【MINI】Specialist海外試乗 想像以上の進化を遂げた新型MINIクーパー レポート:石井昌道

マニアック評価vol250

ミニ海外試乗
3代目となる新型ミニ。国内導入を前に、プエルトリコで一足先に試乗してみた

BMWのエンジニアリングとなってから3代目となる新型ミニがいよいよ登場する。2013年の東京モーターショーでワールドプレミアされたのでその姿を目にした人も多いだろう。スタイリングを見れば一目瞭然なように、完全なキープコンセプトでありMINIのデザイン要素をそのまま受け継いでいるが、一つとして従来型と同じパーツはないという。プレミアム・コンパクトカーの王者の座を不動のものとするべく意欲的に開発されているのだ。

◆エクステリア&インテリア
ボディサイズはますます厳しくなる衝突安全性への対応とともに、後席の居住性改善のために一回り大きくなった。従来比で全長が+98mm、全幅が+44mm、全高が+7mm、ホイールベースが+28mm、フロントトレッドが+42mm、リヤトレッドが+34mmそれぞれ拡大。それでも一目でミニだとわかるのは、ヘッドライトなどディテールの形状だけではなく、ボックス型のボディとルーフ、グリーンハウスのバランスの取り方でフォルムを同じように見せているのが肝要だという。むしろディテールは少しずつイジって、伝統を継承させつつもイノベートさせることを試みている。

ミニ・クーパー
バンパー中央をブラックアウトしてグリルを大きく見せるのは、旧ミニのオマージュ
ミニ・クーパー
ボディサイズは先代から一回り大きくなっている

フロントグリルは中央のバンパーをブラックアウトさせることで従来のような上下の分割感をなくし、六角形を強調。この六角形はクラシック・ミニのオマージュだ。ヘッドライトはBセグメントで初のLEDがオプション設定されたが、その場合、外側がLEDデイランニングライト・リングとなり、少々表情が異なってくる。リヤライトは従来よりも大型化され面積的にも占める割合が多いので一目で新型だと認識できるようになった。パッと見には明らかにMINIだが、じっくり見れば新しいというのが新型のスタイリングだ。

ミニリヤランプ
新型ミニリヤランプ
ミニヘッドライト
新型ミニヘッドライト

 

インテリアも雰囲気はMINIそのものだが、構成は少々異なる。円形のスピードメーターはドライバーの眼前に備わり、その左横には半円形のタコメーター、右横にガソリン残量のインジケーターが付く。ミニの特徴でもあるセンターの大円形メーターには8.8インチのカラーディスプレイが組み込まれ(オプション)、カーナビやエアコンディショナー、インフォテイメント機能の操作などが行なえるようになっている。またBセグメントとしては珍しいヘッドアップディスプレイも選べるようになった。

447_Cooper
インパネデザインは従来のミニの雰囲気を踏襲。中央には8.8インチのディスプレイ(オプション)
ミニメーター
半円のタコメーターを組み合わせた1.5連メーター

 

機能的に新しさがあるだけではなく、質感も向上。丸形や楕円の輪郭は、より成熟した味のある形状にしたというが、たしかに高級感があり大人っぽい雰囲気だ。

ボディの大型化は居住性に恩恵をもたらしている。前席はシートの調整幅が拡大された程度だが、後席は座面が23mmも伸ばされショルダールームも広くなった。大人が乗っても窮屈な感じはもはやない。ラゲッジルーム容量は従来よりも51L増の211Lとなった。

ミニクーパー
ラゲッジ容量は51L増加して211L

 

それでいながら車両重量が軽くなっているのもトピックスだ。素材置換ではなく、主に構造の最適化によって実現。装備の違いなどで従来モデルとの差は正確ではないかもしれないが、欧州のカタログ上ではMTではクーパーが5kg、クーパーSが10kg、ATは両方とも50kg軽い(DIN規格)。

