ポルシェ スポーツモデル試乗記 松田秀士&桂伸一

マニアック評価vol25
ポルシェ ジャパンが主催するスポーツモデル試乗会が行われた。用意されたモデルはカイエン、パナメーラを除くもので、2011年モデルを含むラインアップだった。編集部では、松田秀士、桂伸一の両氏に試乗インプレを依頼し、改めてポルシェの魅力を探ってみた。

ポルシェ、とりわけ911は、生粋のスポーツカーとして登場以来、世界のクルマのダイナミック性能のベンチマークとなってきた。ここでいうベンチマークとは、スポーツアートとしてのそれではなく、あくまでも高性能車としてのベンチマークである。

たとえば、911の承認タイヤはタイヤ業界において、高性能タイヤのひとつの基準になっているし、911のブレーキ性能(制動力だけではなくブレーキング姿勢、安定性etc)、加速時のトラクション、超高速域におけるハンドリングやコントロール性、乗り心地(スポーツカーとしての乗り心地)なども常に他社の開発ターゲットとなっている。その一方で、ポルシェは年々進化しており、入念な開発テストも他社にとっての規範となるものである。

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ポルシェの最新テクノロジー

ポルシェの現在のラインアップは大きく分けて5系統あり、スポーツモデルが911系、ボクスター系、ケイマン系で、心臓部が何れも水平対向6気筒エンジンを搭載している。いっぽうラグジュアリーモデルがパナメーラ系とカイエン系がありV型6気筒、V型8気筒を中心としたレンジ展開をしている。そして、各モデルにパワーアップ&軽量化したSモデル、4WDモデル、ターボモデルなどが加わるラインアップとなっている。

スポーツモデルに搭載される水平対向6気筒エンジン、つまりポルシェ=ボクサーエンジンは伝統的であるいっぽう、最新のテクノロジーも絶えず盛り込まれている。最新技術のひとつにDFI(ダイレクト・フューエル・インジェクション直噴)がある。その効果は燃焼効率をあげることができるため、出力をアップするとともに排気ガスのクリーン化、つまりCO2の低減にもつながる技術でもある。

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↑911turbo エンジンとケイマン用

その燃料噴射システムだが、ポルシェは120〜140barまで加圧し、ソレノイド式インジェクターでmm/sec単位の制御を行いながら、各シリンダーに燃料を多段噴射している。噴射される際のスワールによって混合気の均質化ができ、燃焼効率を向上させている。さらに、燃料を直接燃焼室に噴射するため、冷却効果もあり、結果圧縮比をあげることができ、出力アップが可能になるわけだ。

さらに、バリオカム/バリオカム・プラスという可変バルブタイミング&リフト機構も搭載している。まず吸気側のバルブタイミングを変える可変バルブタイミングシステム(バリオカム)があり、そのシステムにバルブリフト量を可変させるバリオカム・プラスが加わっている。この可変リフトを行うバルブリフターはシェフラーグループのINA社製だ。これにより、エンジンのあらゆる回転域でパワー/トルクを最適化することが可能であり、低燃費、低エミッションへとつなげている。ちなみに911GT3に搭載されるエンジンには、吸気側だけでなく、排気バルブの開閉タイミングを可変させるバリオカム・システムが投入されている。

バリオカム variocamplus

↑バリオカムとバリオカム・プラス

エンジンにおける、妥協のない追求を象徴しているのがドライサンプシステムだ。かつてはオイルタンクをエンジン外部に設けていたが、現在はインテグレーテッド・ドライサンプシステムとなり、エンジン内部に組み込まれている。ベースエンジンで5個(スカベンジング4個、フィード1個)、高出力仕様では7個(スカベンジング6個、フィード1個)のオイルポンプを備え、ニュルブルクリンクのような横Gが1Gを越えるような走行シーンでも、安定した油圧が得られるようになっている。こうしたこだわりはポルシェの思想を明確に表している。

ターボエンジンでは、可変ジオメトリー式(VTG)のタービンが採用されている。これは911のタイプ997のときから採用されているが、当時世界初のガソリンエンジンに採用した技術でもある。現在はツインスクロールやバリアブルタービンなど各社が採用を始めている技術であるが、ポルシェが最初であった。

