シボレー・コルベットのフルモデルチェンジ、第7世代となったコルベットZ51クーペに試乗できた。
1954年に初代C1型がデビューして60年目となる2014年C7型コルベットが誕生。しかもスティングレーのサブネームが本国で復活している。C7型コルベットのエクステリアは挑発的で明確なデザイン。ロングノーズにショートデッキというコルベットがもつ基本輪郭を踏襲し、見るからに空気を切り裂くイメージをさせるデザインだ。
モデルラインアップはクーペとコンバーチブル。それにパフォーマンスモデルのZ51がそれぞれに加わる。クーペモデルは7MTと6ATがあり、コンバーチブルは6ATのみ。全長4510mm×全幅1880mm×全高1230mm、ホイールベース2710mmで搭載するエンジンはどれもV8型6.2Lを積んでいる。クーペモデルは2014年4月12日から、またコンバーチブルは5月24日から発売される。
◆エンジン
搭載するエンジンはLT1の呼称があり、エンジンとしては第3世代のLT1になる。初代のLT1はC3型コルベットに搭載され鋳鉄ブロック+鋳鉄ヘッドで始まり、第2世代は鋳鉄ブロック+アルミヘッド、そして第3世代でオールアルミ製へと生まれ変わっている。基本レイアウトは伝統のOHVでこのプッシュロッドに強い魅力を感じるファンも多いだろう。
またスモールブロックを採用しているが、かつてスモールブロックとビッグブロックの見分け方はエキゾーストポート位置が片バンクのセンター2番と3番がくっついているものがスモールブロックで、ポート距離が均等のもがビッグブロックだった。これはボアピッチの距離がスモールは4.4インチ、ビッグが4.8インチという違いからのレイアウトだったのだろうが、C7コルベットのエンジンブロックは均等のエキゾーストポートになっているので、外観からは区別できなくなってしまった。
出力はノーマルが460ps/624Nmで、Z51モデルはエキゾーストシステムの違いにより、466ps/630Nmへとアップしている。が、どちらもLT1型を搭載している。LT1エンジンはコルベットの専用エンジンとしてデビューし、おもにヘッドのチューニングによって高出力化した歴史がある。LT1はストリート用エンジンとして垂涎の的となるエンジンなのだ。
そして第3世代のLT1は直噴化され、無段階可変バルブタイミングを採用し、省燃費技術として気筒休止とアクティブフューエルマネージメントシステムを備えている。米国EPA燃費のハイウエイモード燃費では12.3km/L、シティモード7.2km/Lとなっている。
ちなみに、これまでアメ車のエンジン排気量は立方インチ、つまりキュービックインチという言い方だったが、今回のLT1は6.2Lでccの排気量表示になっている。つまり、ボア×ストロークなどの単位がインチからセンチに変更されたということで、このあたりからもGMのグロバール展開が想像できる。アメ車はボルトやナットまでもインチが主流で、工具類まで共通化できなかったが、これでもしかすると世界共通の単位になったのかもしれない。まさにアメ車からアメリカ車へと変貌し、グローバルカーになっているということなのだろう。
◆ドライバー重視の最先端電子デバイス
C7コルベットはオールアルミフレームで新設計され、従来より57%ねじれ剛性がアップし、ボディだけで45kgの軽量化をしている。リアルカーボンボンネットとルーフだけで8kg軽量化し、低密度の複合材SMCの採用で5kg軽量、カーボンナノコンポジットのフロアで4kgの軽量化をしている。また、重量配分も50:50とし、よりハイレベルのドライバビリティや運動性能を追及したものになっている。
少量生産車であることを生かしインテリアも職人の手作業による造りこみを行なったり、リアルカーボンの装飾、アルミ、レザーの使い方などに工夫を凝らし、上質なインテリアとしている。グローバルモデルとして世界中の富裕層を満足させるためのインテリとなっている。
