2013年7月25日に発表、9月24日から発売される4代目ルーテシアにひと足先に試乗してきたので、その模様をレポートする。
今回のルノー・ルーテシアは4代目となるフルモデルチェンジだが、もっとも注目すべきはパッケージドローイングというか、コーディネートテクノロジーというのか、クルマ全体をどうやって完成させてきたか?ということだろう。
すでに本Webでも既報しているがローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏によるルノーブランドのデザイン構築というのがポイントとして挙げられる。その詳細は、既報の記事で報告している。ヴァン・デン・アッカー氏はインテリア、エクステリアのデザイナーという捉え方をする場合もあるが、その役目はプロダクト全般のコンセプトワークであったり、パッケージドローイングだったりする。見方を変えれば経営戦略をデザインしているということだ。
■戦略的な価格設定の新型ルーテシア
試乗会場で行なわれたプレゼンテーションでは、ヴァン・デン・アッカー氏のデザイン戦略は「change your life, change your car」を掲げそれをルノー社の新たな企業ステートメントとしていると説明している。そしてアッカー氏はルノー社の企業理念は「ヒューマンセントリック(人間中心)」であることを導き出し、そこからライフステージ(人生)を作り、そのステージに見合ったプロダクトを創るというステップのものであった。
そのプロダクトにはデザインキーワードとして「シンプル」、「センシュアル(官能的)」、「ウォーム(ぬくもり)」が含まれていなければならないとし、そのインスピレーションは自然界から得て欲しいという要望をデザイナーに出している。ルーテシアでは、デザイナーはとりわけ液体からそのエクステリアデザインをインスピレーションし、インテリアは青い空にうかぶ白い雲からイメージを創造している。
そしてこれらは2010年のパリショーで発表されたコンセプトカー「デジール」で表現され、コンセプトカーの設計チームは同時に市販車も設計しているのだ。つまりコンセプトカーが市販車へと繋がるルートを生かしたデザインチームで設計されているというわけだ。そして今、ここに世に送り出された市販車ルーテシアがあるということになる。したがって、この新型ルーテシア(欧州名クリオ)はそのライフステージで言うところの「LOVE」であり、免許取立て、最初の恋をイメージし2シーターで登場したコンセプトカーデジールの具現化モデルなのである。
では市場におけるルーテシアのポジションを見てみると、Bセグメントに位置することから、欧州では日常使いの大衆車カテゴリーとなる。ライバルはプジョー208、シトロエンDS3、シトロエンC3、フォクスワーゲン・ポロ、フォード・フィエスタなどである。そのため、だれが乗っても運転しやすく、使い勝手が良く、低価格で、燃費が良くて、飽きのこないデザインでありつつ、上質であればなお良しという最も難しい要求に対して応えていくポジションにいる。
日本車で言えばトヨタ・ヴィッツや、ホンダ・フィット、マツダ・デミオ、スズキ・スイフトあたりと同じポジションということになる。
従って、振り返ればそのレベルの高さにまず驚くべきであり、欧州車のクルマ造りにおけるパッケージドローイングを思い知らされたモデルというべきだろう。さらに言えば、このヴァン・デン・アッカー氏の参入により今後のルノー車からは目が離せない、魅力的なプロダクトが期待できるわけだ。
このレベルの高いルーテシア(5ドア)だが、標準車で199万円という実に戦略的な価格を設定している。ライバルプジョー208は3ドアで199万円はあるものの5ドアでは218万円になる。ポロも同じくエントリーモデルは219万円で、ルーテシアの競争力を感じる。また、この価格であれば国産コンパクトの上級モデルも視野に入る。例えばホンダ・フィットハイブリッドは196万円、ヴィッツRSは180万円なのである。
■デザインなどすべてが高レベルの“大衆車”
さて、これらのポジショニングを念頭において試乗してみる。グレードは3グレードあり、エントリーモデルの「アクティフ」、中間の「ゼン」、そして最も高級グレード「インテンス」がラインアップされているが、試乗はインテンスで行なった。
エクステリアはコンセプトモデルのデジールが2シーターであったことから、2ドアのように見えるデザインで仕上げ、実は使い勝手のいい5ドアで市販化している。ボディサイドは液体(溶解した金属の質感)からイマジネーションしたと言うように、美しい局面で構成されつつ、フェンダーアーチのボリューム、力感のある処理がされている。もちろんフロントのルノーダイヤモンドも大きく存在感を増している。まさに、これが大衆車のデザインなのかと衝撃を受けるほど洗練されている。
インテリアは青い空と白い雲がインスピレーションのポイントということで、空を浮遊する飛行機がイメージだという。飛行機の翼が持つ軽量で高強度のイメージをダッシュボードデザインに取り入れ、ステアリングは飛行機のプロペラをイメージしているという。随所に使われるシルバーの加飾とピアノブラックと樹脂素材のコンビネーションをうまく使い、クラスを超える質感だと言える。メーターは2眼式だが、速度計はそれとは別にデジタル表示される。左がタコメーターで右は燃料計。特に視認性が良い悪いということはないが、デジタル速度計は個人的には好きではない。車速をデータと捉えるかスピード感と捉えるかの違いか。ぬくもりは後者だ。
