レンジローバー・イヴォークの販売が好調のようだ。2011年ヨーロッパで発売が開始されるとすぐにバックオーダーを抱えた。そして日本でも遅ればせながら今年3月3日に販売開始。同様な現象となったと聞いている。4月にはオートチャイナと呼ばれる北京モーターショーでランドローバースタッフ(ボードメンバー)と対面したが、誰もが満面の笑顔であった。イヴォークの販売を含め、会社全体が右肩上がりであることを伺わせる。
さて、そんなイヴォークだが、このクルマはフリーランダーをベースに造られている。モノコックフレームに改良を加え、最新のパワートレーンを載せるという商品パッケージングがとられた。ただ、そこにはかなりの努力と技術力の高さ、それと投資の跡が見え隠れする。
というのも、このクルマの最大のウリはデザイン。それを後回しにしてイヴォークは成り立たない。つまり、そこにすべての技術が注がれたということだ。これまでもコンセプトカーではかっこよかったのに製品化された途端、面影をなくすモデルは少なくなかった。
デザインの源になったのは2008年のデトロイトモーターで発表されたLRXコンセプトだ。その前衛的なシルエットに誰もがいい意味で驚愕した。それは兄となるレンジローバースポーツのコンセプトカー、レンジストーマーの発表時を超えたといっていいだろう。2011年、イヴォークの国際試乗会のときに聞いたところでは、相当な反響だったそうだ。
話を元に戻そう。
イヴォークがLRXコンセプトから発売開始までの間に時間がかかったのはその開発工程にある。というのも、デザインコンシャスなLRXコンセプトをそのまま具現化するには、フレームの全面的なやり直しが必要だったからだ。具体的にいうと、イヴォークは背が低い。そこで車高を下げると今度はロードクリアランスがとれなくなる。いうまでもなくこいつはレンジローバーブランドの一員。そこでオフロードキャパシティを犠牲にしては本末転倒となってしまう。
で、車高を下げながらフロアを高くした。すると今度は乗員の上下スペースが減ってしまう。昔のスポーツカーならいざ知らず、いまどきキャビンを犠牲にしてビッグヒットは見込めない。ということで、乗員の足元に配置されていたパーツを移動させた。
↑ウエッジシェイプなエクステリアデザインだが、インテリアが圧迫されることはなく、プレミアムな空間が広がる
燃料タンクを薄くしたり、サスペンションのサブフレームを作り替えたりという作業が行われたのだ。要するに、ほとんどやり直し。もはや専用設計といっても良さそうな内容である。きっと財務担当役員はこう思ったに違いない。「これだけお金をかけて、元はとれるのだろうか」と…。
それだけ手の込んだ開発をしなくてはならなくなった根源は、デザイナーのゲリー・マクガバン氏にある。フリーランダー2を手がけた人物であり、2011年にDC100というコンセプトカーで話題を振りまいた。イヴォークの前身、LRXコンセプトはまさにセンスアップされた彼のライフスタイルから生まれている。
プレゼンテーションで彼自身がデザインしたという自宅の写真を拝見したが、それはまるで映画のセットのようなたたずまいだ。ウッドとガラスとコンクリートという異素材を巧みにマッチングした仕上がりは現代美術系のミュージアムのようにも見える。
導入的な話はこれくらいにしてそろそろロードインプレッションに移ろう。試乗車は5ドアのイヴォーク。上級グレードの“ダイナミック”である。
エンジンはグレードを問わず2.0L・直4DOHCターボがあてがわれた。ご存知のようにボルボXC60やフォード?エクスプローラーにも積まれている汎用型である。バレンシアにあるフォードの4気筒専用工場で組み上げられたものだ。
↑2.0L+ターボエンジンに6速ATというパワーユニット。→6:4分割のリヤシートなどSUVとしての使い勝手もいい
最高出力は240psでそれを5500rpmで発揮する。4気筒ターボらしい高出力型といえるが、最大トルク340Nmはなんと1750rpmで発生するというから驚く。つまり、低い回転領域でターボブーストはしっかり働くのだ。
だから走り出しは滑らかで、スムーズに前へ押し出される。2.0Lと聞かされていなければ、一昔前の2.5Lターボ、もしくは3.0Lに近い自然吸気エンジンにも思える。そして、クイックなステアリングレスポンスとともにボディは軽々とワインディングを駆け抜ける。
試乗は山間の尾根を結ぶ峠道だったが、その動きはSUVであることを忘れさせるほど。アイレベルも低いことからもそんな錯覚を感じる。4WDもオンディマンドタイプなのでフロントのトラクションがイメージしたラインを邪魔することはない。
乗り心地は20インチの大径ホイールを履いていたこともあり、少々固めに感じた。もちろん、その分粘り腰でコーナリングを楽しませてくれる。が、このクルマに走りをそれほど求めないなら“ピュア”標準の17インチで快適ドライブに徹するのもありだろう。リヤシートを使う機会の多い人にはそちらがおすすめだ。ちなみに、電磁式でダンパー内の粘性を変えるマグネライドは効果てき面だった。引き締められた足は確実にアクセルの踏み幅を深めてくれる。
個人的に気に入ったのはハンドリングで、コーナーが待ち遠しいほど気持ちいい。スッと切ったときのパワーステアリングのフィールは、まんまスポーツカー。確認していないが、この辺の味付けはジャガーの開発陣が関与したと目される。フィーリングだけでなく手のひらの感触が昨今のジャガーXFやXJに似ていた。もしかしたらパドルシフトあたりは共有しているかもしれない。
スポーティなテイストばかりに気が行ってしまうが、インテリアのつくりがいいのもイヴォークの真骨頂。ヴォーグやスポーツより小さいながら、プレミアムSUVであることはここで感じられる。というのも、使われる素材はすべてヴォーグたちと同じ。インパネを覆うレザーもダブルステッチも熟練したプロの作業によるもの。1台の車両に3頭分以上の大きさに匹敵する革が使われ、またアルミもウッドパネルもすべて本物を使用する。同クラスにおいてここまで素材にこだわるのは珍しく、まさにレンジローバーブランドならではのワザといえるだろう。
イヴォークは、兄貴たちとはドライビングポジションが異なる。これまでの高い位置から見下ろす感じはない。それは悪路で視界を確保する伝統的なものだが、ここでは踏襲されなかった。いいとか悪いとかでなく、クルマのキャラクターという意味合いだろう。そのことからもイヴォークは開発陣がオンロード性能の向上に本気で取り組んだことがわかる。日常的に使い勝手のいいSUVであることはいうまでもない。
■レンジローバーイヴォーク/イヴォーククーペ主要諸元
●価格 ピュア450万円、プレステージ578万円、クーペ・ピュア470万円、クーペ・ダイナミック598万円 ●全長4355mm×全幅1900mm×全高1635mm(クーペ=1605mm) ●排気量2.0L+ターボ ●最大出力177kw(240ps)/5500rpm、最大トルク340Nm/1750rpm ●JC08モード燃費9.0km/L ●ミッション=6AT ●駆動方式=フルタイ