このVTGはタービンハウジング内に可変ガイド弁を設け、排圧を変化させるシステムである。つまり、エンジンが低回転時と高回転時では排圧に大きな差があり、特に低回転時に排圧が低く十分な過給が行われない。それをガイド弁で排気ガス流路体積・流速を制御することで、低回転時でも高い排圧が得られるようしているのである。こうすることで、タービンの速度をあげてブースト圧を高めることが可能になっている。その結果、燃焼室内での充填効率は高まり、パワー/トルクを増大させることが可能になるというわけだ。

この技術は、ドライバーのフィーリングとして、低回転からもトルクがあり、スロットルレスポンスに優れ、瞬時に驚異的な加速をすることを体感することになる。そして、ターボラグといわれた現象はすでに過去のものとなっていることに気づくだろう。

VTG2 TURBOLAD

↑VTGタービンイメージ

インテークマニホールドにも興味深いテクノロジーが存在する。それはエクスパンション・インテークマニホールドである。従来のターボエンジンのインテークシステムは、燃焼室により多くの空気を送り込むことで、出力増大していた。つまり、過給圧と吸気脈動の圧縮が高まることで相乗効果を得ていたが、ポルシェはこれまでと逆の原理を応用しているものなのだ。

それは空気を吸気脈動の圧縮フェーズではなく、膨張フェーズで燃焼室に送り込んでいるというものである。空気を圧縮すれば温度が上昇し、燃焼室温度もあがってしまう。だからインタークーラーの能力も大きく影響する。しかし膨張していく過程の吸気は温度を下げながら燃焼室に送り込まれるわけで(吸気の断熱膨張)、燃焼室内の温度も低くなるわけだ。そして同じインタークーラーであれば、シリンダーに送り込んだときの温度は膨張フェーズのタイミングのときのほうが低い温度になっている。もちろん、膨張フェーズでは圧縮フェーズに比べ空気の量は少ないので、ブースト圧を高めて不足分を補っている。このエクスパンション・インテークマニホールドを成立させるために、ポルシェはマニホールド長を長くし、最適な吸気脈動の膨張フェーズを利用できるようにしているのだ。

このように出力を高められているポルシェのエンジンだが、そのマウント方法にも興味深いテクノロジーがある。それは、ダイナミック・エンジンマウントと呼ばれ、エンジンを含むパワートレイン全体の揺れや振動を最小限に抑えることのできる電子制御システムである。

これは、コーナリングの際、慣性の法則により重量物であるエンジンは、それまでの進行方向を維持しようとする。その慣性力の作用をうけて、リヤにはコーナーの外側に向かう力が発生する。ダイナミンク・エンジンマウントはこうした現象を最小限に抑える働きをするマウント方式で、横Gの高いコーナリングでのクルマのコントロール性を向上させる徹底したシャシー対策のひとつとなっている。

ダイナミックエンジンマウント

システムは、各種のセンサーを用い、操舵角、前後G、横Gを常にモニターし、これらの情報と合わせて、路面状況やドライビングスタイルに応じて左右のエンジンマウントの硬さを自動的に調整している。これはすでにマグネティック可変ダンパーと同様に、磁性(磁気粘性)流体と電流のつくる磁界の双方を利用したもので、磁性微粒子を整列させると流体の粘度が増大する仕組みを応用している。こうした原理によって、エンジンマウントの硬さと減衰力を調整し、通常走行時にはマウントをソフトにし、振動を抑え快適性を高めている。また、スポーツ走行時にはハードにすることで、よりダイレクトなフィーリングが得られるようになるのだ。

これまで、エンジンマウントの働きとしては、振動などを抑えるためのものであり液体封入式マウントなどがあったが、何れも負の要因を打ち消すための技術であった。しかし、ポルシェのダイナミック・エンジンマウントは走りを積極的に向上させるためのアクティブな新技術であり、このように操縦性を向上させるために、他社では考えられないコストをエンジンマウントに注ぎ込んでいることに感心させられてしまう。ちなみに、911ターボSに標準装備。911ターボ、911GT3にオプションで装備することができる。

革新的トランスミッション

ポルシェのトランスミッションには6速マニュアルと7速PDKがあり、カイエンには8速のティプトロニックSという3種類のミッションがある。スポーツモデルはマニュアルかPDKをチョイスすることが可能で、PDKとはポルシェ・ドッペルクップルングというオリジナルのツインクラッチである。

