ジャガーがつくる100%電気自動車のI-PACEに試乗してきた。インテリアの雰囲気、エクステリアデザイン、そして走りのフィーリング、どれをとってもジャガーらしさを感じさせるプレミアムBEVモデルだった。
新しい革新的デザインへの挑戦
これまでクルマにはエンジンとトランスミッションがあったが、BEV(バッテリーイーブイ)になると、それらは不要になり、かわりにモーターとインバーター、そしてバッテリーが必要になる。だが、その大きさはエンジンやトランスミッションほどの大きさはなく、また、どこに搭載するかなどのレイアウトの自由度もエンジン車とは比較にならないほど自由だ。
そのためI-PACEのエクステリアデザインは、名匠イアン・カラムが監修し新しいデザイン領域へと飛び込んでいる。クルマのデザインは商品企画の段階で決まる「パッケージデザイン」が最も強く影響し、従来であればスポーティなクルマのデザイン条件として絶対的だったものがロングノーズ、ショートデッキというプロポーションだ。
しかし、BEVには大きなエンジンは不要で、そのためボンネットのサイズはコンパクトにできる。言い換えればロングノーズ、ショートデッキ以外にもスポーティに見えるデザインがある!という挑戦でもある。
実際SUVであるのに、グリーンルームは小さく屋根も低く見える。一方キャビンは前方まで伸び、「キャブ・フォワードデザイン」とジャガー&ローバー社は呼んでいる。
リヤの張り出しは大きく力強さが伝わってくる。ヘッドライトやバンパーデザインなどの最後のフィニッシュワーク、そして意匠デザインのセンスが良く、ニューコンセプトに位置付けられる全く新しいモビリティなのに、ジャガーらしさがそこかしこにあって関心する。オーナー目線で言えば満足度は高く裏切らないデザインということだ。
インテリアもニューコンセプト同様に、タッチ操作のインターフェイスが増え、メーターをはじめすべてがデジタル化されている。そのためキャビンは、ガソリン車とは一線を画す設えになっている。だが、ステアリングやシート、ペダル配置といった人がドライブする上でもっとも敏感な部分では、ガソリン車と同じように違和感のない作りになっているところで安心感も生まれてくる。新しいものづくめの中で、いかに落ち着く空間を作るかという工夫であり、ジャガーらしい配慮ということだろう。
加速と音の狂騒
走行シーンは圧倒的なパワー400ps/696Nmが炸裂する走りを体感する。エンジンであれば回転の上昇に比例してパワーが盛り上がり、加速していくが、モーターはアクセルを踏み込んだ瞬間マックストルクを発揮するため、どっか〜んと加速させることが可能だ。
I-PACEは回生ブレーキの「強・弱」の設定があり、「強」を選択するとワンペダルドライブが可能になるほど減速する。つまりフットブレーキは不要だ。もっとも停止寸前になると回生は解除されフットブレーキ(油圧式摩材)で停止させる必要はある。一方「弱」を選択すると通常のエンジンブレーキよりやや弱い程度の減速Gで車速を落とすことができ、好みの走り方が選べる。
また、ドライブモードには「ダイナミック」「コンフォート」「エコ」があり、都度アクセル開度の反応が変わり、ステアリングの操舵力も変化する。合わせてサウンドコントロール機能を駆使するとよりスポーティな走行が楽しめる。
このサウンドコントロールは、ギミックではあるが、ダイナミックとカーム(Calm)の間で、無段階にボリュームコントロールができ、ダイナミックサウンドでフル加速させると、エンジン音とは異なるが迫力あるモーター音を響かせ、心沸き立つ気分が味わえる。エンジン車をさんざん乗り回し、意のままに操ってきたテクニシャンにはたまらない演出なのだ。
12気筒エンジンを搭載してきた歴史のあるジャガーだけに、そのICEの良さ、魅力を熟知しならがらEVらしさを兼ね備える仕上げにしているあたりもジャガーらしさを感じる。
「美しい」がジャガーの歴史
サスペンションはエアサス仕様とコイルスプリングの設定があるが、試乗車はエアサス仕様だった。こちらはコイルスプリングに比べるとマイルドという話だが、ジャガーブランドであることや車格を鑑みればエアサスが似合っているのではないかと思う。
車両はICE搭載のF-PACEとほぼ同等のサイズのため、DセグメントのSUVとなる。レンジローバーからの買い換えユーザーや、ポルシェから買い換え、またアウディ、BMW、メルセデス・ベンツユーザーからの視線も熱いという。
そして意外にも、クルマに興味があるとか新しい物好きといったユーザーよりも、スポーティで美しいクルマが好きというユーザーからの支持が強いという。やはりそこはジャガーブランドならではなの特徴的ポイントだろう。
ハンドリングにもジャガーらしさ
バッテリーは90kWhと大容量をフロア下に敷き詰め、低重心化に一役買っている。これだけの大容量だけに、航続可能距離もWLTCモードで最長470kmあり、エアコンやヒーターを使ったとしても実質300km以上の走行は可能だ。航続距離を伸ばした日産リーフe+のバッテリー容量が62kWhだから、その容量の大きさはイメージできると思う。また、8年間または16万kmの保証がついている。
電欠を心配するユーザーも多いと思うが、この航続距離であれば日常使いでは使い切れない距離だ。また休日のドライブとした場合でも、かつての燃費が10km/Lも越えようものなら「燃費いいねぇ」と言っていた時代のガソリン車並みに走行できるわけだ。さらに燃料がハイオクだったりすれば、現状の急速充電設備での電気代であれば格安で充電できるメリットがある。
そしてモーターは前後にひとずつ搭載したAWDシステムだ。モーターは前後ともに、それぞれ約200ps/350Nmの出力があり、0-100km/h加速は4.8秒の俊足。その一方でブレーキによるトルクベクタリングも装備しているので、直線だけでなくコーナリングでも魅力を発揮する。
英国はハイスピード・ワインディングの国という顔もあるので、100%EVとなってもそのハンドリングやドライバビリティは譲れないということなのだ。
I-PACEは見て、乗って、攻めてみて「ジャガー」だと感じさせてくれるモデルだった。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
【価格(税込)】
- I-PACE S 959万円
- I-PACE SE 1064万円
- I-PACE HSE 1162万円
- I-PACE FIRST EDITION 1312万円(試乗車)
【諸元】
- 全長4695mm、全幅1895mm、全高1565mm、ホイールベース2990mm
- 最高出力/最大トルク:294kW(400ps)4250-5000rpm/696Nm 1000-4000rpm
- 航続距離:WLTCモード 438km
- 総電力量:90kWh
- タイヤサイズ:フロント245/50 R20、リヤ245/50R 20(試乗車)