【テスラ】モデルS試乗記 静かに鋭く加速するEVは異次元の楽しさ  レポート:津々見友彦

マニアック評価vol195

テスラの2モデル目のEVは5ドアサルーンで登場した

プレミアムEVという誰もが思いもしなかったコンセプトを打ち出し、シリコンバレーのIT起業家、イーロン・マスク氏が送り出したのが、電気自動車「テスラ」だ。今回はその2モデル目となるテスラ・モデルSに試乗することができた。

テスラは交流誘導モーターの発明家“ニコラ・テスラ”に由来するブランド名で、最初にリリースされたテスラ・ロードスターはロータスのシャシーを用いた本格的スポーツEV。発売と同時にアメリカのリッチ層の人気を集めたものだ。

▲▼そのメカニズムだけでなくスタイリングの美しさもテスラの魅力

そしてこのロードスターに次いで発表されたのが、今回試乗したモデルS。華麗なスタイリングの5人乗りハッチバック(本来はトランクルームに子供用の2座席が後ろ向きに設置可能で7人乗りだが、日本仕様では5人)で、ボディサイズは2959mmのホイールベース、全幅1964mm。国産車でイメージするなら全幅はレクサスLSより約90mm広い感じだ。

約7000個のバッテリーを敷き詰める。低重心でコーナリングも安心感があった

ユニークなのがEV独特のフラットなシャシーを持つこと。薄いプラットフォームの中に「18650」と呼ばれるサイズの特注リチウムイオンバッテリーを約7000本敷き詰めて、その前後にタイヤを配置している。「18650」規格のリチウムイオンバッテリーは、ロードスターに採用された時点では民生用・パソコン用だったが、後期には自動車用の規格品に変更し、モデルSはもちろん自動車規格を採用し、水冷式にしている。後部の左右タイヤの間にモーターを置くリヤモーター、リヤ駆動スタイルだ。このプラットフォームはGMが提案していたコンセプトそのもので、かぶせるボディのバリエーションで、どんな形のクルマにも変身できる。恐らく将来は多種多様なモデルがテスラから誕生してくることだろう。
詳細はシャシー編アウトラインを参照。

■乗る前から楽しさの連続
今回試乗したのは最高スペックのモデルSパフォーマンス。バッテリー容量85kwhのベーシックモデルに高出力モーターを組み合わせたモデルだ。驚くのはモーターパワーも加速性能もノーマルモデルよりも高いにも関わらず、予測可能走行距離がベースモデルと同じということ。満充電で400km以上という走行可能距離は、東京から御殿場程度の往復200kmぐらいのデイリードライブなら楽々とこなせて実用度も高い。ちなみにパフォーマンスのモーター出力は421ps(303kW)、トルクは600Nmというものだ。

さて実際に目の前で見るテスラ・モデルSは、ラグジュアリーセダンにふさわしいスポーティかつエレガントなスタイルを持つ。Cd値0.24と言うアルミボディにはルーフ一面がガラスになったパノラミックルーフが装備される。実用一辺倒ではない、ラグジュアリーセダンらしい装備類だ。また私が一番気に入ったのがドアハンドルのギミックだ。

普段はボディに埋め込まれてスムーズなラインを描くドアハンドル。モデルSのミニチュアのようなキーをポケットに入れて、ハンドル上部を指でタッチすると、「ウィーン」という具合にハンドルが飛び出してくる。こういう仕掛けが大好きな私は、乗る前からテスラ・モデルSのとりこになってしまった。

センターの17インチディスプレイにはクルマの様々な情報が表示される

車内に乗り込み、さらにインパネに目を向けると、私の大好きな大型ディスプレイがメーターとセンターパネルに設置されているではないか。まるでアップルのiPadの親玉のような17インチのタッチパネル式大型ディスプレイ。ここでモデルSのセッティングやエアコン、ルーフシェイドの開閉を行うこともある。明るい日差しの中でもくっきりと見える高輝度液晶なのはもちろんのこと、そのインターフェイスデザインがまた秀逸だ。

デザインもシンプルで視認性もいい。走行可能距離もここに表示される

カラーディスプレイながらあえてモノトーン風にグレイとブルーで、上品で知的な雰囲気に仕上げているあたりにセンスを感じる。いかにも最先端のインテリジェントマシンをドライブする気分になるというものだ。目の前にあるメーターパネルも液晶ディスプレイで、こちらもデザインのできが良く、チープには感じなかった。

■異次元の加速感にシビれる
さてモデルSに乗り込んでみたが、シートもなかなかいい造りをしている。特にタイトなバケットタイプではないが、腰のサポートに不満はない。

走り出しはいたってシンプルな操作で、リモコンキーを持っていれば、ブレーキを踏むだけでスタンバイとなる。その後はベンツを思わせるステアリングコラム右のセレクターレバーを下に軽く下げるだけ。これでDレンジに入る。停車するときも簡単で、セレクターレバー先端のボタンを押すだけ。特にパーキングブレーキレバーはないが、自動的にパーキングブレーキが掛けられる。

セレクターレバー
ミニチュアカー形状のキー

Dレンジにセレクト後、そのままブレーキを緩めるとスムーズなクリープ状態で上品に動き出す。電気自動車だから当たり前なのだが、とにかく静かだ。なおこのクリープの有無もセッティングできるようになっている。

