マニアック評価vol119
熟成が進んだレンジローバーのトップエンドモデル
エリザベス女王在位60周年、ダイヤモンド ジュビリーとなる2012年、英国に関する話題は多い。ロイヤルワラントと呼ばれる「王室御用達」を意味する紋章もそうで、雑誌やTVで頻繁に取り上げられている。
じつはランドローバーもそれを3つ持っている。すなわち、エリザベス女王、エディンバラ公、チャールズ皇太子それぞれに気に入られているということだ。1952年に即位された後、周年を祝うパレードにも使われた実績もあることから、今年もなにかしらの場面で登場することが期待される。
そんなランドローバー・ブランドのトップエンドに位置するのがレンジローバー?ヴォーグである。従来はレンジローバーはひとつのモデル名を指してきたが、2011年のフランクフルトショーあたりから、独立したブランドに格上げされ、ヴォーグ、スポーツ、イヴォークをラインアップに抱えるようになった。
ヴォーグはこれまで通りフラッグシップ、スポーツはディスカバリー4とフレームを共有するミッドレンジ、そしていま話題のイヴォークがコンパクトカテゴリーを担当する。
レンジローバー・ブランドのなかでモデル末期を迎えようとしているのがヴォーグ。2002年にフルモデルチェンジを受けた3世代目も10年を数えるようになった。きっと9月のパリサロンあたりが次期モデルのワールドプレミアの場になるのではないだろうか。
その中身だが、すでにご存知のようにエンジンはジャガー製5.0LのV8型エンジンを採用している。2002年当初はBMW製の4.4L・V8型だったが、2006年からこうなった。初期モデルは4.4Lの自然吸気と4.2L+スーパーチャージャーという組み合わせだったのが、ライバルのパワー合戦に引きずられるように排気量アップされ、結果、自然吸気で375ps、スーパーチャージドで510psまでスープアップされた。カイエンターボの500psを上回る出力である。
とはいえ、ジャガーのエンジンをそのまますっぽり載せたわけではなく、しっかり彼ららしいセッティングを施している。というのも、オンロード性能が高いといえどもこいつはオフローダー。その点からも傾斜角45度以上の角度でオイル周りに不具合が起きないように手を加えた。
オンドーロもオフロードも快適至極
かつてこのクルマでランドローバーのテストコースである、イースナーの山中を走り回ったことがあるが、そのパフォーマンスにはひたすら感心するばかり。30度以上のヒルクライムやダウンヒルで、2.5トン以上ある巨漢を見事にコントロールするのだから恐れ入る。
高いオフロード性能は、テレインレスポンスと呼ばれる電子デバイスで行う。コンソールにあるスイッチを路面状況にセットすれば、あとは勝手にコントロールしはじめる。サンドセクション、マッドセクション、ロックセクションといった分け方だ。
それぞれに合わせたトラクションとブレーキの制御は、長年オフローダー専門メーカーとして培ってきたノウハウの賜物。その中身をひとつ例にすると、サンドセクションではわざとABSを解除させタイヤをロックさせる。その方がタイヤの前に砂のカタマリができて制動距離が短くなるからだ。
↑エアサスを利用し、車高を上下するアクションは派手だが、その恩恵は乗り心地にある
オンロードでの走りはどうか。久々にステアリングを握ったスーパーチャージドは相変わらずド級のパワーを見せつけた。これだけの巨体がアクセルレスポンスよく加速していく。スーパーチャージの利点を生かし、低速から倍増したトルクを発生させる。
巡航域に入ればアクセルの踏みしろはほとんどいらない。追い越しの車線変更まで含め2500rpm以下ですべてをこなす。乗り心地がいいのも特筆すべきポイント。エアサスの恩恵を強く得る。直線ではふわっとした感じを残し、高速コーナーではロールを抑えピタッと路面に張り付く。この変わり身はすばらしい。小さい振動で段差をこなすところも含め高級サルーン顔負けである。20インチなんていうロープロタイヤであるとは思えないしなやかさだ。
ではでは、軽快な走りと迫力のエクステリアで、レンジローバー・ヴォーグを語り尽くせるかといえばそうじゃない。ロイヤルワラントの神髄ともいえるインテリアの豪華さはハンパじゃない。イタリアの高級ボートメーカー、リーバ社のレーシングボートからインスパイアされたデザインは自動車のデザインを超越している。どっしり構えたインパネは視覚的に安定感があり、かつラグジュアリーさを醸し出す。しかも、ウッドの種類も選べれば、レザーのカラーも豊富に取り揃えられる。もし仮にオーダーする立場になっても、選ぶまでに相当な時間を費やすことだろう。
現在ヴォーグのトップグレードに“オートバイオグラフィ”というのがある。インテリアトリムからカーペットまで、クラフトマンシップによる最高級のアイテムが専用に用意される。オートバイオグラフィはまさに究極の贅沢。ヘッドライナーまでフルレザーなんてほとんど見る機会はない。
↑レポートはモータージャーナリストの九島辰也氏
こうしたグレードを揃えるのはこのクルマに対するニーズに応えているから。その意味からもヴォーグが流行りのSUVとは一線を画す存在であることはおわかりいただけたことだろう。
モデル | 価格(消費税込み) |
レンジローバーヴォーグ 5.0 V8 | ¥12,200,000 |
レンジローバーヴォーグ 5.0 V8 Supercharged・ | ¥14,200,000 |
レンジローバーヴォーグ Autobiography | ¥15,200,000 |