マニアック評価vol163
レンジローバーがフルモデルチェンジを行い2013年3月2日より全国の正規ディーラーで販売が開始されるが、発売に先立っての試乗会があり、参加してきた。
今回のフルモデルチェンジで4代目となるが、3代目が2002年発売なので国内では実に11年ぶりのモデルチェンジとなる。レンジローバーは1970年にデビューし、40年以上の歴史のなかでこれまで3回しかフルモデルチェンジをしておらず、一度手にすれば、新型車、現行車であり続ける期間も長く、ある意味高級車としての常套手段でもあり、ありがたみの高いクルマだ。ドラスティックなデザイン変更が頻繁にされては、ありがたみは薄れ、安物感を感じてしまい、伝統もへったくれもない。
そして、久方ぶりのフルモデルチェンジだが、ひと目見て「レンジローバー」と分かるアイコニックなデザインになっていることで、再び安心感と魅力に襲われる。これこそ、高級ブランドの伝統を残しつつ、先端のデザインへと進化していることを感じるからだ。
さて、4代目レンジローバーのラインアップは3モデルが国内導入される。レンジローバー(1230万円)、レンジローバー・スーパーチャージド(1490万円)、もっとも高級なレンジローバー・オートバイオグラフィ(1670万円)の3種類で、いずれもV型8気筒5.0Lエンジンを搭載し、NAとSCで出力違いとなる。最上級のオートバイオグラフィはSCと同じパワーユニットで、装備違いだ。組み合わされるミッションは8速ATで、こちらも高級車御用達のZF製でジャガーやベントレー、BMWなどで採用されているトランスミッション。それをランドローバーで制御したものだ。
0-100km/h加速はレンジローバーが6.8秒、レンジローバーSCが5.4秒とスポーツモデルと同等の強烈な加速をする。出力はNAが375ps/6500rpm、510Nm/3500rpm、SCは510ps/6500rpm、625Nm/2500rpmである。ボディサイズは全長5005mm×全幅1985mm×全高1865mmで、ホイールベースは2920mmとなっている。
エクステリア&インテリアデザイン
エクステリアデザインはレンジローバーらしい特徴でもある高いウエストライン、クラムシェルボンネット、傾斜したDピラー、短いフロントオーバーハング、切りこんだリヤオーバーハングなどなど、ゼロから造った新型にも関わらず、レンジローバーが持つ、デザイン上の特長を継承し、最新のエクステリアデザインへとつなげている。だから、ひと目でレンジローバーとわかり、誰もが新型であることが分かるわけだ。
このアイコニックな新型レンジローバーは、全体的に丸味を帯び、四角くゴツゴツとした雰囲気を残しながらも、実はしっとりとデザインされ、レンジローバー至上最も空力特性に優れたCd値=0.34となっている。SUVとしてはクラストップがアウディQ5、BMWのX6などの0.33だから、遜色ないスペックである。
インテリアは、水平基調のダッシュボードと垂直基調のセンターコンソールで構成され、言うまでもなく高級感のある上品なインテリアとなっている。上質なレザーには職人の手による専心のダブルステッチが施され、ピアノブラックとメタル、シルバーの加飾がセンス良く使われている。ステアリングの握り心地が良く、三角錐のカタチは手のひらにピッタリと治まり、自然と馴染む形状になっている。
ステアリング操作は電動アシストのパワーステアリングがナチュラルで、微小舵角での動き、直進性でのすわりの良さで安心感が高まる。200km/hオーバーで巡行するモデルの片鱗を魅せてもらった気分だ。
メーターは液晶表示で、ジャガーXJにも採用している方式だ。回転計、速度計が正面にならび針も液晶のアナログ表示。ユニークなのは数字の下を針が通るように見えるデザインにしていることか。この液晶表示には伝統を感じることができないのが残念。ナビや車輌情報などのインフォテイメントには良いとおもうが、速度やエンジン回転(サウンド)などアナログで人へ入力を感じさせるものはやはり、液晶のアナログとはいえリニアなものが望ましいと思う。
シートポジションはコマンドポジションと呼ばれ、SUVの利点を生かした見下ろすポジションだ。とりわけ上方視界がよく、起伏のある地形での視認性に優れている。このあたりでもオフロード性能を極限まで高めることに拘る、レンジローバーらしい特長だ。
