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2019年6月に開催された「G20大阪」(主要20か国首脳会議)で、日本に初めて「アウルス セナート」が登場した。乗るのはもちろんロシアのプーチン大統領だ。プーチン大統領の専用車は、ベースの「セナート」をストレッチしたリムジンで、大統領専用車のため厳重な耐弾・防爆防御の装甲システム、衛星通信システム、軍事指令システムなどをフル装備しており、アメリカの大統領専用車のキャデラック・プレジデンシャル・リムジン(ビースト)と同様の仕様になっていると想像される。
また、G20大阪ではプーチン大統領専用のロングストレッチ・リムジン以外に、標準モデルの「アウルス セナート」とプラットフォームを共用する大型MPV「アーセナル」も登場している。「アウルス」とはどんなクルマなのか、どのようなメーカーが製造しているのだろうか?
ロシアの自動車メーカー
日本では、ロシアの自動車事情に関する情報はまったくといっていいほど入ってこないので、まずはロシアの自動車メーカーの概略を見てみよう。
現在の主要な自動車メーカー、特に乗用車のメーカーは次のようになっている。
- Avtokam(アフトカム):SUV車を生産
- Avtotor(アフトトール):BMW、GM、ヒュンダイ、キア、南汽のノックダウン生産を担当
- AvtoVAZ(アフトワズ):ルノー、日産、三菱の資本傘下。ロシア、東欧地域で最大の自動車メーカー
- Derways Automobile Company(ダーウェイ):重慶汽車と提携
- GAZ(ガズ):1929年にフォードと提携してスタートした歴史あるメーカー
- GM-AvtoVAZ(GM-アフトワズ):GMとの合弁企業
- Lada(ラーダ):AvtoVAZのラーダ・ブランド
- Lada Izhevsk(ラーダ・イシェフスク):ラーダの子会社。バイクも生産
- PSA Bronto(ブロント):AvtoVAZの子会社。PSAと提携。ラーダ・ニーヴァを生産する4WD生産企業
- Spetsteh(スペツテック):本格オフロード車の生産メーカー
- TREKOL(トレコール):大型4WD車のメーカー
- UAZ(ワズ):軍用車、4WD車を製造するメーカー。フォルクスワーゲン、いすずと提携
- Volkswagen Group Rus(フォルクスワーゲン・グループ・ロシア):フォルクスワーゲン・グループのノックダウン・メーカー
実は、こうした乗用車中心の自動車メーカー以外に、ロシアにはトラック専門メーカーがある。ソ連時代からのDNAで、こうしたトラック、特にヘビーデューティ・トラックに関しては他国の追随を許さない実力を持っている。
アウルスの開発
アウルスは、上記のような既存の自動車メーカーではなく、モスクワ自動車&エンジン研究所「NAMI」が中心となって、ゼロから開発した最新のクルマだ。生産モデルは2018年8月に開催されたロシア・モーターショーでワールドプレミアが行なわれている。
このリムジンは、2018年5月のウラジミール プーチン大統領の就任式やロシア戦勝記念日パレードで世界にその存在が知られるようになった。
ロシアというよりソ連時代からのフォーマルな高級リムジンは「ジル(ZIL)」が有名であった。ジルを生産していたのはリハチョフ記念工場で、ジル以外にトラック、水陸両用車などを生産していたが、自動車メーカーとしては不振が続き、2012年に破産してすべての車両生産を停止している。
リハチョフ記念工場の衰退の影響もあって、1990年代からはロシア政府の大統領公用車にはメルセデス・ベンツ(W221)プルマン・リムジンが使用されてきた。しかし、プーチン大統領は2012年に200億円の予算をつけて、新たなリムジンの開発を命じた。
新たな開発プロジェクトに対して、GAZやトラックメーカーのKAMAZが名乗りを上げ、KAMAZはメルセデス・ベンツ、ポルシェなどとの共同開発を提案した。しかし結局4WDメーカーのUAZ、GAZ傘下のバスメーカーのLiAZが開発や生産に協力することが決定した。
そして主要なコンポーネンツの開発を委託されたのは、既存の自動車メーカーではなく、技術開発を専門としているモスクワ自動車&エンジン研究所(NAMI)であった。そしてパワーユニットの開発にはポルシェ、ボッシュが技術支援を行なったとされている。
4.4L・V8ツインターボ+ハイブリッド
開発コンセプトはフォーマルなエグゼクティブ・リムジンであり、ロールス・ロイスのファントムに比肩するクルマとなっている。プロジェクト名は「コルティッシュ」と名付けられ、政府公用のリムジンだけではなく、民間用のエグゼクティブ・リムジン、SUV、MPVなども展開できるモジュラー・プラットフォームが採用されている。
搭載エンジンは、NAMI/ポルシェが開発した4.4LのV型8気筒ツインターボ・エンジンで、ハイブリッド・システムを採用し、63psの出力を持つモーターが駆動をアシストする。エンジン本体の出力は598ps/5500rpm、最大トルク880Nm/2200-4750rpmを発生する。
トランスミッションは9速ATで、4WDシステムを採用しており、ATユニット後部のトランスファーから前輪駆動用のプロペラシャフトがレイアウトされている。動力性能は0-100km/h加速が6秒、最高速は250km/hのリミッターを設定している。
また、サスペンションはフロントがハイマウント式ダブルウイッシュボーン、リヤがマルチリンクとなっており、ハイブリッド用バッテリーはリヤアクスル上にレイアウトされている。
アウルス・セナートの市販用モデルのボディサイズは、全長5630mm、全幅2020mm、全高1695mm、ホイールベース3300mmで、車両重量は2700kg。なおロングホイールベースの大統領専用車の全長は6620mmで、装甲仕様の車両重量は6200kgとなっている。
民間用のアウルス・セナートは、ロシア市場はもちろん、中国、中東諸国への販売が計画されており、プーチン大統領も積極的に中東の元首にアピールをしている。