【ジャガー】specialist海外試乗 国内登場間近のジャガーFタイプ、鋭いハンドリングとスポーツサウンドに昂ぶる  レポート:九島辰也

マニアック評価vol192

国内投入を目前にしたFタイプを海外で試乗する機会を得た

2012年パリのオートショーで発表されたジャガーFタイプにようやく試乗することができた。「ようやく」としたのは、この春のジュネーブショーでは助手席同乗試乗という場面もあり、かなり焦らされた感があるからだ。コンセプトカーのC-X16のときから待ちわびていただけに、やっとという思いが強い。

パンプローナはワインディングが豊富でインプレッションに最適のロケーション

試乗会場となったのはスペインのパンプローナという街。地図を見るとこの街はスペインの北東、フランスに近いところに位置する。高原なのでワインディングが豊富にあり、さらにはハイウェイも完備している。しかも、今回はナバラサーキットというプライベートレースウェイでのサーキットランもついている。なるほど、Fタイプを存分に味わってほしいというメーカー側の意図が伝わってくる。

まずはFタイプのプロファイリングだが、このクルマはジャガー久々の本格派2シータースポーツカーとなる。歴史を辿ればまさにEタイプ以来の2シーターで、1975年からそこは空席となっていた。XKシリーズとの棲み分けは、あちらは2+2のGTカー。昨年は550psのXKR-Sも現れはしたが、そこは明らかな違いがあるといえよう。

Fタイプの中身だが、基本骨格はアルミニウムボディからなる。進化したそれは第四世代で、これまで以上の軽量化と剛性アップを実現する。ホワイトボディはわずか261kgだそうだ。具体的にはリベット技術を航空機産業から取り入れ、それを多用している。スポット溶接を止め、リベットと接着剤中心のフレーム構造を完成させた。ちなみに、今回英国にて最新工場の見学を行なったが、そこで火花を見ることはなかった。これは火災の危険性を減らすばかりか、工場内の空気のクリーン化にも役立つそうだ。

第四世代のアルミボディ。リベットや接着剤使用で軽量化と高剛性を両立する

また、アルミ合金自体も進化。一世代前と同じ堅牢さを保ちながらさらに軽い合金を製錬させている。それじゃフレーム設計はオールニューかといえば正確にはそうではない。

フロントアンダーボディやAピラー部分などはXKシリーズのプラットフォームと共有する。つまり、前半分はXK。だがエンジンコンパートメントを新たに補強。目指したのは+30%の剛性アップで、そのためフロントタイヤハウス内側の構造を全く新しくした。

同時に前後の重量配分を50:50にこだわったのも特筆すべき点。フロントヘビーをさけるための工夫も施される。そのためFタイプのバッテリーはリヤに納まる。

3L V6スーパーチャージャー2種類と5L V8スーパーチャージャーの計3種をラインアップ

パワーユニットは2つの3.0LのV6型+スーパーチャージャーと5.0LのV8型+スーパーチャージャーが用意される。最高出力はそれぞれ、340ps、380ps、495psで、すべてトランスミッションはZF製8速ATが組み合わされる。ステアリング上のパドルかトリガータイプのシフトノブを操作すると、マニュアル操作ができるのはいわずもがな。マニュアルシフトよりも断然にシフトチェンジが早いことから、MTギヤボックスは用意しなかったそうだ。

この3つのエンジンは他のモデルと共有する。V8型はXFR用の510psをディチューンしたものだが、当然パワーウェイトレシオはこちらの方が上となる。

Fタイプの概要が分かったところで、早速試乗に移ろう。まずは“素”の340psモデルだ。エントリーモデルとなるこれは、可変ダンパーを用いない通常のスプリング・サスペンションからなるのが特徴。その意味では演出のない基本性能がわかるモデルといえそうだ。

ステアリングはシャープで、ステアリングフィールが直に伝わってくる

で、まず感じたのはハンドリングの鋭さ。XKR-Sでもそれを目指したのだが、開発陣がやりたかったのはこっちといった印象だ。というのも、全長4400mm程度のボディがピッタリそれに反応する。まるでゴーカートにでも乗っているように、操舵角に対してお尻から回っていく感覚がある。この動きこそ、彼らの目指したものに違いない。

それに典型的なスポーツカーのステアリングフィールが手の平に伝わるのも美点。あえて油圧パワステを採用したことで、違和感のないナチュラルな手応えが得られた。路面状況をも感じさせるようなセッティングだ。かつてのBMWに通じるスポーツカーフィーリングがそこにある。「そうそう、コレコレ!」と思わず言いたくなるような。

乗り心地はマイルドで、ダンパーやスタビを固めすぎたような細かい動きはない。この辺はスポーツカー的というよりジャガーネスといえる仕上がり。ただ、コーナーでのしっとりした感覚はそれほどでもなく、けっこう大胆にグイグイ行く。ここはちょっと新しい発見といえなくもない。

これに対し、ロードセンシング・システムを持つ可変ダンパーを装備した380psバージョンは少々乗り心地が硬かった。スピード域が上がってこそ足の粘りは発揮するものの、街中でのピッチングは意外に強い。一般道とナバラサーキットで試乗したが、こちらはサーキット向きと思えたほどだ。

そして最後に乗った5.0L・V8型はどうかというと、そういったものをすべてパワーで解決するといった印象を得た。とにかく出だしからボンネットが浮き上がる勢いで太いトルクがクルマを前へ押し出す。この辺はまさに大排気量マシンといった感覚。そして走り出すと今度はライトウェイトスポーツカー的動きが顔を出し、スイスイとコーナーを走り抜ける。

かつてのACカーズ(ヴィンテージカー)で例えるなら、出だしはコブラ、そのあとがエースといったところだ。また、スタート時にガバッと踏んだときのリヤの動きがすばらしい。「テールハッピー?」と思わせておいて、そこからデバイスを作動する。まさに開発陣の意図した演出だろう。きっと主マーケットとなるアメリカでこの動きは相当ウケるに違いない。

Fタイプは今回はコンバーチブルでデビューした。ソフトトップの作動はスイッチひとつで行ない、開閉時間は12秒。時速30マイル以下なら走行中も開閉可能だ。風の巻き込みはリヤのバルクヘッドが高いので問題なし、サイドウィンドウを上げておけば前方からの風の進入もない。

最後にこのクルマの特徴となるエキゾーストサウンドについてだが、こいつは3000rpmからエキゾーストバルブが開いてとんでもない音に変調する。その音はまさにレーシングカー。それも60年代のブラバムを彷彿するけたたましいサウンドが周辺一帯に響き渡る。これこそこいつの真骨頂で、フェラーリともポルシェとも違う英国を代表するジャガーネスがそこにある。

Fタイプのインプレッション担当は、九島辰也氏

ジャガージャパン公式サイト
ジャガー公式サイト(英語)

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