リヤシートでは、ホイールベースが40mm伸びたために、レッグスペース、ニースペースがさらに広くなり、より快適性が高まった。最高級グレードのオートバイオグラフィにはオプションとして、レンジローバー初の「リヤエグゼクティブクラスシート」が用意された。2座席の独立型で、電動リクライニングやマッサージ機能、メモリー機能などが装備され、後席での特別感もプラスされたわけだ。
こうして、エクステリア、インテリアとも伝統を守りつつ、新たな解釈でデザインされた新型レンジローバーには多彩なパーソナリゼーションが用意されている。やはり、自分だけのエクシクルーシブなドライバーズカーとして仕上げるには、重要な要素といえる。最上級のオートバイグラフィでは、15色のエクステリアカラー、17種類のインテリアコンビネーション、3種類のウッドパネル、7種類のアロイホイールの組み合わせが可能であり、同じ仕様のレンジローバーに出会う確立は皆無に近い。
新型レンジローバーを語る上で注目ポイントとなるのが、SUVとしては世界初のオールアルミボディがある。ジャガーで培われたノウハウを活かし設計されている。現行のスチールボディと比較し、39%軽量で、重量で約180kg軽くなっている。また、使用されるアルミ素材のうち75%がリサイクルアルミで造られ、85%はリサイクルが可能、95%が回収可能というから、実にサスティナブルではないか。
軽量化はさまざま分野で好影響を出す。軽快なハンドリングはもちろん、燃費にも好影響となるのは言うまでもなく、アルミ軽量化メリットの波状攻撃と言えよう。
走行性能において新型レンジローバーは、-40度から+52度、高度4500mなど極限的状況、あらゆる路面でのテストを実施し、SUVとしての実力をワンランク上に上げている。砂漠のロールスロイスと、レンジローバーを語るときに使われる表現だが、悪路での性能向上、舗装路、高速道路での性能向上にも飽くなきチャレンジがされているわけだ。
サスペンションは、軽量アルミから形成され、フロントをダブル・ウイッシュボーン、リヤをマルチリンク形状とし、フロント260mm、リヤ310mmのストロークは、クラス最高の稼動範囲を実現している。また、前後に定評のエアサスペンションを採用し、連続可変ダンパーを備えたアダプティブダイナミクスが全車標準装備され、車高調整はもちろん、乗り心地の面でもエアサスペンション効果が高い。
また、SCモデルにはダイナミックレスポンシステムのアクティブスタビライザーが装備され、ボディロールがコントロールされる。残念ながらNAの試乗車であったため、このシステムを体験することはできなかったが、車高が高くドライビングポジションの高いモデルには効果の高い装備といえる。コーナリング中に起こる車体のロールを違和感のない範囲で抑え込む装置は、人に恐怖を与える「ロール」が少ないので安心感へと繋がる。
そして新型レンジローバーには従来から装備されるテレインレスポンスの進化型が装備される。路面状況に応じて、最適な走行プログラムをドライバーが選択できるシステムだが、新型では走行条件を車輌が分析し、自動的に最適なプログラムを選択するオート機能が備わったのだ。名付けて「テレインレスポンス2」と至って分かりやすいネーミング。今回の試乗は横浜湾岸エリアで、高速主体の試乗、しかも好天に恵まれたため、この新型テレインレスポンス2の威力を体験しなかった。
こうして走破性も高められた新型レンジローバーは、渡河水深深度がこれまでの700mmから900mmに引き上げられ、オフロード走行時は50km/hまでなら+40mmと+75mmの間で自動車高調整もするシステムが導入されている。これは80km/hまで対応可能ということだ。
さて、高級サルーンと比較して欲しいとメーカーサイドからの要望があるように、静粛性、居住性において、非常に優れたデータを持っている。具体的なライバルとなる車名は明かされなかったが、5車種の競合モデルと比較し、音響風洞で160km/hで走行した際のその測定値は多くのサルーンよりも静かであるという結果と、50km/h以下でのロードノイズでも最も優れた数値だと説明を受けた。
実際の試乗でも非常に静粛で、22インチ(NAの標準は20インチ)のタイヤ&ホイールであることをまったく感じさせないほど、見事に履きこなしていた。低速時のロードノイズ、高速時の風切り音などチェックするも、なるほど、おっしゃるとおりで、もはや黙るしかなかった。
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