◆エンジン
エンジンもすべて刷新された。クーパー用は新開発した話題の3気筒で1.5L直噴ターボ。従来の4気筒1.6L のNAは122ps/6000rpm、160Nm/4250rpmであったが、136ps/4500-6000rpm、220Nm(オーバーブースト時は230Nm)/1250-4000rpmとなった。大幅なパフォーマンス向上だが特に低回転・大トルク型となったのが新しい。

ミニクーパーエンジン
クーパーに搭載される新開発の1.5L3気筒直噴ターボエンジン

クーパーSの方は従来通り4気筒だが、1.6L直噴ターボから2.0L直噴ターボへ。従来が184ps/5500rpm、240Nm(260Nm)/1600-5000rpmだったのに対して、192ps/4700-6000rpm、280Nm(300Nm)/1250-4750rpmとなった。

その他、ワン用は3気筒1.2L直噴ターボ、ディーゼルのミニDも3気筒で1.5Lターボが用意されているが、今回は試乗できていないので詳細は触れずにおこう。ちなみに燃費もそれぞれ改善されており、最大で27%燃料消費を抑えているという。

◆シャシー
試乗車はクーパーSのATとクーパーのMTが用意されていたが、まずは前者に乗り込んだ。調整幅の拡がったシートは、より低いポジション取りも可能で自分の好みにもバッチリ。センターディスプレイの周りにはLEDが組み込まれていて、空調やオーディオをいじったり、走り方によっても色彩が変わる。どういうパターンが決められているかはわからなかったが、クルマが意志を持っていて気分を表しているかのようで面白い。

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ミニフロントシート
ドライバーズシートは調整幅を拡大
ミニリヤシート
大きくなったボディでリヤシートスペースも広くなった

 

試乗場所となったプエルトリコは、びっくりするほど道が荒れていて、パンクするんじゃないかと心配になるぐらいのデカい穴ぼこがそこかしこにあるのだが、そんな場面でもクーパーSは巧みな足さばきをみせ、涼しい顔でいなしてしまうのだった。ボディがひときわガッチリとしているのに加え、新たにダイナミック・ダンパー・コントロールと呼ぶ可変ダンパーを採用している効果が大きい。

可変ダンパー
ドライビングモードは3種類に切替可能

 

MID(標準)、SPORT、GREENというモードが設定されたMINIドライビングモードのうち、MIDとGREENはソフト、SPORTはハードの2段階設定だが、ソフト側での乗り心地は高級サルーンのように快適だ。Bセグメントにまで可変ダンパーを用意するなんて、またもライバル達を歯ぎしりさせるに違いない。

ミニクーパー
新型ミニはプエルトリコの荒れた路面もしっかりと受け止めるしなやかな足まわりを持つ

サスペンションそのものも進化している。フロントはストラット、リヤはマルチリンクという形状に変更はないが、材質も構造もすべて見直したという。フロント・アクスルはピボット・ベアリングがアルミ、アクスル・キャリアとウィッシュボーンには超高張力鋼板を、リヤアクスルも超高張力鋼板の使用範囲を広げてバネ下重量を軽減。また、フロント・アクスルはキネマティクス(ジオメトリー)を変更したという。

◆インプレッション
そういった進化はコーナリングで明らかだった。ステアリングを切り込んでいくと、いかにもワイドトレッドとなった頼もしい手応えでグイグイとイン側へ切れ込んでいく。ミニの走りのキャラクターであるゴーカート・ハンドリングは、何よりも大切に考えられており、開発の際の優先順位も上位だというが、その通りにクイックな動きだ。しかも、従来はどちらかというとロールしないままにクッとノーズが動き始めるような感覚だったのに比べて、スッと外側のタイヤに荷重がかかっていく素直な動きも実現しているのが好ましい。