7速PDKは6速で最高速度に到達するようにレシオが組まれ、7速は高速巡航用のレシオとなっている。ユニットはZF社製のもので、仕組みは2本のインプットシャフトがあり、ひとつは中空構造でありその中を、もうひとつのインプットシャフトが貫通する構造になっている。エンジン出力は常にどちらかひとつのクラッチを介して駆動されているので、変速のロスがまったくなく、これまでの概念とは違った新しい変速機となっている。

ちなみに、カイエンに搭載される8速ティプトロニックSも、ZF社製のユニットをポルシェが独自に制御しているもので、トルクコンバーターを使ったATである。6速で最高速度に到達し、7速、8速は低い回転で高速走行が可能となるレシオに設定されている。そのため、高速走行では高い静粛性、ならびに燃費の向上にも貢献している。

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↑PDK作動イメージと内部

豊富なドライバー支援とアクティブセーフティ

ポルシェには多くの電子制御があり、安全に速く走らせる制御からスポーツドライブを楽しむための制御まで、じつに多くの機能が備わっている。

PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)は走行中のクルマが危険な状況に陥ったときに、電子制御によってクルマを安定させるシステムだ。進行方向や走行速度、ヨーレート(垂直軸まわりの回転速度)、横Gを計測し、解析する。そのデータをもとに各タイヤに個別にブレーキをかけクルマの姿勢安定に戻す働きをしている。このシステムは路面のμ(ミュー)変化がある場合、トラクション確保の働きもしている。それは、ABD(ブレーキ・デファレンシャル)やASR(アンチ・スリップ・コントロール)と連動して行われる。スポーツドライブを楽しむ場合にはOFF設定が可能となっている。さらに追加機能として、より素早いブレーキ操作の作動を可能にするブレーキプレチャージ機能と、4輪すべてに最大限の制動力を加えるブレーキアシスト機能がある。(911GT3を除く)

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↑ケイマンの透視図

オプションにはスポーツクロノパッケージが装着できる。これは一括してエンジンとシャシーの性能をアクティブに強化することができるもので、スポーツ、スポーツ・プラスのモードからなる。どちらのモードを選択した場合でも上記のPSMのアシストを最小限の介入となるもので、作動基準値が引き上げられ仕組みになっている。モデルにより異なるが、スポーツ・プラスモードはスポーツ走行に適したプログラムになるので、エンジンのレブリミッターもよりハードな設定に切り替えることができる。

また、PDK仕様車でスポーツ・プラスを選択すると、シフトポイントも最大限の加速性能を引き出す設定に変化する。また、ローンチコントロールとレーシング・シフトプログラムの機能も追加され、強烈な発進加速と俊敏なシフトによる走りが可能になるということだ。

ダンパー

さらに911ターボモデルであれば、オーバーブースト機能が働き、一時的にブースト圧を上昇させ911ターボであれば700Nmにまでトルクは引き上げられる。(通常650Nm)

PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメント)は電子制御式サスペンションのことで、各ダンパーの減衰力を無段階に調整するものである。このPASMにはノーマルとスポーツの2種類のモードがあり、路面状況やドライビングスタイルで任意でチョイスが可能となっている。

911ターボとカレラ4の4WDモデルにはPTM(ポルシェ・トラクション・マネージメント)がある。これはマルチプレート式のクラッチによって、前後のアクスルへのトルク配分を変化させ、あらゆる走行条件下で最適な駆動力が得られるように制御をするものである。

さらに、これら4WDモデルにはPTV(ポルシェ・トルク・ベクトリング)とPVTプラスがある。これはLSDとの組み合わせがPTVで電子制御式デファレンシャルとの組み合わせがプラスになる。どちらもエンジントルクを左右のリヤタイヤに可変分配する仕組みで、ステアリングの操舵角とスピード、アクセル開度、ヨーレートなどに応じて、左右個別に制御している。これにより、回頭性が向上し素早いコーナリングが可能となる。

まだ、ここに解説しきれない電子制御やテクノロジーがあるのだが、多くのシステムがドライビングを楽しむための技術であり、それらを惜しみなく投入するというこだわりのポリシーはポルシェの魅力そのものといえる。

文:編集部 高橋明

ポルシェジャパン 公式Web

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