モータージャーナリスト佐藤久実さんとカーライフエッセイストの吉田由美さんの二人による、メルセデス・ベンツCクラス、新型W205型の試乗レポート。北海道での試乗は市街地とテストコースでドライブ。レポートはまもなくアップ予定!(8月20日にアップいたしました)。
ラジオ放送FMヨコハマ「ザ・モーターウィークリー」では吉田由美さんがCクラスの話題を取り上げています。また、国際試乗会の様子は佐藤久実さんも「ザ・モーターウィークリー」で取り上げています。
【試乗レポート】新型メルセデス・ベンツCクラス:佐藤久実【NEW! 8月20日追加更新!!】
7月中旬、連日の真夏日の関東地方から、避暑を期待して北海道・女満別空港に飛んだ。が、飛行機を降り立った地も外気温30度で、湿度がやや低めなのが救いではあるが、避暑は期待できそうになかった。
◆C200アバンギャルド
天候こそ期待外れだったが、ここで試乗したメルセデス・ベンツ新型Cクラスは、期待以上に快適・爽快なドライバビリティを披露してくれた。初日の試乗モデルはC200 AVANTGARDE(アバンギャルド)。一見して、車格が向上した印象を受けるのは、全長+95mmというボディサイズの拡大のせいのみではない。Sクラスを彷彿とさせるエクステリアデザインは、スポーティさとラグジュアリーが絶妙にバランスされている。
先代モデルはクラシック/アバンギャルドの2種類のフロントグリルが用意されたが、新型の日本仕様は、アバンギャルド・グリルのみのラインアップになる。というのも、先代では、9割以上のユーザーが、アバンギャルドをチョイスしたというデータから、1本に絞ったそうだ。つまり、Cクラスに対しては、重厚感やエレガンスさ以上に、若々しさやスポーティさを求めるユーザーが多いということだろう。改めて、見事なまでのイメージチェンジの成功に脱帽する。
Cクラスは、先々代のマイナーモデルチェンジから先代にかけて、グーンとスポーティ路線に舵を切った感がある。例えば、かつて最大のライバルであるBMW 3シリーズに比べ、Cクラスユーザーの平均年齢が遥かに高いというデータもあった。ブランド力が強いだけに、ローヤリティも大事にしなければならない一方、若返りを図るというのが必至の命題であったのだ。しかし、約2世代かけてこの難しい状況を見事に打開したのが新型Cクラスなのだ。
話を試乗車に戻すと、「AMGライン」が装備されていた。フロントスポイラーやサイド、リヤスカートなどにより、さらにスポーティ感の増したエクステリアとなっている。サイズが大きくなると、重量増→燃費悪化がイメージされるが、もちろんそこも抜かりない。
2010年のSLS・AMGで量産化されたアルミニウムハイブリッドボディは、当時最大20台/日だったが、アルミとスチールの異素材接合技術が進み、今回のCクラスでは最大2000台/日の量産化が可能となった。結果、モデルによっては約100kgの軽量化が図られたという。その一方、ボディ剛性は向上している。さらに、Cd値0.24という空力性能など、細部に至る積み重ねにより、燃費のトップランナーも目指している。
室内に乗り込むと、インテリアも、エクステリア同様、格段に上質感が増している。よくドイツ車、特にメルセデスを表現するのに「質実剛健」という言葉が使われた。良く言えば機能的かつ実用的。でも、遊び心のかけらも無く、インテリアで言えば、定規で線を引っ張ったような角張ったデザインという印象だった。これも最近変わりつつあったが、新型Cクラスは、特にワイドなセンターコンソールの存在感が際立ち、面積が広いだけにマテリアルの質感も目立つ。それもユーザーの所有欲を満たすに充分だろう。
デザイントレンドが変わったなと感じたのはディスプレイ。従来はインダッシュ型だったが、新型はステイにタブレットを置いたかのようなオンダッシュ型が採用されている。また、そのディスプレイに表示されるナビ操作などのコントローラーにも、新たにタッチパッドが採用された。とはいえ、その下に、従来のダイヤル式コントローラーも装備される。
新しいものを提案しつつも、使い慣れたものの方が良い方にはこちらをどうぞ、ということだろう。タッチパッドにトライしてみたが、慣れも大きいのだろう、機能が増えて操作が多いだけに、ついつい使い慣れたダイヤル式に手が伸びた。そうなるとタッチパッドの存在は邪魔になり、やや妥協の産物的な感もあるが、とにかくディテールに至るまで、「もう、メルセデスをコンサバとは言わせない」というような作り手の意志すら感じられた。
◆エンジンフィールと乗り味
C200は、2.0L・直噴4気筒ターボチャージャーエンジンに7速ATが組み合わされる。まったく新しいアーキテクチャーに、このクラスでは初となるエアマチックサスペンションが採用される。スタンダードのタイヤサイズは17インチだが、AMGラインは18インチタイヤを装着する。そして、今回から、すべてのモデルでランフラットタイヤを装着する。
ダウンサイジングエンジンが搭載されるようになってから特に、車名と排気量の関連性がなくなったため、試乗していて、「これ、エンジン排気量いくつだっけ?」と思うことがたびたびある。が、排気量の感覚がズレたのはそればかりが理由ではない。このC200も、最高出力は135kW(184ps)と、それほど驚く数値ではないが、最大トルクが300Nmあり、しかも1200−4000rpmというワイドレンジで発揮する。実際、走り出した途端に、パワフル!と感じる。一般道を常識的なスピードで走っているにも関わらずだ。
とはいえ、スポーツカーのそれとは異なる。タイヤが転がり出した瞬間から、豊かなトルクがモリモリわき上がってきて、ターボならではの力強さでありながら、ターボを感じさせないスムースな加速は上質で心地良い。
