マクラーレン・オートモーティブが発売するモデルで、エントリーモデルに位置するのはスポーツシリーズ。それが今回試乗した570Sクーペだ。試乗はサーキットではなく、一般公道でのテストドライブで、極限の性能というより「普通に乗れる」ことを証明するような試乗だった。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
マクラーレンのエントリーモデルとはいえ価格は2556万円(税込み)からという値段。マクラーレンには3つのモデルレンジがあり、1億円クラスのアルティメット・シリーズのP1やP1GTR、3000万円~5000万円のスーパーシリーズの650Sや675LTに対して、570Sクーペは確かにエントリーモデルというポジションになるのかもしれない。
このスポーツシリーズはスーパーカーを操っているときの高揚感を味わいつつ、最も高い実用性とお求めやすい価格を謳ったモデルでもある。まもなく540Cも導入されるだろうが、こちらはさらにお安く2188万円だ。
ルックスはご覧のとおり申し分のない迫力と特別感満載のデザインで、羨望の視線を感じることは間違いない。ボディサイズは全長4530mm×全幅2095mm×全高1202mmでローフォルムにワイドなルックスは見るものの目を惹きつける。
搭載するエンジンはマクラーレンとリカルド社が共同開発したV型8気筒ツインターボで3.8L。マクラーレン570Sの車名のとおり570ps/7400rpm、600Nm/5000rpm-6500rpmで、7速シームレス・シフトギヤボックス(SSG)というデュアルクラッチタイプのミッションが組み合わされミッドに搭載する。0-100km/h加速が3.2秒、0-200km/hが9.5秒、最高速328km/hという俊足で、そのパワーを試せる公道がないのは残念だ。ちなみにエンジンはドライサンプを採用している。
だが、実用性が高い・・・ともアピールする。実際に試乗してみると、ドアの開き方からしてただものではない。専用開発されたカーボンモノコックの「モノセルII」はフロントシル幅を狭くし、スーパーシリーズの650Sより高さを80㎜下げているので、見た目からの印象ほど乗降性に難点があるわけでない。
また、この特徴的なドアの開きかたをディヘドラルとマクラーレンは呼んでいる。また詳しい人であれば、バタフライドアと呼ぶ人もいるだろう。跳ね上げ式の開閉でアルミを主体としてつくられているドアだ。ドア・シェルの上半分はレジンインジェクション(樹脂注入)製法で成型されたもので、薄い形状と軽量化しているといううんちくがある。
570Sの特徴としてボディパネルの大半がアルミになっていることも挙げられる。アルミを空気圧でモールドに押し込み、成型するスーパーフォーム製法で作られ、複雑に入り組んだパーツを組み込むことが可能になっているわけでもある。
シートに身を沈めると、グローブボックスやドリンクホルダー、バニティミラーなどがあり、確かに普通のクルマのような装備がある。だが、身体にフィットするバケットタイプのシートのフィーリングはいやでも高揚感が湧き出る。
センターコンソールにはドライビングモードやESCの介入レベル調整などのボタンと一緒にプッシュ式のギヤセレクターがある。Dレンジをプッシュし走り出すとその乗り心地のフツーさに驚く。ランボルギーニなどのスーパーカーと呼ばれるモデルたちとは明らかに異なるしなやかさがあるのだ。特に低速であればあるほどその違いを感じやすい。
ステアリングは電動油圧式をマクラーレンは一貫して採用しているが、570Sも同様だ。自然なフィーリングでだれでも気軽にハンドルを操作できるだろう。アクセルをゆっくりと踏み一般道を経由して高速道路に乗る。その間40km/h前後の車速でゴーストップを繰り返す。しかし、何の違和感も感じないで普通に車列に並び、行進できる。
高速の合流ではアクセルを30%程度まで踏み込んでみると、一気に制限速度まで達する。いとも簡単に合流しあとは追い越し車線を走行するも、前走車はみんな道を開けてくれる。速度オーバーしないで走りたいが、譲られると申し訳なく、関西人ではないが「なんでやねん」と突っ込みをしたくなる気分になりつつ、瞬間で置き去りにする。
装着するタイヤは専用開発されたピレリP ZERO Corsa。タイヤサイズはフロント225/35R19、リヤは285/30R20で乗り心地も硬くなく、サスペンションがよく動き、しなやかな乗り心地で走る。ブレーキはカーボンディスクでフロント394㎜に6ポッド、リヤ394㎜に4ポッドキャリパーが装備され、安心の減速力とグリップ感がある。
サスペンションはアダプティブダンパーを装備し減衰力が可変する。ノーマル、スポーツ、トラックからなるハンドリング・セッティングによりバンプ側、リバウンド側の設定を変えることができるが、今回の試乗では詳細な違いをレポートできるレベルに達しなかった。スポーツ、トラックは、いわばサーキット走行に照準を合わせたセッティングに変化するモードのため、一般道ではその変化のべレルはわからない。
同様にESCの介入制御もダイナミックモードが新たに新設され、限界時のコントロール性やドリフトコントロール性の高さが挙げられるが、もちろんテスト不能だ。ESCは専用のスイッチを設けることで、ハンドリング・コントロール・ダイヤルの設定に関係なくESCを制御できるようになっている。
マクラーレン570Sクーペはポルシェ911GT3、GT3RSあたりが最大のライバルといわれるが、こうした市街地での走行では日常的な乗り味がより普通なのはマクラーレンのほうだ。ポルシェは間違いなく高級車のしっとり感を持った乗り味で軽快なエンジンとで気持ちよさがあるが、GT3のようなモデルになるとやはりレース、サーキットの匂いが強くなる。だが、この570Sクーペはそこまで匂わせていない、普通に乗れるという印象だった。まさに実用性が高いスーパーカーと言えるだろう。