で、T8に関してはさらにスペシャルモデルとなる「ポールスター・エンジニアード」を限定で導入した。
ちなみに、このPHEVはフロントをエンジンで駆動し、リヤはモーターで駆動する方式のAWDになっていて、PHEVモデルはすべてAWDということになる。
また、インスクリプションはグレード名でエントリーモデルが「モメンタム」、上級モデルは「インスクリプション」という2グレード構成になっている。
パッケージング
ボディサイズは全長4750mm、全幅1850mm、全高1435mmホイールベースは2870mmとなっているDセグメントサイズだ。全幅を1850mmに抑えているのは、日本のマーケットを意識したサイズという話で、それほど重要なマーケットに位置づけられているのだ。
FFのメリット生かしトランクルームが広い。見た目でその大きさはわかるので、キャディバックなども余裕で収納可能だ。
ワインディング中心の試乗だったが、ブレーキの容量、サスペンションのストローク量、エンジンのパフォーマンスなどすべてで余裕があるというのがS60の特徴なのだろう。性能を使い切らない余裕こそ大人なセダンのダンディズムなのかもしれない。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>