マセラティのSUV「グレカーレGT」に試乗してきた。マセラティは言うまでもなく高級なラグジュアリーブランドであり、こうしたDセグメント+サイズのモデルはマセラティには少ない。
マセラティはフェラーリと並んでフィアットグループ(現:ステランティス)の中でも別格な存在だ。歴史あるカーメーカーは、創世記の頃はこぞってレースに出場し性能競争をし、自社の優位性をアピールしていた。マセラティも言うまでもなくレースに参戦し、優勝も勝ち取っているメーカーでもある。
とりわけ2023年フォーミュラEの第11戦ジャカルタのレースでは、1957年以来のシングルシーターレースカーの優勝を66年ぶりに勝ち取ったニュースは記憶に新しい。
マセラティというブランド
そのマセラティは高性能を謳いながらも、富裕層向けに特別なモデルを提供することで、ブランドが確立しラグジュアリーブランドとして成長した歴史がある。エンジンをフェラーリと共同開発しスーパーカーも作る一方で、4ドアのセダンとしながらもフェラーリのエンジンを搭載。富裕層の所有欲をそそるモデルを数多く出してきた。
だから40km/h程度で走行していても「只者ではない」魅力を感じさせ、アクセルを踏み込まない余裕の走りで優越感に浸れる魅力も創り出している。またひとたびアクセルを踏めば、官能的なエンジンサウンドを響かせ、他の追従を許さないゴージャスな世界観に浸れる魅力を持っているのだ。
それがグレカーレでは1000万円を切る価格でデビューしたのだから話題は大きい。富裕層のパーソナルオーダーにどこまで対応するのか、マセラティジャパンからの情報はないが、高級な既製品のポジションにあると思う。つまりファッションで言うところのプレタポルテだ。オートクチュールやビスポークといった1点ものに仕上げるのとは違うわけだ。
しかし試乗車は400万円以上のオプション装備をしており、数あるオプションから作り出す「俺のマセラティ」は作り出せると。実際に、つい先ごろデビッド・ベッカムがプロデュースするカスタマイズプログラム「フォーリセリエ エッセンシャルズ コレクション」が始まり、対象モデルにグレカーレが名を連ねているのだ。
グレカーレをドライブ
さて、そのグレカーレに試乗してみると、まずアイドリングがよく聞こえる。最初、ディーゼルエンジか?と思うほどの音を出しているが、直列4気筒ターボのハイブリッドだった。ちなみにスペックは300ps/450Nmで8速ATとAWDのシステムになっている。
アクセルを踏み込んでいくと走行ノイズにエンジ音は消され、車内は静かになったと感じ、またエアサスペンションはしっかりとした乗り心地を提供する。もっとフワッとした乗り心地を想像したのだが、ハイパフォーマンスカーの矜持だろうか、速度域が高いことを想定したしっかりとした足回りという印象だ。
ステアリングレスポンスもスポーティだ。プラットフォームをアルファロメオのステルビオと共通のジョルジオを採用しているため、もっとシャープなハンドリングかと思ったが、そこはマセラティらしく尖りすぎていないハンドリングだ。
ドライブモードのスポーツを選択しアクセルを踏み込むと豹変する。エンジンサウンドが大きくなり、周りのクルマを全て置き去る加速を披露。官能の瞬間とも言える醍醐味だ。
マーケットの拡大
マセラティへの想いは人それぞれあると思うが、グレカーレはいつのタイミングでも満足感があり、所有欲を満たしてくれたマセラティとは違い、新しいマセラティの世界観を持ったモデルという印象だ。
ステランティスの戦略は不明だが、グレカーレはラグジュアリーでライバル不要、不在のブランドでありながら、プレミアムブランドの領域にも手を広げた印象がある。そこは自分だけの一台に仕上げることができるマセラティらしさがあり、ポルシェ・マカンやレンジローバースポーツなどはやはり隔絶したものがあると感じる。
アルファロメオをプレミアムモデルとして再構築するという話も5、6年前にはあったものの、COVID-19のパンデミックにより戦略は大きく変わってきているように思える。
マセラティの新たなマーケット獲得に向け、具体的には中国になるが、グレカーレのEVモデル「フォルゴーレ」も2023年の上海モーターショーで公開された。これでグレカーレのラインアップは「GT」「モデナ」「トロフェオ」そして「フォルゴーレ」と揃った。
中国、北米に向けたグレカーレのラインアップはレヴァンテの弟分に位置付けられるSUVだが、これまでのユーザーとは異なるターゲットに狙いを定めているモデルなのだ。
車両本体価格(税込)
マセラティ グレカーレ GT:922万円