マニアック評価vol40
ボルボはこれまでC30、C70とデザインが際立つモデルをリリースしてきているが、このS60も同様に、これまでのボルボが持つイメージとは違ったダイナミックで洗練されたモダンなモデルとして登場している。もちろん、ボルボ=安全という多くの人が持つイメージに背かない、新しい安全技術であるヒューマンセーフティも採用してきている。
S60のデザインは4ドアセダンだがクーペデザインとされ、フロントグリルのボルボ・エンブレム、ボディサイドのショルダー部の張り出し以外、従来のボルボ・デザイン言語は見当たらないほど革新されている。特に真横から眺めたときのボンネットからルーフ、そしてリヤウインドウにかけてのラインと、ボディサイドのフェンダーアーチ上部に流れるラインのふたつがS60デザインの象徴であり、筋肉質なイメージを創りながらも、4ドアクーペスタイルというプレミアムスポーティなセグメントに到達していることを感じる。このデザインからもわかるようにS60はプレミアムC/DセグメントのアウディA4、BMW3シリーズ、メルセデスCクラスをターゲットにしている。そのためには、ダイナミックで洗練されたクーペ風のデザインが必要と考えたのだろう。
ラインアップはDRIVeとT6 AWD SEの2モデルにスポーツサスペンションや装備の違うT6 AWD R-デザインの3グレードがある。販売戦略の中心となるモデルはDRIVeで1.6Lターボモデルだろう。価格も戦略的な375万円に設定されている。
搭載しているエンジンは、従来からの3.0L横置き直列6気筒ターボ(304ps)は4WDとの組み合わせでT6 AWD SWグレードとRデザインに積んでいる。FFモデルのDRIVeにはV70にも採用されている4気筒・1.6Lターボ(B4164T型・180ps)を搭載した。
これはダウンサイジング・コンセプトによって生まれ、パワー、トルクともに自然吸気2.0Lをはるかにうわまわり、しかも、より低速からフラットなトルクを生み出している。6速パワーシフトミッションはフォードグループ(当時ボルボを含む)、三菱、ゲトラグで共同開発されたギヤトロニック(DCT=湿式デュアルクラッチ)を採用している。一方、上級グレードのT6は、通常の6速ATとなっている。
S60のプラットフォームは既存のXC60と共通のY20プラットフォームで、そもそもこれはランドローバー・フリーランダー用にフォードEUCDプラットフォームを改良したもので、フォード・モンデオ、ボルボV70などが利用してきたシリーズと親族関係にあるプラットフォームだ。
サスペンションはフロントがストラットで、リヤがマルチリンク式という構成は、すべてのグレードに共通している。ただR-デザインはそのスペックをハードにチューニングした、スポーツサスペンションとなっている。
そして、ダイナミック性能を追求するS60は、安全性に関してはボルボらしくプロアクティブ(パッシブ)セーフティ、プリベント(アクティブ&プリクラッシュ)セーフティが充実している。プリベントセーフティには、全車速追従機能付きのクルーズコントロールや車間警報、ドライバーアラート(ふらつき警報)、レーンキープなどの他に、ヒューマンセーフティ(前方の車両や人間との衝突回避自動ブレーキ)、シティセーフティ(低速車への追突回避自動ブレーキ)を備えている。
シティセーフティ用にレーザーレーダー、ヒューマンセーフティ用にカメラとデュアルモードレーダーを装備しているのも特徴だ。なお、シティセーフティは6m〜8mという近距離範囲での自動ブレーキ機能で、15km/h以下であれば衝突を回避でき、ヒューマンセーフティは150m〜50mの距離で前走車や人間をモニターして自動ブレーキが作動する役割分担を行っている。
さて、試乗だが、最初に試乗したのはDRIVeの1.6Lターボモデルである。価格も400万円を大きく下まわる375万円と戦略的な価格設定で、魅力たっぷりだが、試乗したモデルはオプションであるレザーパッケージ、ナビゲーションパッケージが装備されていた。 これにより、50万円の上乗せとなる。それでも425万円はライバルである、メルセデスCクラス、BMW3er、アウディA4よりお得感はあると思う。
もちろん、そのオプション装備の効果は大きく、特にレザーパッケージにより、レザーシートとなるだけではなく、17インチアルミホイールを含んでの25万円だからうれしい。室内の豪華さやプレミアムな雰囲気は、価格以上の効果をもたらしているのは間違いない。
走り出しての静粛さや振動は、欧州車に共通するもので、いわゆる作動音は聞こえるという手法は、このボルボも同じベクトルにあるように感じた。しかし、風切り音や細かな振動など不快と感じる音はきれいに除去され、エンジン音だけがわずかに聞こえていた。
このDRIVeはFFモデルで、直進性はしっかりあり、小舵角時の反応も悪くない。先代のS60よりステアリングギヤ比を10%程度クイックにし、フロントストラットを中心とした剛性アップにより、ダイレクトな操舵感を得ることができている。とくにステアリングコラムはチューブを厚く、ブッシュを硬くすることで、ねじれ剛性が100%アップしているという。さらにストラット接合部の補強で50%剛性がアップしているということだ。
エンジンフィールではエンジン音の演出がもう少しあってもいいかもしれない、と感じた。パワーやトルク感といったものに不満はないが、高速域での加速時の迫力に欠けた。もっとも、そこを気にするのであればT6モデルをチョイスする手もある。T6のエンジンはレスポンス、音、ともに迫力はあり、高速域からの加速でもゆとりのある走りを味わうことができるからだ。
このT6モデルはAWDで、そのフィールにはネガな部分をまったく感じることはない。逆に、高速移動時の直進性ではAWDの威力を感じ、路面変化にはビクともしない直進性があり、安心感は高い。また、低速時や車庫入れなどの微速度域でも、ハンドルが切れないとか、重くなるといったこともなく、日常使いでマイナスとなるものはまったくなかった。雨天など道路状況が悪くなるほど、安心感が高くなるモデルと言えるだろう。
ニューS60は、洗練されたスカンジナビア・デザインと、環境を意識したパワーユニット、それとボルボのアイデンティティでもある安全という3本の柱を強くアピールしたモデルとなっていた。さらに、価格の点でも魅力ある設定とされ、国内ではドイツ車人気が強いこのセグメントに、強力なライバルが加わったということだろう。
文:編集部 髙橋 明
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