メーカーが開発したコンプリートモデルに試乗してきた。コンプリートカーのS60/V60ポールスターは世界限定750台。国内割り当てはのこりわずか20台前後という希少ものだ。
ポールスターレーシングは以前、ボルボとの資本関係はなく、技術提携のレーシング部門として活動していたが、近年、ボルボの資本傘下となり、コンプリートカー製造に乗り出している。しかしレース部門は依然そのまま残り、シアンレーシングとして2016年はWTCCに参戦予定となっている。こちらはボルボの技術協力という形での参戦だという。
したがって、このコンプリートカーであるS60/V60ポールスターはボルボの生産工場であるトースランダ工場で製造され、50か所以上の改良が加わり、パーツレベルでは240点以上が専用パーツで構成されている。また、言うまでもなく補償、保守点検サービスは他のボルボと同様にサービスが受けられるボルボのコンプリートカーである。
何が通常のS60/V60と違うかと言えば、まずエンジン。今回のモデルはまさにファイナルエディションでT6エンジン、直列6気筒横置きガソリンエンジンを搭載しているが、このエンジンの生産中止により、ボルボの6気筒エンジン搭載最終モデルとなる。しかもコンプリートカーに搭載しての最終モデルだ。
この6気筒エンジンは3.0Lの直列でボルグワーナーのターボチャージャーで過給。0-100km/h加速は4.9secだ。スペックは350PS/500Nmに6速ATのAWDというパワートレーン。これに専用のエキゾーストが組み合わされる。電子制御エキゾーストフラップが左右のパイプ内にあり、PやNレンジでのアイドリングや通常時の弁はクローズ。アクセルを踏み込むと右側が開くようになっている。さらにSレンジ(スポーツモード)で4000rpmを超えると左右が開きフルパワーモードになる。もちろん、サウンドも顕著に変化し、心高ぶるサウンドを奏でる。
このビッグトルクを支えるサスペンションはオーリンズと共同開発をしたサスペンションで、オーリンズのDFVダンパー(デュアルフローバルブ)を搭載。市販のDFVは20段の調整式だが、ポールスターには30段の調整式となっている。
デフォルトではフロント10、リヤ10という固めのセッティングで、ドライ路面のサーキットであれば、さらにリヤを5まで引き締める。逆に一般路を中心としたコンフォート仕様であれば、フロント20、リヤ15あたりが推奨セッティングというスペックを公表している。さらにブレーキはブレンボ社との共同開発の専用ブレーキシステムで、キャリパーは6ポッドでフローティングディスクを装備。また専用開発のブレーキパッドを採用する。
これらのパワートレーンとサスペンションはパドルシフト付きの6速ATでSモードをセレクトすると、より後輪へとトルク配分するようなモードになる。特に発進時や横G発生時に、より後輪へトルク配分し、高速域では前輪への配分の偏りを抑制する制御が働く。
エクステリアでは、ボルボの風洞実験室から生み出された大型のスポイラーを前後に装備し、ルーフスポイラーでリヤリフトを抑制。また、フロントスプリッターが車体下への巻き込みを防止したり、専用リヤディフューザーを装備している。
インテリアでもスペシャル感が強く、レザー&ヌバックにブルーのステッチが入った専用シートを装備。ステアリングにもブルーステッチがあしらわれ、さらにイルミネーテッド・シフトノブであったりと、専用品が多く採用されていることに気づく。
そして何よりレース部門であったポースターというブランド名を持ったコンプリートカーであることのブランド力は大きく、台数の少なさもその希少価値を高めている。ボルボマニアでなくても、乗ってみたい一台であることは間違いない。
◆インプレッション
そのポールスターS60/V60の試乗はS60のセダンタイプのボディで試乗できた。エクステリアではまずポールスターレーシングのイメージカラーであったブルー(シアン)カラーが鮮やかで、20インチの大径ホイール&タイヤが目立つ。タイヤはミシュラン・パイロットスーパースポーツでサイズは245/35ZR20を履く。
ドアを開けインテリアを見ると、ブラックカラーで統一され大人びた印象だが、ドライバーシートに身を沈めるとサイドサポートとサイサポートがしっかりあり、気分が高揚する。ただし、ヒップポイントはそれほど低くはなく、アップライトなポジションになっている。
ハンドルのステッチもブルーの糸が使用され、鈍いシルバーカラーが落ち着いた高級インテリアであることを印象付ける。スカッフプレートにも「ENGUNEERED by—————」の文字がありエンドにポールスターのロゴマークが刻まれている。センターコンソールはカーボンデザインされ、ペダルもアルミを利用した専用のペダルにもなっている。
エンジンを始動し、市街地から箱根のワインディングへと向かう。市街地では20インチのタイヤがスペックオーバーかと予測するが、デフォルトのダンパー設定でも引き締まっているという印象で、ゴツゴツした安っぽさは微塵もない。セッティングでコンフォート方向にすれば、「これが20インチか?」という乗り心地にもなりそうだった。
ワインディングでは350Ps/500Nm のあふれるパワーに魅了される。AWDの安定感とESCをオフった時のトルク配分の変化からくる安心感なのか、FFベースではあるもののFRなのかAWDなのか判別が難しく、安定してコーナリングしていく。
Sモードでパドルシフトを使い、スロットルを開ければやる気にさせるサウンドが室内に響き、ついついアクセルを踏み込みすぎてしまう。それでも正確で安定したハンドリングと強力なブレーキングパワーは安心感につながる。
ブレーキを引きずるようにコーナーに侵入し、アクセルをオフしても挙動に変化はなく、操舵方向にノーズは回頭する。エンジンの回転落ちも気持ちよく、そして滑らかにシルキーに加速を再開する。
これだけのエンジンパワー、そして正確なハンドリング、安心感の高いブレーキ、20インチの大径だけど履きこなしているルックスなど全体にまとまりがあり、コンプリートカーであることが印象付けられる。全体の品質が高次元でバランスしているので、プレミアム感も高く満足度も大きい。
残り20台前後の希少モデル、S60ポールスターが829万円。V60ポールスターが849万円。他社のAMGやMモデルと比較すると、格安とも受け取れないだろうか?ボルボ最後の6気筒エンジンは魅力たっぷりのコンプリートカーだった。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>