ポルシェ本社は2022年8月17日、992ベースのピュア・スポーツモデル「911 GT3 RS」のワールドプレミアを行なった。新型911 GT3 RSは、その意図通り至高のパフォーマンスを実現するために妥協なく設計されたピュア・スポーツマシンだ。
最高出力525psのエンジンを搭載し、サーキットのみならず公道走行可能な高性能スポーツカーは、モータースポーツのテクノロジーとコンセプトをフルに採用している。レースのDNAと先進的な軽量構造の高回転型自然吸気エンジン、卓越した冷却性能と空力システムは、モータースポーツ専用モデルの911 GT3 R直系であることを物語っている。
空力システムと冷却性能
ラジエーターは、ル・マン24時間レースでクラスで優勝した911 RSR、そして911 GT3 Rで採用されている大型のセンターラジエーターを採用し、通常はフロント・ラゲッジルームとされているスペースに傾斜させて配置。通常の911モデルは3分割され、ボディサイドに配置した3ラジエーター式に比べ、より効率的で高い冷却性能を実現している。
またこのセンター配置により、サイドに空いたスペースを利用してアクティブ・エアロダイナミック装置をレイアウトすることが可能になった。フロントと2分割のリヤウィングに装備された連続可変式ウイング・システムと、多くの空力対策により、200km/h走行時で409kgの総ダウンフォースを発生することができ、285km/h時には、総ダウンフォースは860kgに達する。これは、この911 GT3 RSが991型後期モデルと比べて2倍、現行の911 GT3と比べて3倍のダウンフォースを発生させることを意味している。
そして、新型911 GT3 RSは新たにドラッグ・リダクション・システム(DRS:空気抵抗低減装置)が初めて搭載されている。コースの直線区間で空気抵抗の低減と高速の伸びを実現するため、ステアリング上のボタンを押すだけでウィングを平らにするDRSが作動する。高速走行中の急ブレーキ時には、フロントとリヤのウィング角度が最大に自動作動し、ブレーキを大幅にサポートする空力的な効果を生み出すこともできる。
新型911 GT3 RSのエクステリアは、機能優先のエアロダイナミクスの装備がが特徴だ。最初に目を引くのが大幅に大きくなったスワンネック支持のリヤウィングだ。リヤウイングは固定式のメインウイングと、油圧式で調整可能なアッパーウイングから構成されている。
ポルシェの市販車で初めて、リヤウィングの上端がルーフより高く位置にされている。さらにフロントエンドにはスポイラーが削除され、その代わりに上下に流れる空気を分割するフロントスプリッターが採用されている。
フロントのサイドブレードは正確に空気を外側にガイドし、フロントホイールアーチのベンチレーションは、フロントウィングに設けられたルーバー状の開口部を通じてエアが導入される。
ル・マンを制した911 GT1の象徴的なスタイルであるフロントホイール後方のインレットは、ホイールアーチの動圧を低減させる役割を持っている。吸気口の後ろにあるサイドブレードは、空気流を車両の側面に導く役割を持つ。フロント中央に配置されたラジエーターからの空気は、フロントリッドに設けられた大きな排出口から排出される。
ルーフのフィンは気流を外側に導く効果があり、リヤのエンジン吸気温度をより低く保つことができる。リヤサイド・パネルの開口部はエアロダイナミクスの改善に使用されている。リヤホイールアーチにも吸気口とサイドブレードが設けられ、気流を最適化。そしてリヤのディフューザーは911 GT3のデザインを継承しながら、若干の変更が加えられている。
シャシー
サスペンションもエアロダイナミクス対策が徹底されている。ホイールアーチは強力な気流にさらされるため、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのコンポーネントは、翼断面形状となっている。この空力的なサスペンション・リンクは、トップスピードでフロントアクスルのダウンフォースを約40kg増加させる効果がある。トレッド幅は911 GT3より29mm広く、そのためサスペンション・リンクもそれに応じて延長されている。
高速からのブレーキングでもフロントとリヤアクスル間のダウンフォースバランスが維持されるように、ブレーキング時のピッチングを大幅に減少させている。フロントのロワトレーリングアームのボールジョイントがフロントアクスルの低い位置に設定され、リヤのマルチリンク式サスペンションも専用チューニングされ、スプリングレートが変更されている。もちろん運転支援システムとリヤ操舵システムも、よりダイナミックなセットアップとなっている。
911 GT3 RSの走行モードは、ノーマル、スポーツ、トラックという3種類が設定されている。トラックモードでは、基本的なコンポーネンツ設定を個別に選択調整することができる。中でも、フロント、リヤのダンピングは、個別に数段階に分けて調整することが可能だ。また、リヤ・ディファレンシャルのLSDは、ステアリング・ホイールのロータリー・コントロールで調整することが可能。これはモータースポーツからの流用で、素早く直感的に操作できる。