ミニクーパーs
4気筒2.0Lエンジンを搭載するミニ・クーパーS

さらに、立ち上がりに向けてアクセルを踏み込んでいった際のトラクションにも進化を感じた。従来はジャッキングが大きめでホイールスピン気味となることも多かったが、新型はイン側もしっかり接地してタイヤが向いた方向へグイグイと引っ張っていく。FFスポーツとして本物感が増したのだ。

クーパーはダイナミック・ダンパー・コントロールがない素のサスペンションだ。乗り心地は少し硬くなるが、従来に比べるとストローク感が増してポンポンと跳ねるような挙動は皆無。プエルトリコの路面では、クーパーSに再び乗り換えたいと思わされたが、日本で乗るならば素のままでも十分じゃないかと推測する。また、クーパーでもオプションでダイナミック・ダンパー・コントロールは用意されるようなので、快適性もハンドリングも高いレベルを望むなら選択すればいい。

おそらくチョイスで悩むことになるのがエンジンだ。クーパーSの4気筒2.0Lは確かにいい。従来もそうだったが、強めの加速ではクォーンと快音が響き、低回転域のトルク、高回転域のシャープさともに申し分ない。クーパーSの価格に納得がいくのなら、誰にでもオススメできるユニットだ。

ミニクーパー
3気筒1.5Lエンジン搭載のクーパー。こちらも楽しくて、エンジンセレクトに悩む

ところがクーパーの3気筒1.5Lが望外に良く出来ているから悩ましいのだ。アイドリング付近ではボロロと特有の音色でわずかに振動も感じるが、発進して少し回転が上がるとスムーズになる。さらにアクセルを踏み込んで3000rpm、4000rpmと上昇していくと旋律が綺麗に揃っていき、6000rpmオーバーまでシュワッとシャープに吹き上がっていく。中回転域からの感覚はBMW自慢の直列6気筒のよう。クーパーSほどの快音は聞こえないが、回転上昇とともに機械的な緻密さが堪能できる味わいは見事だ。

また、超低回転域のトルクが図太いのも印象的だった。MTだったのでわざとハイギヤを選んで走ったりもしたが、呆れるほどに粘るのだ。トルクバンドの広さは並外れている。ちなみにBMWおよびMINIでは1気筒当たり500ccという排気量が熱効率的にもっとも有利だとして新エンジン群に適用(ディーゼルは特性が少し異なるもののやはり気筒あたり500ccとした)。4気筒の2.0L、6気筒の3.0Lと共同開発することでコストダウンも図れるという。さらに3気筒は1.2Lへのダウンサイジングも可能でミニ・ワン用はそれが採用される。今回の直3は120度クランクシャフトを採用し、そのケース下に等速で逆回転するバランスシャフトを通すことで素晴らしい振動特性を得ている。

BMW i8も同様の直3だがあちらは230ps/320Nm。「ターボの過給圧を上げればそれぐらいのパワーアップは容易であり、振動特性だって直4より優れているところもある。だから官能性も負けないだろう」とエンジン担当エンジニアは自信をのぞかせていたが、じゃあなぜクーパーSをこのユニットとしないでわざわざ直4・2.0Lにしたのか? という疑問は、残念ながら時間切れで解けなかった。邪推するに、ビッグマーケットのアメリカでのウケを狙っているんじゃないかと思う。

ミニクーパー
ミニ・クーパーSと筆者・石井昌道氏

いずれにせよ、クーパーもクーパーSも想像以上の進化を遂げていた。スポーティで速く、燃費がいいだけではなく、あらゆる面で動的な質感が高いのでミニのプレミアム性を重視する向きでも満足度は高いはず。価格や好みで選択して後悔することはないだろう。

気になる日本上陸時期だが、事前には2014年3月2日のMINIの日と勝手に予想していたが、どうやらそれはかなわないらしい。発表は3月中かもしれないが、消費税増税による混乱をさけるため発売は4月に入ってからのようだ。

■MINIワン主要諸元

■MINIクーパー主要諸元

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MINI公式サイト

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