マニアック評価vol29
ドラスティックなデザインチェンジをしてきたジャガーXJは、2009年7月にデビューした。1968年にデビューしてから4代目に相当するニュージャガーXJは伝統にしがみつくことなく、革新的な変更をしてきた。
伝統的な丸目4灯に終止符を打ち、異形角型ヘッドランプとし、全体のシルエットをクーペフォルムとしている。高級サルーンでありながら、スポーティさを感じさせるデザインだ。特にリヤウインドウに繋がるCピラー部分をブラックアウトするとこで、より一層クーペデザインが協調されているように思う。これまでの重厚な移動空間というイメージから走りを予感させる仕上がりになっている。
ライバルはメルセデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズだろうが、このデザインからはマセラティ・クアトロポルテあたりと比較してもいいのかもしれない。それほど、ラグジュアリーなスポーツサルーンだからだ。
インテリアにおいても、ドアトリムからはじまるラインはラウンドしながらキャビンを包み、クルーザーのキャビンをモチーフにしたというデザインは、優雅さを感じさせる。ウッドの使い方やメタルが持つきらびやかさの使い方もすばらしく、上質なレザーも加わり、ジャガー流豪華さを満喫できる室内だ。
インテリアの面白さとしてメーターがバーチャルになったことがある。アナログ・デザインのメーターなのだが、液晶に映し出されたもので、ハイテクな印象を受ける。豪華なクラフトマンシップの内装と最新技術が融合している部分でもある。また、はじめて乗り込んだ人が必ず驚くものに、シフトダイヤルがある。エンジンが停止しているときはセンターコンソール内に収納されていて、いわゆるシフトレバーがまったくない状態になる。エンジンを始動すると、自動的に躍り出て、ダイヤルをまわしてドライブに入れるという操作が楽しめるのだ。
グレード構成を見てみると、ラグジュアリー/プレミアム・ラグジュアリー、ポートフォリオ、スーパースポーツというグレード構成であり、装備の違いとエンジンの違いがある。このほかに、ロングホイールベースモデルがポートフォリオとスーパースポーツに用意という構成になっている。
エンジンは2種類あり、V型8気筒のNAとスーパーチャージャー付きである。排気量はいずれも5.0LDOHCで、ミッションは全車ZF製6速ATとなっている。
試乗したモデルは標準ホイールベースのポートフォリオでNAエンジンモデルである。先代の後期モデルからアルミボディを採用しているために、全体の重量が軽量となりライバルとされるメルセデスベンツSクラスやBMW7シリーズよりもパワー/ウエイトレシオで有利である。
ジャガーがアルミボディを手掛けたのは10年以上前で、600種類もの合金を使い、リベットとエポキシ接着材を用い溶接箇所なくプラットフォームを構成している。さらに、使用される合金はリサイクル材が50%も使用され、ジャガーなりの環境対策のひとつとして造られている。
今回試乗したポートフォリオのNAのライバルとなるのはSクラスならS550、BMWなら750iである。車両重量はS550が1980kg、750iが2040kgに対し、ジャガーXJは1850kgと大人2人から3人程度も差があることになる。出力は387ps、407ps、そしてXJが385psとなっているから、XJのパワー/ウエイトレシオは4.8ps/kg。S550が5.1ps/kg、750iが5.0ps/kgとなり、ジャガーXJがもっとも優れているという結果になる。
実際ハンドルを握ると、動きが軽いというのがファーストインプレッションだ。それは、ステアリングも軽く、アクセルのレスポンスも軽く、クルマは軽快に加速していくからだ。このフォーリングはドイツ車とは一線を画す味付けに仕上がっている。軽いと聞くと軽薄さをイメージするかもしれないが、決してその類の軽さではなく、大柄で重厚なボディをとても扱っているような感覚にならない軽快さがあるのだ。
加速していくとV8型エンジンのサウンドが室内に聞こえる。つまり「機械の作動音は聞こえるようにしておく」という欧州車に共通したものを感じる。国産車のように、すべての音を消音し、動く応接間を良しとしていく手法とは違ったインテリア造りが興味深い。
ハンドリングも軽快である。ヨーモーメントとロールの感じ方では、旋回方向のヨーの動きを強く感じるために、シャープであると感じる。つまり旋回をはじめてからロールを感じはじめるために不安感が一切起きてこない。高級サルーンでありながら、スポーツカーであるといわれる所以がここにあるのだろう。低速域の多いワインディングですらまったく苦にならず、キビキビと走る姿は、大柄な外見とは違い軽快なハンドリングをしてくれる。
乗り心地は、室内で可変させることができるジャガー・ドライブコントロールを装備している。スロットルレスポンスやサスペンションの設定を変えることができるもので、ノーマルモードでも若干硬めの印象はあるが、足元をみれば20インチタイヤを装着しており、その点を考慮するとかなりのレベルで乗り心地がコントロールされていることを感じる。
それよりも、路面の凸凹を乗り越えるときにスッとアシが伸び、ゆっくりと吸収していくしなやかなサスペンションであると感じさせつつ、小舵角でのキビキビした反応は、どうやって造りだされてくるのかということに感心させられた。アルミモノコックボディ+接着剤の好影響はこのあたりにも存在しているのだろう。
伝統にしがみつくことなく、あらたな伝統を造り出すブランド力のあるジャガーは、XJもまた長く付き合いたくなる魅力を持ったオールニュー・ジャガーなのだろう。
文:編集部 高橋明