2011年11月14日に発表されたメルセデス・ベンツEクラスのビッグマイナーチェンジ。今どきの環境指向の視点からは新しい3.5L直噴V6エンジンや、4.7LへダウンサイジングしたV8エンジンに注目がいきがちだが、ここでは「レーダーセーフティパッケージ」という安全装備が全車で選べるようになった(一部グレードでは標準装備)ことに注目してみたい。
衝突回避をアシストするドライバー支援システム
レーダーセーフティパッケージという名前が示すように、これはレーダー技術を使った、プリクラッシュセーフティ・システムを含むドライバー支援システムだ。前方に障害物があってもドライバーが速度を落とさない時にクルマが判断・反応して制動をかけてくれたり、また側面死角の他車を認識して衝突回避をアシストするという機能を持っていることから、「ドライバー支援システム」と呼ばれる。
メルセデスの場合、その具体的な内容は以下の5つだ。
PRE-SAFE(プレセーフ)ブレーキ
自動緊急ブレーキにより、衝突回避を支援または被害を大幅に軽減。
アクティブ ブラインド スポット アシスト
危険な車線変更による側面衝突を防止。
ディストロニック・プラス
速度に応じて先行車との適切な車間距離を維持。
ブレーキアシスト・プラス
衝突回避のためのブレーキ力をアシスト。
アクティブ レーン キーピング アシスト
ドライバーの疲労や不注意による車線逸脱を防止。
たとえば前方に障害物を発見して衝突の危険を感知した場合、PRE-SAFEブレーキは以下のように機能していく。
第1段階:まずドライバーにワーニング音とディスプレイ表示で危険を警告。そこでドライバーがブレーキを踏めば、ブレーキアシストにより最大制動力が発揮されるようクルマがサポートする。
第2段階:第1段階の警告にドライバーが反応しない場合は、最大制動力の40%のブレーキをかけて警告すると同時に、シートベルトの巻き上げや助手席シートポジションの修正など、衝突時にSRSエアバッグが適切に働くようプレセーフが機能する。
第3段階:それでもドライバーが反応しない時には、車両側で最大制動力の自動緊急ブレーキを作動させ、衝突の回避、もしくは被害軽減を狙うという。
電波望遠鏡への干渉を避けるために一部地域では使えない…
また、メルセデス・ベンツの「レーダーセーフティパッケージ」は他社にない特徴を持っている。すでに本国仕様では数年前から採用されているが、世界初となる5個のミリ波レーダーを使ったシステムなのだ。比較的離れた距離の他車や障害物を計測する前方レーダーとしてグリル中央に77GHzを、それ以外の周辺状況の認識には近距離に有利な24GHzのミリ波レーダーを前後左右に配置する。
このうち77GHzミリ波レーダーは他の自動車メーカーでも採用済みだが、24GHzのレーダーは電波望遠鏡と干渉してしまうということで、日本国内での使用は認可されなかった(試験的にメルセデスが使用したことは過去にあり)。しかし、今回からメルセデスは電波望遠鏡の近辺(1〜20km圏内)で24GHzレーダーのスイッチを自動的に切るという制御を加えたことで、この2種類のミリ波レーダーによる安全装備の国内採用を可能にしたのである。
24GHzのミリ波レーダーが活躍するのは、側面の死角に他車の接近を検知する場合だ。前述の「アクティブ ブラインド スポット アシスト」と名付けられたアシスト機能では、リアバンパー左右に配置された24GHzミリ波レーダーによりミラーの死角に存在する他車を認識、ドライバーがそれに気付かずに車線変更をしようとした時に4輪独立のブレーキ介入制御により、衝突危機の回避をアシストする。
またミリ波レーダーだけでなく、カメラも搭載している。このカメラが白線を監視することで、クルマのゆらぎを認識。車線からのズレ修正をサポートする「アクティブ レーン キーピング アシスト」を実現している。
レーダーかカメラかを含めて、今は進化の途中
自動車が完全に停止するまでブレーキをかけてくれるドライバー支援システムが日本国内に導入されたのは、国交省の承認が得られるようになってからのことで、ボルボXC60とスバルのレガシィが先陣を切っている。その後はアウディA6やBMWでも一部車種で導入が開始されていて、もはや特に目新しいものではないと感じるかもしれない。
ちなみにボルボの「セーフティパッケージ」は赤外線センサーとカメラによって構成されたシステムで、スバルの「アイサイト(バージョン2)」はステレオカメラだけで実現したことで知られている。
そして今、ここで各社のシステムの優劣を比較するのは適切ではないと考える。レーダーは夜間や悪天候でも有効だが、物体の形状認識はできないか、できたとしても不得意だ。逆にカメラはクルマや物体の形状認識が可能で、赤外線カメラなら夜間でも使えるため、レーダーとカメラの二者択一ではないのだ。メルセデスは5つのレーダーに加えてカメラも搭載することで、現時点での最善を尽くそうという姿勢だということは間違いない。
●メルセデス/ボルボ/スバルのシステム比較表
安全に対する各社のコスト面での見識には敬意
なお、これほどの装備にも関わらず、Eクラスにオプション装着する際のオプショナルフィーは19万円(消費税込み、以下同)とされている。ステレオカメラだけのスバルのアイサイト2が実質的に10.5万円のプラスと気を吐いているが、内容を考えればどちらも十分にリーズナブルだと言える。ちなみにボルボもこれに対抗してのことかどうかは不明だが、現在は通常20〜25万円のオプションを10万円で提供するキャンペーンを実施中だ。
数が増えることによって、さらなる制御の的確さとコストダウンが進むことが期待されるのが、このドライバー支援システムだ。またメーカーとしても可能な限りリーズナブルな価格設定としているのは、事故を少しでも減らしていくことが、企業としての社会的責任と認識しているからだろう。我々ユーザーとしても、積極的にこうした装備を選ぶように意識していきたい。
なおメルセデス・ベンツ日本では、2011年11月30日にSクラスについてもこのレーダーセーフティパッケージを標準装備(対象はHYBRIDと同ロングを除く全モデル)とする改良を実施した。この改良による値上げ幅が各モデルとも10.0万円(税込み)に抑えられているのも、予防安全に取り組む姿勢として評価したい。
文:石田 徹