サーブ人気復活へ向けて

93X

参考動画

Saab9-3 Review

このほどサーブ・オートモビルABと日本のPCIが総輸入代理店契約を結び、今年9月からサーブの販売が再開されることが発表された。現在は、GMからの補修パーツの移管や全国の販売店との再契約を進めている。なお、今後の販売店でのクルマや補修部品の発注はすべてサーブ本社のWEBを使用したクラウド・システムを採用するという。

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販売モデルは、9-3セダン、エステート、そして新車種クロスオーバーモデルの9-3X。今年の年末か来年初頭には新開発の9-5セダン、エステートを発売する予定だ。なお車名は正式には93、95となるが、かつて93や95というモデルが存在したためナイン・スリーのような呼称とし、ハイフンを記入して識別している。

国内でのサーブは、かつて西武自動車販売が長く取り扱い、マニア向けのクルマとして定着してきた。しかし1989年にサーブがGM傘下に入り、1992年からはミツワ自動車(サーブ・ミツワ)が輸入権を持ち、その後は日本GMがインポーターとなり、97年にはヤナセへ販売権が移った。そして、2000年にサーブはGMの完全子会社となったため、日本では2002年からGMアジア・パシフィックジャパンが輸入・販売を行うなど曲折があった。

そして周知のようにGMの経営破綻によりGMグループの解体が行われ、2009年2月にサーブは会社更生手続きに入った。このためスウェーデン政府の管理下におかれ、生産は7ヶ月以上に渡って全面的に停止した。

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このような状況の中で、2010年2月にサーブ・オートモビルABはオランダのスパイカー社(ハンドメイドのスーパーカーメーカー)の傘下に入り、自動車メーカーとして再出発し、生産・販売を再開したのだ。

それは、ヨーロッパ、アメリカを中心に販売網を再建し、日本での輸入販売も今回のPCI社との契約により決定。販売店ネットワークは、GMアジアパシフィック系の既存販売店をそのまま継続するということになった。なおスパイカー・サーブ・オートモビルABは従来通りスウェーデンのトロールハッタンに本社・工場を置いている。

サーブ社はきわめて小規模(最高で年産10万台程度)にもかかわらず歴史から消えず、新たな資本投入会社が登場するという事実は、得がたいブランド力がある証明といえる。

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インプレッサのプラットフォームを使ったモデルもあった

 

サーブ社はスウェーデンの軍用航空機製造会社として1937年にスタートし、第2次世界大戦後の1947年に自動車製造に着手。ユニークでプレミアムなクルマとして1970?80年代に評価を得たが、自動車メーカーとしての生産規模は驚くほど小さく、自国のマーケットも大きくないので、主として西ヨーロッパ市場とアメリカ市場での販売に力を注ぎ、輸出依存性が高いのが特徴のひとつである。

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1989年にGM傘下に入る段階で、航空機、軍備製造分野はサーブABとなり、自動車製造部門はサーブ・オートモビルABと分離され、相互の資本関係はなくなった。

GM傘下となったことで、プラットフォーム共通化の一環としてスバル・インプレッサがベースの9-2X、シボレー・トレイルブレーザーがベースの9-7Xなどがアメリカ市場向けに作るなど、GMに振り回された形になったが、本来のサーブは軍用航空機メーカーらしいアイデンティティの明解なクルマであり、クルマ造りの哲学はドイツ的な技術指向とスカンジナビアのデザインセンスを融合させた独特のものであった。

サーブ社初のクルマ、つまり1947年型試作車の92プロトタイプは、ドイツのDKWを手本にした2ストロークエンジン/FF駆動であったが、航空機的な発想で造られた空力/モノコック・ボディは、同社の特徴をよく表していた。

DKWはその後アウトウニオン→アウディとなったこともあり、サーブのエンジニアはアウディを意識していた。このため1970年代後半頃には、当時のアウディ100に対して、先駆的なターボエンジンを搭載したサーブ99、900を開発したサーブのエンジニアは、「アウディは高速直進性しか評価できない」といっていた。

つまり、同じFFでありながらサーブはコーナリングやハンドリング、インテリアの作り込みの質が高く、アウディよりスポーティでプレミアムだと断言していたのだ。

サーブ900はアメリカでも日本でも評価が高く80年代後半には、日本では作家など文化人が愛好して独自の価値観を持つプレミアムカーとしてちょっとしたブームにもなったほどだった。

一方で、アウディは80年代後半からF.ピエヒの指揮のもとで「A1」プロジェクト(ヨーロッパNo1のクルマを実現するというプロジェクト)を開始し、90年代に入るとその成果であるA4、A6を送り出し、従来のアウディのイメージを大幅に高めることに成功した。

ライバルはアウディと明言

 

今日、サーブ社の取締役は、「サーブはアウディA6に匹敵するクルマでなければならない」と考えている。現在開発中の新型9-5は、まさにアウディA6をベンチマークとして作り込みを行っており、A6を超える先進性を備えているという。

現在と今後のサーブのラインアップは、9-3(セダン、エステート)、9-3X(クロスオーバー)、今後新型の9-5(セダン、エステート)となる。つまりミディアムクラスとアッパーミディアムクラスという展開だが、同社の悲願としてコンパクトカークラスをラインアップしたいと考えている。

現在の9-3シリーズは、2002年に登場している。プラットフォームはオペル・ベクトラ/キャデラックBLSと共通のGMイプシロンだ。開発コンセプトは「Sporty Driver Focus」で、これはサーブが従来から一貫して追求しているドライビングプレジャーを意味している。

