【SAAB】個性派の伝統と最新ターボ&4WDテクノロジーを併せ持つ新型サーブ9-5

マニアック評価vol65

サーブ9-5の画像

2011年9 月、本国スウェーデンで会社更生手続きに着手したサーブだが、残念ながらその後の展望が今ひとつ見えて来ない状況が続いている。しかしながら2011年3月から導入され、日本での販売は継続中(以下は記事末尾を参照のこと)の新しいサーブ9-5について、石井レポーターの試乗報告をお届けしよう。

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危機を経験して輝きを増すブランドもあり

バブル期にブレークして以来、長らく脚光を浴びることのなかったサーブだが、新たな輸入元が決まるとともに新型9-5が導入されることもあって、最近では再び注目を集めている。

1990年からGM傘下にあったサーブは、2009年にGMが経営破綻したことで一時は存続自体が危ぶまれたこともあったが、オランダに本拠を置くスパイカーの資本によって復活。新生サーブとして再出発した。資本が変わったとはいっても、サーブそのものが変節することはないだろう。ジャガーやランドローバー、ランボルギーニにロータスなど、資本が変わった自動車ブランドは欧州に数多あるが、どこもアイデンティティを失ってはいない。むしろ、危機を経験したことでよりブランド強化に力が入り、以前にも増して輝きを放つことも少なくないほどだ。

サーブの魅力は、ドイツ勢が幅を効かせるプレミアムカーの世界にあって変化球的なブランドとして際立っていること。そしてその裏付けとして独特の技術へのこだわりがあることだ。

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↑フロント、リヤともにLEDランプが組み込まれている

開拓者のターボ・テクノロジーは今も健在

前身が航空機メーカーであり、その設計思想や伝統が脈々と受け継がれているのは、日本のスバルにも通じるところがある。具体的にそれが表れているのは、まず空力を意識したスタイリングだ。Aピラーをブラックアウトしたことで、ラウンドしたフロントウインドウからサイドウインドウにかけて連続性が見られ、航空機のキャノピーのようなイメージとなっている。これは1996年に発表したコンセプトカー、エアロXからエッセンスを受け継いだものだが、最近では他の自動車メーカーも採り入れており、ちょっとしたデザイントレンドともなっている。

特徴的な技術としてはターボが挙げられる。もともと航空機で発展してきたターボを、初めて市販自動車に採用したのはサーブ99。今でこそダウンサイジングとの組み合わせでターボ車は増えてきているが、サーブは1978年から一貫してこだわり続けてきており、その完成度は他を寄せ付けない。

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新型9-5も全車ターボエンジンとなっており、今回試乗したAero XWDのV6型2.8Lも最大トルクの400Nmを2000〜5000rpmで発生。低回転域から、しかも幅広い回転域で強力なトルクを提供するというサーブらしい仕上がりのターボとなっている。

 

航空機メーカーの血統が生む浮遊感覚!?

エンジンを始動させると音や振動はいたって低く抑えられ、アクセルを踏みこんでいってもパフォーマンスを強調するようなそぶりは見せないが、強力なトルクで決して小さくはないボディを軽々と加速させていく。スポーツカーのような官能的なエキゾーストノートなどは存在せず、むしろ大人しく感じられるぐらいだが、スムーズに、しかし力強いトルクで背中を押される感覚は他では得られない特有の感覚。ターボが効き出すと、まるで車両重量が軽くなってフワリと浮遊して飛んでいくような錯覚を覚えるのだ。

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高速道路で巡航していると、常に最大トルクが得られる回転域にあるので、右足に軽く力を込めるだけでいつでもその浮遊感が味わえる。どっしりと安定しきったシャシー性能も含め、高速ロングドライブは得意中の得意だ。これは従来のサーブ車に共通するところだが、新型9-5はハンドリングに進化が見られるのも特徴。とくにAero XWDはサスペンション形式まで他とは一線を画し、ロードホールディングを強化している。

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↑エアロ・グレードには19インチが標準装備となる

4WDのメリットを生かした旋回性能

ステアリングを切り始めた瞬間の反応はそれほど鋭いというわけではないが、フロントタイヤがガッシリと路面をつかんでグーッとノーズがインに引き込まれていく。気持ちいいのはアクセルを強く踏みこんでいってもアンダーステアが顔をのぞかせることがなく、むしろさらに旋回力が増していくような4WDシステムの巧みな制御だ。強力なトルクを4つのタイヤに振り分けつつ、抜群のライントレース性を見せる。

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乗り心地は、高速域ではフラットで好ましいものの、低・中速域では少々バネ下の重さを感じさせるようなところもある。これはAero XWDがひときわ大きなタイヤを装着している影響もあるだろう。本来は可変ショックアブソーバーの「サーブ・ドライブ・センス」がそれを緩和する役目を果たすのだが、残念ながら今年の日本仕様では採用されていない。街中での優しい乗り心地を期待するのであれば、直列4気筒2.0LターボのVectorか2012年仕様のAero XWD(サーブ・ドライブ・センスも導入予定)を待つことをお薦めする。

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↑XWDというのがサーブ流の4WDの呼称

最近は景気が悪く、自動車販売は全体的には落ち込み気味だが、実は個性的な輸入車の売れ行きは少しずつだが伸びてきている。数が少ないとはいえ、フランス車やイタリア車が好調なのだ。サーブもその仲間入りができるかどうかが興味深いところだが、新型9-5の出来映えは十分に期待が持てるものだと言っていいだろう。

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文:石井昌道

撮影:伊濱順一

(以下は編集部より)

なお編集部が、日本における輸入元であるピーシーアイ株式会社に2011年10月25日に問い合わせたところ、在庫のあるモデルに関しては引き続き販売を継続しており、顧客サービスの面でも従来同様とのことだった。

 

サーブ公式ウェブ

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