2015年3月から受注が開始されたF56型MINIのジョンクーパーワークスが、5月下旬からデリバリーが開始され試乗する機会が巡ってきた。<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
ジョンクーパーワークスは3ドアボディをベースに、MINIシリーズ最強となる231ps/5200-6000rpmの2.0L・4気筒・直噴ターボを搭載している。最大トルクは350Nm (オーバーブースト時)、通常時は320Nm/1250-4800rpm。これまでのR56型よりパワーは約10%、トルクは25%アップされている。もちろんこのエンジンはBMWの最新のモジュラーエンジン・シリーズのスペックを備え、高精度直噴、ツインスクロールターボ、バルブトロニックなどをフル装備している。
同じエンジンはクーパーSにも搭載されているが、クーペーSよりパワーは39psアップされ、トルクは70Nmも大きい。つまりジョンクーパーワークスのエンジンはよりチューニングされているわけで、最高過給圧は1.2barという設定。パワーアップに伴い冷却系ではサブ・ラジエーターも追加されている。JC08モード燃費は16.6㎞/Lだ。
トランスミッションは6速ATと6速MTがラインアップされ、6速MTは400万円を切る価格となっている。装備はLEDヘッドライト、ナビやヘッドアップディスプレイを装備。強いて言えば、ダイナミックダンパーコントロール、ドライビングアシストなども標準装備が望ましい。
エクステリア、インテリアもジョンクーパーワークス専用で、一目見ただけででスポーツモデルであることをアピールしている。もちろん豊富なアクセサリーが設定されているので、さらにそれらしくドレスアップすることもできる。
さて、ジョンクーパーワークスは、一般的なスポーツモデルというよりいわゆるチューニングカーのイメージを持ったモデルで、クーパーという名前に思い入れがあるマニアック層向けのクルマだが、日本国内では2008年以降3000台の販売実績があるという。
◆インプレッション
新型MINIジョンクーパーワークスで走り出すとまず感じるのは、圧倒的ともいえるボディの剛性感の高さだ。もちろんこれは、ジョンクーパーワークスだけではなく、F55/56型に共通した資質で、従来型とは格段の違いがある。剛性感はボディだけではなく、サスペンションやステアリング系にも共通したフィーリングで、コンパクトなスポーツモデルと位置付ける以上に、ドライバーと一体感のあるドライブフィーリングだ。
ジョンクーパーワークスは他のMINIよりもさらに引き締められたサスペンションを持ち、しかも試乗車はスタンダードが17インチであるのに対し、オプション設定の18インチタイヤ、ピレリP7 ランフラット(205/40R18)を装着しており、一般的な言い方でいえば、かなり固い足回りに仕上がっている。だから荒れた路面では、内臓が揺すられるフィーリングになるが、その一方でドライバーに伝わってくるのが路面との当たりで生じるショックの角の丸さだ。
もっと細かく言えば、サスペンションは最初の2~3㎝の動きが実に滑らかにストロークし角が丸められたフラットな乗り心地だと感じるが、その領域を過ぎる入力を受けると急激に固くなるフィーリングだ。
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ゴーカート・フィーリングはMINI共通の走りのテーマで、ジョンクーパーワークスはその究極の姿のはずだが、実際にニューモデルに乗ってみると、あちこちに滑らかなフィーリングが顔を出す。コラムマウント式の電動パワーステアリング(サーボトロニック)は、路面からのインフォメーションがしっかりしており、直進状態から操舵状態までのつながりや操舵フィーリングは極上だ。そして意外なほど大人の味付けになっている。直進状態から90度までの操舵は滑らかで穏やかで、ゲインは抑え気味なのだ。
だからリアルなゴーカートのようなクイックさや過敏さは感じられず、しっとりした上質な趣がある。言い換えれば峠道のような舞台だけではなく、高速道路での安定感も十分確保されているのだ。だからこの操舵フィーリングと、コンパクトなボディ、短めのホイールベースによるクイック感のある荷重移動、ロール感を感じさせないコーナリングのフィーリングと、思いのほか穏やかなステアリングフィールの組み合わせは身体の感覚がなじむのに少し時間が必要かもしれない。
ブレーキはブレンボ製の対向ピストンキャリパーを備え、ブレーキの剛性感や効き味は文句なし。6速ATも、変速制御はスポーツ走行にフィットして、ダイレクトで素早く、いわゆるトルコンの滑り感は感じられないので、気持ち良いパドルシフト操作が楽しめる。スポーツ・オートマチックと名付けられていることが納得できる。
エンジンは最新の低中速型で、低中速のトルクの強力さを味わいながら、その動力性能を味わうことができる。このクルマの0-100㎞/h加速は6.1秒、最高速は246㎞/hと相当に速いのだ。ただ、フレキシブルで扱いやすく、シャシー性能が高いためもあって、過激さはない。
このエンジンは、サウンドもアピールポイントだろう。3000rpm付近から深くアクセルを踏み込むと、明瞭なスポーツサウンドが一気に高まるようになっている。その低く太い、気持ちよく感じる音質はオーディオ的にチューニングされているようだが、ジョンクーパーワークスというクルマによくマッチしている。
セレクトレバー根元のリングを回転させて切り替えるドライビングモードは、スポーツ、ミドル、グリーンの3モードで、アクセルの開度特性やブースト、変速特性などが変更され、グリーンモードでは穏やかに走ることができ、アクセルオフではコーストモードも使用できる。
ホールド性がよく、剛性が高く、見た目の仕上げも上質なスポーツシートの仕上がりは素晴らしい。ジョンクーパーワークスは自動起立式のヘッドアップディスプレイも標準装備されている一方で、小径のスピードメーター類はガラス面の反射が強く、しかも位置がドライバーの視点に近いため、案外見にくいのは現在のMINI共通の欠点だ。
インテリアは、丸を基調としたデザインで、これでもかというほど丸いデザインが多用され、ダッシュボード中央の大きな丸形のナビやカー情報を表示するディスプレイの周囲はLED照明が絶えず点滅するなど、演出は過剰ともいえる。が、逆に言えばこれこそが現在のMINI一族といえるのかもしれない。
旧型のジョンクーパーワークスはプレミアムコンパクトというセグメントから少し突出したチューニングカー的な特性がユニークであったが、新型MINIジョンクーパーワークスはプレミアムコンパクトのセグメントのど真ん中で、より高性能な方向に軸足を変えたようだ。高性能で、洗練された走りの質感と、わかりやすいスポーツ性をひとつのパッケージにまとめると、こうなるというBMWのクルマつくりの技術と主張が実感できる。