この9-3シリーズはドライビングプレジャーを重視したスポーツ性と、ラグジュアリーなテイストを持つているため、アメリカではスモール・エグゼクティブカーと位置付けられているのだ。

ターボエンジンのパイオニアSAAB

 

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エンジンは新開発の横置き直4/2.0Lターボで、ベースはGMのエコテック・シリーズだが、ターボ装備やサーブ・トリオニック・エンジン制御システムなどサーブ独自の開発要素が大きい。

直4エンジンはバランスシャフトを内蔵し、出力は低圧過給仕様が175ps、高圧過給仕様が209ps。いずれも最大トルクが2500回転で、ターボエンジンのパイオニアらしさが感じられる。上級モデル用としてはV6・2.8Lターボ8280psもラインアップされている。 エンジン制御のサーブ・トリオニックは、点火プラグを燃焼モニターとして使用し、イオンを検出している。その燃焼をモニターし過給圧(電子制御アクチュエーターを採用)や点火時期制御を行う先進的なシステムだ。

サスペンションは、フロントがストラット式、リヤはマルチリンク。堅固で安全性に優れたボディ、スポーティでクイック、そして正確なハンドリングがサーブの持ち味だ。

また装備面では、シフトレバーの後方のセンターコンソールに配置されたイグニッションキー、夜間走行ではスピードメーターのみの表示になるナイトパネル、ドライバーの前面でわずかに湾曲したインスツルメントパネル配置などは、航空機メーカー、サーブのDNAである。

interior

シートのホールドのよさと長時間座っても疲れにくい人間工学的に優れたデザインで、シートの作りのよさにも定評がある。

エクステリアでは、3分割されたフロントグリルやクラム(二枚貝の片側)シェル形状と呼ばれる表面がなだらかな凸面で厚みのあるボンネットフードは特徴的だ。さらに、大きく湾曲したフロントガラスやCピラーのウインドウがホッケーステック・デザインになっているなど、また、リヤランプのレンズがアイスキュービック・デザインであることなどがサーブのアイコンである。

かつての900まではFFであるにもかかわらずエンジン、トランスミッションは縦置きで、前方からトランスミッション/デフ/エンジンと逆直列レイアウトという独特のものだった。そのため、ボンネットフードがフェンダー面まで開く必要があり、その結果、クラムシェル・ボンネットは、整備性を高めると評価されていた。

ハルデックスと共同開発した駆動系

 

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9-3、9-3Xの技術的な特徴のひとつが、ハルデックス社(スウェーデンの駆動システム企業)と共同開発したXWD(クロスホイールドライブ)だ。システム的にはオンデマンド4WDともいえるが(必要なときだけ4WDになる)、さらに電子多板クラッチをリヤアクスルにレイアウトし、組み合わせて統合制御することで、リヤの左右輪のトルクを可変制御し、旋回性もコントロールすることが特徴になっている。このXWDは9-3の上級グレード、9-3Xに装備される。

ハルデックスカップリングは、1998年にVWゴルフ・シンクロ、99年にはボルボS60 AWDに採用されている。2002年にはCAN通信で制御する第2世代となり、2004年の第3世代からはフィード油圧ポンプに与圧を与えるハルデックスのPreX機構を採用。そして2007年からデファレンシャルポンプを廃止した第4世代に進化している。そして、この第4世代に組み込まれたのがXWDだ。

このXWDは、ハルデックスLSC(リミテッドスリップカップリング)とリヤデフの側面に装備されたeLSD(多板クラッチ)から成っている。eLSDの多板式クラッチパックが、空転する後輪と反対の車輪に、より多くのトルクを流し空転を抑制しトラクションを得ることができる。そのため、クルマの駆動力、安定性を両立させることができ、ヨーダンピングの向上、ハンドリングにおいてはパワーアンダーステアを抑制することができる。

つまり、ブレーキを利用したシステム(EDS)よりも効率よくトラクションを向上させることができ、空転防止のEDSのような不快な動作感覚もないのもメリットと言える。

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乾燥路での急加速の場合は、トルクの65%がリヤアクスルに配分され、スピードが増すにつれ、トルクはフロントアクスルにシームレスに戻されていく。90km/h程度での安定走行時には、前後のトルク配分比率を90:10、状況によっては95:5に変化させている。しかしクルマが水たまりを踏んだような場合、より大きなトルクがリヤアクスルに伝達され、最大80%後輪に配分され、より大きなトラクション性能が得られるようになっている。

また、追い越し加速のような状態では後輪に45%、前輪に55%のトルク配分へと変化し、追い越しが完了すると、前後配分は90:10に戻る。このような前後駆動力配分と、後輪の左右輪の駆動トルク制御を行うことができるのがXWDだ。オンデマンド方式は各種存在するが、ハルデックスシステムは駆動トルク伝達の応答性がきわめて高いのも大きな特徴といえるだろう。

今後のサーブ車のテクノロジーにも注目してみたい。

*追加情報

新生サーブは、GMとの関係をゼロにしたわけではなく、技術協力関係はそのまま継続されている。そのため、今後の車両開発でもその関係は保たれるようだ。特に、9-5は新型となるため、GM・オペルのプラットフォーム、イプシロン・ロングを使っての開発であることが予想される。がしかし、すでに欧州ではメディア向けの試乗会も行われているので、詳しい情報はまもなくわかるだろ。

また、販売網に関してはこれまでサーブの販売・メンテナンスをおこなっていた既存のサーブ・ディーラーのほか、輸入元であるPCIからも新規販売店が加わり、全国でディーラーネットワークとサポートを行うとしている。

文:松本晴比古

COTY
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