C7コルベットの特徴として多くの電子デバイスによる制御技術があげられる。そのひとつに、ドライバーモードセレクトがあり、5つの選択が可能(Weather/Eco/Tour/Sport/Track)で、Z51ではトラック(サーキットモード)モードのときに、さらに5つの選択ができるパフォーマンストラクションマネージメントがある。
また、タイヤの温度を検知して車両の制御をするというシャシー制御初の技術も搭載。これは最適なトラクションやブレーキ性能を確保するための技術で、タイヤ温度、空気圧、ホイールスピード、コーナリングG、エンジントルク情報などさまざまなデータからABS、電子制御LSDをコントロールする。たとえばタイヤ温度7度の時、最大グリップ力は常温時の70%程度しか発揮されないので、そのためABSの介入を早めたり、LSDをよりアクティブにして車両安定性を高めるなどの制御が行なわれる。その結果時速60マイルからの制動では1.5m制動距離を短縮できるというものだ。
他にもサスペンションには流動磁性体を使ったマグネティックライドコントロールを採用し、乗り心地、パフォーマンスアップに貢献する。
◆Z51専用装備
さてパフォーマンスモデルのZ51は、レース技術を応用したアイテムを多数搭載し、サーキット走行性能を重視したスペシャルモデルである。その専用装備として、まずエンジンには専用のエキゾーストシステムが採用され前述のように出力をアップ、そしてドライサンプ化している。他にも強化ブレーキ&スリット入りブレーキローター、ギヤレシオの変更、サスペンションの最適化、専用クーリングシステム、電子制御LSD、専用スポイラーなどの装備を持っている。
また、装着するタイヤにも違いがあり、サイズではノーマルがフロント:P245/40-18、リヤ:P285/35-19に対し、Z51のフロントタイヤはP245/35-19、リヤ:P285/30-20となっている。銘柄はミシュラン パイロットスーパースポーツZPでセロプレッシャー、つまりランフラットタイヤが専用装着される。そして、このタイヤもZ51用はサーキット走行を重視したタイプで1Gのコーナリングフォースに耐えられる設計のタイヤを装着している。
◆インプレッション
試乗できたのはZ51モデルのクーペ6速ATモデル。ドアを開け低いポジションに座ると気分は高揚する。36φという小径のステアリングにパドルシフトが装備され、2眼のメーターの速度計の針は真下の0km/hを示している。スタートボタンを押すと、V8型独特のエンジン音が響きLT1がアイドリングを始める。それはサーキットでよく耳にするレーシングエンジンのようなアイドリング音だ。
シフトをDモードに入れゆっくりと走りだす。すると太いタイヤが巻き上げる砂利がボディに当たる音が聞こえる。これもレースカーのような錯覚を起こさせる。ロングノーズだとはっきりわかる視界もまた、楽しい。最小回転半径6.0mといったことも合わせ、「細かいことは似合わない」という気持ちにもなる。
エンジンはトルクフルでアクセルを10mm踏んでいるだけで周囲の速度より速い。市街地を走るにはアイドリングに少しだけ回転を上げてあげれば流れに乗れる。高速でも回転を上げることなく100km/hの流れに乗るのはたやすい。回転が上がらずとも高速道路を走ることの優越感はあり、底知れないパワーを使わずとも先行車は道を空ける。
ワインディングではそのパフォーマンスが圧巻。曲がることが得意なコルベットスティングレーを堪能する。ロールすることなくどんどん回頭しコーナーを駆け抜ける。エンジンも気持いいほど軽快に周り、そしてブリッピングしながらのダウンシフト、ブレーキング、ターンインへとつながる。サーキットで試したい、という衝動が湧きあがる。
市街地での乗り心地もいい。もちろん、固めのスポーツサスペンションでセダンのようなラグジュアリーさはないが、決して固くて乗りづらいものではない。エンジンの性格も含め、日常使いできるという表現はまったく大袈裟な言い方ではない。ごく普通に乗ることができるスーパースポーツカーと言えるだろう。
■シボレー・コルベット価格表