シートの座り心地やホールド感はまさにフランス車のそれで、フワッとした表面なのに、芯がありホールド性も高い。ドイツ車とは異なるシートへの拘りを感じるシートだった。座面の長さも程よく、シートバックの幅もいい。日本人にはジャストフィットだと思う。また、調整機能も豊富にあるので、ベストなポジションは選びやすいが、ポジションの操作系はレバー位置が慣れない場所にあるため、少々使いづらく感じることもあったが、昔から変わってないと言えばそれまでだ。
リヤシートの居住スペースはさすがに狭く、快適とは言いがたい。シートバックの角度も立っているので、長時間同じ姿勢でいるのは厳しいだろう。また、膝前のスペースも決して広くはない。このあたりの評価ポイントとしては、どこまで求めるかということになるが、そもそもBセグメントのポジショニングを考えれば許容範囲とだと思う。ただし国産のBセグメントと比較すれば、狭いという結論になる。
■ひとクラス上のクルマと勝負できる質感
走り出してすぐに感じるのはその静粛性の高さだ。タイヤはミシュランのプライマシー3という最新のタイヤで、エコ&コンフォート系のタイヤを装着している。エンジン音は気にならない程度に聞こえ、タイヤのロードノイズや風切り音なども小さい。そして、路面からの入力はソフトにそしてしっとりとした乗り心地でいなしていく。ひとクラス上のメガーヌと比肩できる静粛性を持ち、クラスを超えるレベルだと思う。ちなみに、タイヤサイズは205/45-17で、Bセグメントにもかかわらず、見事にこのサイズを履きこなしている。
ボディサイズは全長4095×全幅1750×1445、ホイールベース2600(単位:mm)でCセグメントに迫るサイズとなっている。先代モデルより全長を伸ばし、トレッドもフロントで45mm、リヤで50mm広げ、全高は40mm下げワイド&ローが強調されている。プジョー208が先代モデルからコンパクト化することで成功しているが、ルーテシアは正反対の大型化をチョイスしているあたりも興味深い。そして本国では発売直後から人気となっているという。
プラットフォームは3代目ルーテシアのキャリーオーバーとなるBプラットフォームの改良型だが、サブフレームの剛性やステアリングラックをソリッドマウントにするなど、ハンドリングにおける改良も多数ある。
キャビンフォワードされたインテリアに座り、ステアリングを握ると、ペダル位置がやや手前に感じる。したがって10km/h、20km/h程度の速度ではフロントタイヤが遠い印象があるが、速度が常用域から高速、ワインディングへとステージを変えていくとその印象に違いが出てくる。それは、タイヤの位置がどんどん近づきダイレクト感が強まってくるのだ。当たり前だが物理的には変化はない。特にワインディングではタイヤの位置が明確に伝わりステアリングとのダイレクト感に快感を覚える。逆に高速直線ではタイヤ位置が遠く、直進安定性が感じられリラックスできるポジションに変化するのだ。
これまでに感じたことのないフィールで、ルノーのシャシー技術の深さなのかどうか、その点についてルノー・ジャポンのマーケティング部マネージャー、フレデリック・ブレン氏に聞くと、ルノーのシャシー設計をするフランスのオボアにある工場には特殊な設備があるという。
それはフラットベルト上でタイヤを回転させる装置が、タイヤ単品ではなくロアアームやリンク類などサスペンションアームごと転がすことのできる試験機があるという。その試験機では荷重をかけて入力を4軸、5軸で計測でき、実車と同じジオメトリーが再現できるのだという。従って筆者が感じたダイレクト感とリラックス感の同居というシャシーが生まれたのかもしれない。
また、ハンドルそのものも軽量に感じ慣性マスが小さく、ダイレクト感につながっていると思う。ハンドルの質量が軽い場合、失敗すると質感の劣化や安物感となってしまうが、そこは手触りや見た目でカバーできている。おそらくマグネシウムステアリングを採用しているのではないだろうか。
エンジンは1.2L+ターボで4気筒の日産系のエンジンをベースを開発している。これからのルノー車の中心となるエンジンだ。ベースは日産ノート、マーチに搭載している3気筒エンジンを4気筒にし、ヘッドを新設計するなどして、120ps/190Nmの出力になっている。
組み合わされるミッションは6速乾式のツインクラッチEDC(DCT)でゲトラグ社との共同開発により実現したDCTである。このDCTは今後登場するGTモデル用に本来開発されたものだという。190Nmというサイズのわりには大きいトルクのためか、発進時の半クラッチも滑らかで、ATとの違いは感じないほど滑らかだ。シフトアップ、ダウンはDCTの性能を遺憾なく発揮し、すばやい変速が行なわれスポーツドライブも楽しむことができる。またしても、これがフランスでは大衆車カテゴリーなのかと感心させられる。ちなみに、サスペンションのセッティングなど欧州モデルとの差異はないということだ。
こうして試乗を終えて新型ルーテシアを眺めてみると、ボディサイズ的にもひとつ上のクラスと勝負できるモデルだとも感じる。それはゴルフ7であったり、デザインという点では、BMWミニあたりか。最も高級グレードのインテンスは238万円という安さだ。そしてルノーメガーヌをチョイスしているユーザーとも競合できるモデルだと思う。さらに言えば、これまでルーテシアはマニア向けだったり、ルノー好きだったりと限られたユーザーに人気のモデルであったが、グローバルでは販売台数の1位、2位を争う量産モデルの大衆車である。国内でもフィット、ヴィッツなどのほかに新たな選択肢が増えたと考えてもいいだろう。
そして設計図に適応できる既存部品を組み合わせて搭載するクルマ造りではなく、目指す完成車のレベル、走りから逆算して設計図に落とし込まれていく欧州車の、最新のクルマ造りを嫌と言うほど感じさせられたモデルだった。
■ルノー・ルーテシア価格表