アメリカにおける成功者の証として選ばれるブランドにキャデラックがある。そのキャデラックのフラッグシップSUVであるエスカレードがフルモデルチェンジをしたので、さっそく試乗してきた。<レポート:髙橋 明/Takahashi Akira>
4代目となった新型エスカレードのアピールポイントをまとめてみると、エクステリア、インテリア、最新の安全装備、そしてニューエンジンの搭載である。国内導入のグレード展開は上級のプラチナムとプレミアムの2グレードとなっている。
エクステリアはキャデラックブランドとしての統一感あるデザインを持ちつつ、ひと目でエスカレードであることが分かる特徴的なデザインになっている。特に縦型LEDヘッドライトやグリルデザインで、その存在感や力強さなどを感じる。リヤビューではフィンをテーマにした縦型テールランプも個性的だ。
ボディサイズは全長5195mm×全幅205mm×全高1910mm、ホイールベース2950mmという他に類を見ない大きなサイズだ。ライバルはフォード・リンカーンのナビゲーターくらいしか思いつかない。クルマに近付くとより大きさを感じ、迫力満点だ。運転席からの眺めは、信号待ちで並んだ2tトラックと肩を並べる高さだ。
ドアを開けると乗りこみ用のステップが自動で出てくる。車内に乗り込むと、豪華な室内が目に飛び込む。インテリアでは高級素材をふんだんに使うことやステッチなど、職人技を駆使したデコレーションをするなど、フラッグシップに相応しいインテリアになっている。フロントシート左右ともにマッサージ機能を搭載し、大きめの容量のある冷蔵庫を設置するなど、長い旅でも快適に過ごせるアイテムも装備している。
また、フロントウインドウはボディサイズのわりに小さく、車内に入ると明るい解放感とは逆に密室感のある秘密めいた雰囲気を感じる。やはり、同乗者が誰か?分かりにくいほうがいい場合もある。
快適に過ごすために必要な室内の静粛性では、防音を徹底し、動く応接室的な静かさとゴージャスさがある。さらに、フロントウインドウとフロントの左右サイドウインドウにはアコースティックラミネートガラスを採用し、音の侵入を抑えている。また、ボーズ社との共同開発で、アクティブノイズキャンセリングする機能を持っている。ノイズと相対する逆相の周波数によって打ち消す手法ということだ。また、GMとしては30年以上ボーズ社とのかかわりがあり、今回のボーズオーディオでは車両開発の段階から、サウンド作りを共同開発している。
ボーズオーディオで特徴的なのは、サラウンドシステムのアナウンススピークテクノロジーで、より立体的に聞こえ、楽器やボーカルの位置がよりクリアに分かるシステムとなっている。「アフター品よりもいい音で聞こえる」とGMジャパンは自信を見せる。試乗中のサンプルサウンドCDをかけると、そこはすぐにオーディオ・リスニングルームに早変わりだ。
実際の試乗でも、車内の静粛性は高く、タイヤのロードノイズすら聞こえないほどだ。装着タイヤサイズは285/45R22と大きい。高速試乗でも風切り音は静かで、滑らかな乗り心地でしっとりとした感触はまさに、高級車の乗り味で満足感は高い。レザーシートの座り心地やフットスペース、ゆったりとしたヘッドスペースなどアメリカ人の考える「贅沢」が具現化されており、大きな魅力を感じる。
もちろんフロントシートにはヒーター&クーラーがあり、電動マッサージ機能と合わせて至れり尽くせり。2列目はキャプテンシートになっており、より広大なスペースを独占できラグジュアリーな空間を満喫できる。3列目は電動で折りたたみが可能でフルフラットになる。リヤゲートを空けたところにもスイッチがあり、どこからでも電動パワーで開閉、フォールディングなどが可能で、アメリカ人は楽をすることにかけては天才的であると感心。
最新の安全装備では衝突軽減ブレーキをはじめ、レーンデパーチャー・ワーニング、フォワードコリジョン・アラートなどなど万全の装備。そして全車速対応のアダプティブ・クルーズコントロールも装備している。
新型エスカレードに搭載するエンジンは新開発のV8型「Gen5」という名称で、気筒休止システムが前モデルより、より頻繁にV4運転へシフトする制御になり、省燃費に貢献する。ドライバーにはスピードメーターパネルの表示で確認できるが、気筒休止やV8稼働再開など体感はできない。あくまでモニターで確認できるレベルだ。
排気量は6.2LのV型8気筒OHVエンジンで、426ps/623Nmというビッグトルクを発生する。車重2650kgを軽々と加速させ、アメリカンV8を堪能できる。組み合わされるトランスミッションは6速ATだ。スロットルをわずかに開けるだけで国内の道路では即巡航速度まで達し、静かに滑らかに走る。まれに追い越し加速などの状況でアクセルを踏み込むとOHVのV8型らしいサウンドはちゃんと残してあり、楽しくなる。
シャシー、サスペンションではラダーフレーム構造を踏襲し、サスペンションに磁性流体で減衰が変わるマグネティックライドコントロールを装備している。また、2WDと4WDは切り替え式で、「2H-auto-4H」の3モードがあり、通常は2Hかautoを選択する。2Hは後輪駆動で4Hは四輪駆動でオフロード、雪道、凍結路などで使用する。autoモードは滑りやすい路面のとき自動で4WDになるというものだ。
この大きなエスカレードだが、運転してみると高いところからの見降ろし感や、その大きさゆえ道を譲られるケースも体験する。合流する場面でもあっさりと進路は開けられ、取り扱いは意外にも楽だ。また、ハンドリングもかつてのアメ車のように非常に軽い操舵感ではなく、しっかりとした手ごたえがあり、安心感がある。コーナリングでも意外なほど正確に動き、ストレスはない。節度のある重さ、手ごたえ感、切った分だけ回頭する動きなど、大きさを持て余すことはない。
キャデラックの中でも独特の位置づけを持ち、セレブ御用達として人気を得ているエスカレード。4代目は格段に質感を上げ、最新のデバイスを纏い、そして強い存在感を見せつけるのは間違いないモデルだった。