ステアリングホイールには、4つのロータリースイッチとドラッグ・リダクション・システム(DRS)用のボタンが配置されている。回転式コントロールは、調整中にメーターパネルにグラフィックで明確に表示される。911 GT3譲りのトラック表示も装備。ボタンに触れるだけで、ドライバーは2つの7インチ・サイドディスプレイに必要な情報だけをデジタル表示できる。アナログタコメーターの左右にあるギアシフトインジケーターも、GT3譲りである。
パワートレイン
水平対向6気筒4.0Lの高回転自然吸気エンジンは、911 GT3と比較してさらにチューニングされている。525psへの出力向上は、主にカムプロファイルを変更したことで達成されている。シングルスロットル吸気システムとダイレクト・バルブ駆動は、モータースポーツに由来するタイプだ。
7速のポルシェ・ドッペルクップルング(PDK)は、911 GT3よりも全体のギア比がクロスレシオ化されている。またアンダーボディのPDK用エアインテークは、サーキットでの頻繁で極端な負荷にもトランスミッションを冷却し耐久性を向上されている。
動力性能は0-100km/h加速が3.2秒、7速で296km/hの最高速度に到達する。フロントのブレーキは6ピストンのアルミニウム製モノブロック対向キャリパー、直径408mmのブレーキディスクが組み合わされている。911 GT3と比較して、ピストンの直径は30mmから32mmに拡大され、ディスクの厚さは34mmから36mmに拡大されている。
リヤは380mmのブレーキディスクと4ピストンの対向キャリパーを装着。オプションのポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ(PCCB)は、フロントアクスルが410mmディスク、リヤは390mmディスクを採用する。またホイールロックは、鍛造軽合金製センターロックホイールが標準装備されている。タイヤはフロントは275/35 R20、リヤは335/30 R21の公道走行可能なスポーツタイヤで、卓越したグリップを確保している。
軽量化
ピュア・スポーツマシンとして軽量化も徹底されている。カーボンファイバーの多用など、さまざまな軽量化対策により、911 GT3 RSは多くの大型コンポーネントにもかかわらず、車両重量はDIN規格で1450kgを実現している。例えば、ドア、フロントウイング、ルーフ、フロントリッドはカーボン製。また、標準装備のフルバケットシートなど、インテリアにも軽量なカーボン素材が使用されている。
インテリア
インテリアは、ブラックレザー、レーステックス、カーボンウィーブ仕上げなど、典型的なRSスタイルで仕上げられ、ピュア・スポーツそのものという雰囲気だ。また装備的にはクラブスポーツ・パッケージが標準装備となる。つまりスチール製ロールケージ、携帯型消火器、ドライバー用6点式シートベルトなどは装備される。
有料オプションのヴァイザッハ・パッケージを選ぶと、フロントリッド、ルーフ、リヤウィングの一部、サイドミラーのアッパーシェルにカーボン織布処理が行なわれる。フロントとリヤのスタビライザー、リヤのカップリングロッド、リヤアクスルの補強パネルもカーボン製となり、ドライビングダイナミクスをさらに向上させることができる。
またヴァイザッハ・パッケージ用ロールケージは、今回初めてカーボン製となり、スチール製に比べて約6kgの軽量化を実現。ヴァイザッハ・パッケージのもう一つのハイライトは、モータースポーツ由来の電磁式のPDKシフトパドルだ。より正確な圧力ポイントと明確なクリック感により、ギヤチェンジの操作性をより高めることができる。さらにヴァイザッハ・パッケージのオプションとして、マグネシウム製鍛造ホイールが用意され、これによりさらに8kgの軽量化ができる。
新型911 GT3 RSは現在注文受付中で、ドイツ国内では22万9517ユーロ(約3157万円)からとなっている。
911 GT3 RSクロノグラフ
スイスのソロトゥルンにあるポルシェの時計製造工場は、最高の精度が求められるモータースポーツ精神からインスピレーションを得て、911 GT3 RSクロノグラフを開発した。この機械式時計は、このマシンのオーナーのために用意されている。
ガラスビーズブラスト仕上げのケースをベースに、ナチュラルチタンまたはブラックチタンを使用し、ねじ込み式リューズを装備。時計内部には、COSC認定を受けた高精度のポルシェデザイン・クロノグラフ・キャリバー「WERK 01.200」が搭載されている。
フライバック機能により、ワンアクションで秒針のスタート、ストップ、リセットを行なうことが可能。クロノグラフのプッシュボタンには、「Start/Stop」と「Next Lap」のレーザー刻印があり、このクロノグラフが単に時間を知らせるだけのものではないことを物語っている。