乗り味は、先代のスポーティに特化したような印象が洗練され、さらにコンフォートが増した感じ。たとえば、先代のダイレクトステアリングは、微少舵角から強烈に舵が効いて、これ見よがしな感じに違和感を覚えたが、新型は、ドライブ途中、交差点で大きくステアリングを切り込んだ際に、「あ、そう言えばこれ、ダイレクトステアリングが装備されているんだっけ」と思い出させるくらい、自然なステアフィールになっている。
エアマチックサスペンションの採用により、「アジリティセレクト」も装備される。ECO、Comfort、Sport、Sport+の4つのモードがあり、エンジン、サスペンション、トランスミッションの設定を選べる。さらに、Individualでは各々を自由に設定することも可能だ。
スポーティかつコンフォートと書いたが、この選択によっても印象はかなり異なる。通常はComfortで何の不満もなく走る、というか、一番バランスが取れていて快適に走れる。ちょっとしたワインディングがあったので、SportやSport+を試してみたが、アクセルレスポンスはスポーツカー並みにシャープで、ボディはフラットに保たれる。あくまでサルーンカーらしさを損なうことはなくジェントルな挙動だが、アドレナリンが溢れ出ない程度、平常心を保ちながらも気持ち良く走れる。乗り心地も極端に悪くなることはないが、逆に、Comfortであっても路面によってはややゴツゴツした印象があった。おそらくは、ランフラットタイヤとのマッチングのせいだろう。
さて、新型Cクラスでさらに注目すべき点は、最先端の安全装備の搭載だ。わずか数ヶ月前に上級モデルであるSクラスやEクラスに搭載されたばかりの装備が早くもCクラスに設定、搭載されている。メルセデスが「インテリジェントドライブ」と呼ぶこのシステムの基本は、ステレオカメラと、4つの25GHzの短距離レーダー(初期の24GHzから25GHzに変更され、電波望遠鏡との干渉による機能停止がなくなっている)、77GHzの中・長距離レーダー、そして25GHzのマルチモードレーダーから構成される。
試乗中、その機能をいくつか試してみた。ディストロニック・プラスは、約30~200km/hの速度範囲で前車に追従する機能。しかも、ただ着いて行くだけでなく、ステアリングアシストも装備され、自動的にステア操作までしてくれる。ただし、ドライバーがステアリングから手を離すと警告音がなり、15秒後にはこの機能が停止する。あくまで、ドライバーが自主的に運転することが重要だ。
アクティブレーンキーピングアシストは、約60~200km/hの速度範囲で作動する。車線逸脱しそうになると、ステア操作に加え、自動ブレーキで車線内に戻そうとする。スピードなど条件にも依るだろうが、自然に、というよりはドライバーに運転の集中を喚起するよう、かなり意図的な動きを示す。また、死角にクルマがいるのに気づかずうっかり車線変更しようとすることがあるが、そんな際にもこの機能が助けてくれる。実線だけでなく破線のレーンも認識するようになったが、天候や車線など条件によって、常に作動するとは限らない。アクティブの時には、インパネ内にグリーンで表示される。
他にも、さまざまなシーンに応じた自動ブレーキなど多くの機能を持つ。どれも、万一の際には事故を回避・軽減してくれる、あるいはドライブを快適にしてくれる有り難い装備だ。メルセデスは、「部分自動運転」と表現しているが、あくまで、「サポート機能」と捉え、クルマ任せにすることなくドライバーが運転に集中することが重要だと思う。
◆C180アバンギャルド
北海道の雄大な景色を楽しみながら、快適なドライブを終えた。そして2日目の試乗車は、C180 AVANTGARDE。1.6L・直列4気筒ターボエンジン+7速AT搭載で、コンベンショナルなコイルサスペンションを装備する。そして、タイヤは17インチ。ベーシックモデルのアバンギャルド仕様となるわけだが、これが実に快適。こちらもC200同様、1200−4000rpmというワイドレンジで250Nmを発揮する。したがって、一般道を走行している分には、体感的にC200との大きな差もなく、動力性能的にまったく不満はない。
C200よりタイヤが1インチダウンされ乗り心地も快適だ。懐深く、角のない乗り味は、これぞメルセデス! と思わせる。ベースモデルの快適性や静粛性、ハンドリングの良さを確認し、改めて新型Cクラスの基本性能の高さを実感した。おそらく、このモデルが売れ筋モデルになるというが、それも納得だ。私もこのモデルにオプションのレーダーセーフティパッケージを追加するのがベストリコメンド、と思いつつ、北海道を後にした。
◆実は…のCクラス後日談
試乗会の約10日後、5000kmほど走り込んだC200に乗る機会があった。すると、試乗会の際にややゴツゴツする、と思っていた乗り心地がキレイになくなり、さらに洗練された走り味になっていたのだ。最近のクルマはいろんな面で慣らしはいらない、とも言われるが、サスペンションやタイヤの当たりがつくと、新車時とは違いさらにスッキリした印象になるようだ。
結論として、スポーティさやパワーを求める方にはC200、あるいは遅れて発売されるC250スポーツを、快適性重視の方にはC180 をお勧めする。バイヤーズガイド的には、メルセデスは熟成されたモデル末期がお買い得と言われる。たしかに先代モデルも新型が出る前あたりはかなり熟成されていた。が、この最新モデルに関しては、見た目の車格が上がり、安全・快適装備も充実していながら価格はほとんど値上がりしていないことを鑑みると、やはり最新がもっとも魅力的と言わざるを得ない。Eクラスをも凌駕しかねないクオリティの新型Cクラスは、またこのセグメントのベンチマークを確立したといえるだろう。
■メルセデス・ベンツCクラス価格