2013年2月27日、ランドローバー社はジュネーブ国際モーターショーに世界初の9速ATを搭載したモデルを出展すると発表した。この9速ATは「9HP」と呼ばれるZF社製の世界初の乗用車用で、横置きエンジン用に特化して設計されたもの。
ランドローバーとトランスミッション技術をリードするZF社は9速AT開発プロジェクトにおけるメインパートナーだ。そして6速から9速にすることにより、燃費性能が格段に改善され、当然ながらCO2排出量も低減される。各ギヤのステップ比を小さくすることで、加速時のレスポンスが向上し、シフト時の滑らかさや俊敏さ、ドライバビリティや洗練性も向上する。もちろんトップギアのハイギアード化により燃費が向上するだけでなく、低回転で高速巡航でき静粛性も向上する。
また9HPはきわめて耐久性が高く、ランドローバーのオールテレイン性能を完璧にサポートするという。9HPのローギヤは既存の6速ATよりもはるかに低くなっている。特にオフロードでの使用や、牽引、勾配や高地など極限状態でのオンロード走行でも耐えられる設計となっているのだ。
ZF社は、9速ATの極めて俊敏な変速を「知覚の限界以下」と評しているが、9HPのポイントは優れた変速レスポンスだけではない。既存の6速ATは順番ににシフトチェンジを行うのに対し、9HPは「スキップシフト」機能を持っている。これにより、急激な減速時やドライバーからのインプットに応じて迅速なシフトダウンができるのだ。さらにトルクコンバーターは、スムーズな発進性と滑らかさの向上のため、多段ダンパーシステムを備える。
「9HP」は革新的なアダプティブシフト制御を備え、ドライバーの運転に瞬時に適合させ、軽快なドライビング時にはよりクイックに、ゆったりした運転では、より無駄のない走りに素早く変速制御が移行する。このアダプティブ制御のために旋回、前後G、ペダルポジションなどの情報がすべて網羅される。
「ファスト・オフ(Fast-Off)」モードではスロットルの戻し率を測定して、ドライバーが求める更なる高出力を予測し、必要に応じてギヤをホールドする。例えば、スピードが速すぎるためドライバーがシフトダウンを行った場合、トランスミッションはリクエストを記憶し、速度が適正レベルに落ちるまで変速を行うようになっている。
この9HPは優れたパッケージングでまとめられているので、ギヤ数が3速増えたにもかかわらず、トランスミッションケースの長さは、現行の6速トランスミッションよりわずか6mm長くなっただけで、重量は逆に7.5kgも軽量化された。燃費に貢献する新型油圧ベーンポンプ、既存のスペースを要するクラッチパックに代わる特許取得済みの2枚のドグクラッチ、コンパクトにまとめられたギヤセット等、数々の斬新な設計により非常にコンパクトなサイズのATとなっている。なおこの9HPは、ZF社の米サウスカロライナ州グレイコート工場で生産される。またこの9HPを搭載するのはレンジローバー・イヴォークと考えられる。