都内でクルマを受け取ったために、朝の渋滞にハマってしまったが、電気自動車のモデルSはこういうシチュエーションでストレスを感じることがない。ブレーキを緩めると低速で自然なフィーリングでクリープするし、やや車速が上がったらアクセルにいつでも素直に追従してトルクが出てくる。アクセルコントロールは洗練されていて、丁寧なアクセルワークには柔らかくトルクを出し、鋭い踏み込みにはそれに応じて鋭く加速してくれる。まさに意のままに操れるフィーリングだ。

渋滞を抜けて高速道路へと向かったが、ここの合流車線ではモデルSの強烈な加速性能を味わうことができた。アクセル一発で三相4極ACインダクションモーターに大電流を流すと、600Nmという強力なトルクが2108kgのボディをロケットのように加速させる。まさにアッというまに前車に追いついてしまう感じだ。この加速フィーリングはかつてのR32スカイラインGT-Rを髣髴させるものだ。

私の感覚だけの説明では読者の方に「本当に?」と思われるので、ここでデータを出しておこう。サーキットテストなどで使用するデジスパイスのレコーダーで記録したもので、0〜100km/hの加速線図だ。

この発進時に加速Gは一気に0.75Gに達するが、リヤタイヤ付近に若干の砂利があり、トラクションコントロールが効いてしまった。それでも3秒後には0.95Gと強烈な加速Gをマークしている。100km/hまでの到達タイムは4.5秒で、レーシングマシンに近い発進加速ということがお分かり頂けるだろうか。この強烈な加速がエンジンの排気音などがない静かな環境の中で行われるのは、まさに「異次元の走り」だった。

Tesla_S 0-100加速曲線(データ提供:デジスパイス)

A車_0-100加速曲線(データ提供:デジスパイス)

参考までに2013年初頭に発売となった1.6Lターボエンジン搭載A車の加速データとも比べてみたが、こちらは発進後30km/h弱で0.56G程度の最大加速Gをマークしたが、加速力は70km/hあたりから0.35Gと大人しくなっている。70km/hで0.9Gと2.5倍以上の数値をマークしたモデルSの加速感がいかに強烈かが分かっていただけるだろう。

■快適な乗り心地。今後はハンドリングの向上に期待
今回の試乗したモデルSはバッテリー容量が85kwhのもの。カタログデータでは最大480kmの走行が可能だが、もちろんエアコンの使用状況や走り方で変わってくる。クルマを受け取ったときにフル充電ではなかったが、メーターには走行可能距離が「430km」と表示されていた。

市街地と高速道路の試乗で66kmを走ったが、それで走行可能距離の表示は324km。試乗中に大きく距離が減ることもなく、常に300km以上の距離が表示されていたので、電欠の不安はなく、精神衛生上とても楽だった。モデルSはもちろんアクセルを緩めると回生充電をするが、回生ブレーキの強さも2段階で設定できる。強力に設定すると止まりすぎという感じが出て、市街地ではやや使いにくかった。

加速感以外でモデルSで気に入ったのは、電動パワーステアリングの質感の高さ。パワステの重さはタッチパネルで簡単に変更できて、軽いコンフォート、ノーマル、重めのスポーツの三段階となる。コンフォートでもスポーツでも粘り感があって、安心度の高いテイストで運転していて違和感がない。

またコーナリングも車重の半分以上を占めるであろうバッテリーがプラットフォームの低い位置に敷き詰められているので、重心が低く安定感がある。タイヤは245/35ZR21サイズのコンチネンタル・エクストリームコンタクトDWを履き、乗り心地も良かった。総じて直進安定性もよくフラットな乗り味で、バネやダンパーのセッティングにも不満はない。圧縮エア式サスペンションには車高調整機能があり、これもタッチパネルでセットできる。高速走行中は車高を下げ空力特性を高め、逆に低速で段差のある箇所を走るときには車高を高めることもできる。

さてかなりいい感じの走りを見せたモデルSだが、ひとつだけ気になったのは高速でのコーナリングだ。低中速では不満のないハンドリングのモデルSだが、スポーティイメージを出そうとしたためか、高速では応答がクイック過ぎて、さらにリニアリティがないのだ。頑丈そうなアルミのサスが装着されているが、このあたりはブッシュ類のチューニングの範疇になるのだろうか。スポーティさと乗り心地の両立を狙っているモデルS、さらなる熟成と開発に期待したい。

■久しぶりにワクワク感を味わった

モデルSを存分に味わった津々見氏。興奮気味のレポから感動が伝わってくる

魅力的なテスラ・モデルS、EVという新しいカテゴリーのクルマということに加えて、タッチパネル式ディスプレイなど先端のITテクノロジーを組み合わせた姿は、そのまま未来のクルマを具現化したようで心踊るものだ。エンジンノイズから開放された安らぎと、瞬発的な鋭い動力性能を同時に併せ持つ「異次元の走り」を持ったクルマだった。

ちなみに充電は100Vでも、200Vでも可能となっている。ジャックの形状はアメリカなどのスタンダードであるコンボで、日本のチャデモ(CHAdeMO)方式ではないが、変換アダプターも用意されていて特に問題はない。充電口はテールレンズの一部がリッドになっていて目立たず、こういうところもオシャレだと感心する。200Vの専用充電器の場合は1時間で85km分の充電が可能だとか。2014年度に右ハンドル仕様が日本にも導入予定とのことだ。本体価格は未定だが700万円から1000万円と予想されている。

静かな空間の“静”と激しい加速の“動”を同時に持ち合わせる唯一無二の異次元体験のできるクルマ。現在、公式ウェブサイトでは予約が始まっているが、私もセカンドカーとして購入を検討したい。ただし、銀行に資金が残っていればだが…。

テスラ・モデルS主要諸元

テスラモーターズジャパン公式サイト

COTY
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