【ポルシェ】 ローナー・ポルシェ 世界初のハイブリッドカーを再現

雑誌に載らない話vol27
2011年3月に開催されたジュネーブショーで、ポルシェは元祖ハイブリッドカー、ローナー・ポルシェの復刻モデルを出展した。このモデルは、111年前の資料や図面をもとに再生された世界初の走行可能なフルハイブリッドカー「Semper Vivus」なのである。

このレプリカモデルの製作のためにヒンターツァルテンに拠点を置くコーチビルダー、ドレッシャー社とポルシェエンジニアリング社のエンジニアが共同し、細部に至るまでオリジナルを忠実に再現し、走行可能で当時と同等の性能になるレプリカとして造られたのだ。

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↑復刻されたローナー・ポルシェ

5月10日から6月13日までドイツ・シュトゥットガルトのポルシェ本社ミュージアムで特別展「フェルディナンド・ポルシェ=ハイブリッドシステムのパイオニア」が開催され、ここでも「Semper Vivus」が展示される。そして5月21日〜22日にはポルシェミュージアムの展示会場で走行デモンストレーションが行われることになっている。

フェルディナント・ポルシェは、23歳のとき勤務していたオーストリア・ハンガリー帝国のベラ・エッガー商会に電気自動車修理の仕事が舞い込んだ。その修理を担当したポルシェの仕事ぶりを見て、修理の依頼主であるヤーコプ・ローナーがポルシェをウイーンにあった自らの会社、ローナー宮廷馬車製造工場(k.u.k.Hofwagenfabrik Ludwig Jacob Lohner & Co)の電気自動車部門の技師に抜擢したのだ。

ポルシェはベラ・エッガー商会時代から、当時の欠点だらけの電気自動車を根本的に見直し、画期的なアイデアを考案して前輪駆動、ハブモーターなどをローナー社でアイデアを車としてまとめあげた。前輪の左右にハブモーターを採用し、バッテリーの充電用として4気筒エンジンを組み合わせたシリーズ・ハイブリッドシステムとしたのだ。

FF標準モデル P11_0241_a4

↑FFで4気筒エンジンを搭載したシリーズハイブリッド

そして2年後の1900年に開催されたパリ万国博覧会にこの革新的なハイブリッド車、「Semper Vivus」(通称ローナー・ポルシェ)を出展し、グランプリを受賞したのである。この時代に電気自動車は珍しくなかったが、トランスミッションなしで摩擦損失を最小限としたことが画期的とされ、世界初のトランスミッションレス自動車として評価されたわけだ。

ハブモーターであればトランスミッション、減速ギヤ、ドライブシャフトなどが不要になる。前輪に取り付けたハブモーターはそれぞれが1.9kW(2.5ps)/120回転?2.6kW(3.5ps)、瞬間的には5.2kW(7ps)を発生した。ポルシェは自らがステアリングを握り、ウイーン周辺で行われたレースに出場し優勝もしている。

このクルマの評判はパリからイギリスにまで広がったという。そしてイギリスからローナー社に最初の注文が届いたが、それはパリ万博に出展した仕様とは異なり、4名乗車(万博出展車は2名乗車)でバッテリーだけではなくエンジンでも走行できる4輪駆動というものだった。

この注文を実現するために価格は途方もない金額となったが、ポルシェは納車した。それゆえ、ローナー・ポルシェには4輪駆動仕様も存在するのだ。この注文主は前輪駆動のバッテリーのみで走行する電気自動車も合わせて購入している。

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↑FF走行する電気自動車 右)ローナー・ポルシェには4WDも存在した

この時期、ローナー・ポルシェはオーストリアでの最高速度60km/hをマークし、速度記録を更新。1906年にポルシェはオーストリアで最も優秀な自動車エンジニアとして表彰されている。そしてこの年、ポルシェはローナー社からダイムラーベンツ社に移りチーフエンジニアに就任した。ローナーは「ポルシェはまだ若いが、今後さらに大きな仕事をやってくれるだろう」と語ったという。

ローナー・ポルシェに搭載されたバッテリーは44個、80V/300 Ah(重量は410kg)で、バッテリーのみで50km走行できた。充電用の4気筒ガソリンエンジンはフランスのドディオン・ブートン社製で、2個の発電機を駆動し、ひとつはハブモーターにダイレクトに電力供給を行い、もうひとつはバッテリーを充電するようになっていた。

車両重量は1890kgで前軸荷重1060kg、後軸荷重830kg。なおホイールは頑丈な木製で、ハブモーターを組み込んだ前輪は1輪が110kgもあった。ドライバーの視線は地上から2mとなる。また当時のクルマとしては異例な4輪ブレーキを装備し、前輪は電気的ブレーキを、後輪はバンドブレーキとしていた。また後輪にはラチェット式のパーキングブレーキも装備されていた。

ローナー・ポルシェの基本仕様は、前輪駆動、レース用、特別注文用の4輪駆動の2種類がある。ローナー・ポルシェは約300台が製造され、大富豪や王族が購入した。価格的には当時のどのクルマより高価だった。

文:編集部 松本晴比古

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