2012年11月15日、GMジャパンはエントリー・ラグジュアリースポーツセダンと位置付ける「キャデラックATS」を発表した。キャデラックATSはドイツ勢が優勢なプレミアム・スポーツセダンのセグメントに真っ向から対抗しようとする意欲作で、そのキャッチフレーズは「デトロイトで生まれ、ニュルブルクリンクで鍛え上げられたATS」だ。なお20013年モデルとなるATSの発売は2013年5月が予定されている。
BMW 3シリーズ、メルセデスCクラスをターゲットにしたキャデラックATSは、2012年1月のデトロイトショーでワールドプレミアを行い、アメリカ市場では8月から発売が開始されている。ATS購入者の70%が他銘柄からの乗り換えで、新たなアメリカ製のプレミアムクラスの小型スポーツセダンいうコンセプトは認知されているという。したがって日本市場においても、ドイツ・プレミアム・スポーツセダンからの乗り換えを促進するという役割が与えられている。
キャデラックATSのデザインは、キャデラックのデザイン言語「アート&サイエンス」を守り、コンパクトサイズでありながら縦型のヘッドライトとテールランプ、フロントのV字型デザインをモチーフにするなど伝統的なテイストが受け継がれている。
一見すると角ばって見えるが、エクステリアのフォルムはダイナミックで彫りが深く、フロントウインドウは強めに倒され、ショートテールとすることで側面からはクーペのように見える。空力的にもチューニングされ、ATSラグジュアリー・グレードでは高速走行時に自動的にグリルを塞ぐ「アクティブエアログリル・シャッター」を装備する。また、リヤのトランクリッド上部に装備されたストップランプはスポイラーとしての機能も持ち、床下の整流カバーも完備され、Cd=0.299を達成している。
インテリアは、ラグジュアリーカーにふさわしく、アルミ材、カーボン材、本革などすべて高品質な本物の素材を使用し、クラフトマンシップを感じさせる仕上げになっている。その一方で、ダッシュパネルの中央には8インチサイズのマルチタップ・ディスプレイを装備し、インフォテイメント類は、すべてディスプレイの画面で操作が可能な、CUE(キャデラック・ユーザー・エキスペリエンス)システムを採用する。
多数のブルートゥース接続以外にUSB、MP3、携帯電話の接続、USBメモリーやSDカードにも対応し、内蔵メモリーにファイルデータを格納できる。ディスプレイはスマートフォンと同様の操作で、またはステアリングスイッチでも操作できる。
またこのディスプレイは、タッチ式というだけでなく、ユーザーの手が画面に近づくと操作に必要なボタンが浮かび上がる近接検知や、画面に触れると振動で反応する触覚フィードバックなど、液晶ディスプレイとしてスマートフォンの画面以上に先進的な仕様になっている。
ATSのプラットフォームはGMの後輪駆動用「アルファ・プラットフォーム」を使用する。ボディを徹底的に軽量に仕上げるため、専用と言ってよい開発が行われたプラットフォームだ。コンパクト・プレミアムクラスで最も軽量に仕上げるため、アルミ材やマグネシウム材、超高張力鋼板が採用され、その一方でボディ剛性は29kNm/度ときわめて高められている。
アルミ材はボンネット、フロント・サブフレーム、フロント・ストラットの鋳造アッパーマウント、前後のバンパービーム、サスペンションリンク類に採用されている。また、電子制御エンジンマウントはマグネシウム製としている。開発目標は2.0Lターボエンジン/6速AT仕様で1580kg以下とされた。軽量なボディは俊敏なハンドリングを達成するためと、燃費を向上させるために必須の開発目標とされたのである。
また同時に前後荷重配分は50:50を実現することも開発目標とされている。このため、例えばリヤ・デフケースは鋳鉄製を採用。これは熱の影響がギヤに及びにくいメリットも持っている。
ボディ組み立てでは溶接スポットの間隙を埋めるために、90mに及ぶ接着結合を採用したほか、溶接スポットはノコギリの歯状に加工することで鋼板のオーバーラップ量を低減し軽量化を図っている。
ATSは室内の騒音を低減するため、フロントガラスに防音フォルム材をラミネートした合わせガラスを採用したり、サイドシルにウレタン発泡材を充填するなどしている。さらにルーフパネルと内張りの間にも防音材を採用。こうしたベース技術に加えて、ボーズ社と共同開発し、騒音と逆位相の音波を発生させるアクティブノイズ・キャンセレーションも装備している。
サスペンションはフロントがダブルピボット式のストラットだ。BMWと同様にダブルピボットにより、仮想キングピン軸をホイールセンターにレイアウトすることでダイレクトで正確な操舵フィーリングと路面からの優れたインフォメーション伝達を実現している。
リヤはGMとしては初の5リンク式マルチリンクを採用している。このマルチリンクは、ロールセンターの変化量を抑制し、高い横方向の剛性とアンチスカット(リヤの沈み込み防止)を両立させることができる。
なおATSのプレミアム・グレードは、ダンパーにマグネティック(磁性流体ダンパー)・ライドコントロールと機械式リヤLSDを装備する。ダンパーコントロールはモード切替スイッチを持ち、ツーリング、またはスポーツを選択するとステアリングギヤ比もよりクイックに変化するシステムになっている。電動パワーステアリングは、ZF社製の電気機械式を採用。優れたレスポンスと中立付近の締まりを両立している。
ブレーキはフロントにブレンボ製4ポットキャリパーを採用し、321mm径のベンチレーテッドディスクと組み合わせている。リヤはシングルピストンキャリパーだ。またブレーキシステムはオート・ドライ機能も備え、雨天時でのブレーキレスポンスを向上させることができる。
ATSに搭載されるエンジンは、3.6LのV6型、2.5Lの直4、2.0L直4+直噴ターボの3種類が設定されているが、日本に導入されるのはメインのダウンサイジング・コンセプトに基づくLTG型2.0L直噴ターボだ。
このエンジンは第3世代のエコテック・エンジンで、オールアルミ製。ボア×ストロークは86.0mm×86.0mm。もちろん吸排気可変カムシャフトコントロール、ローラーロッカーアーム付きDOHC16バルブである。圧縮比は9.2、最高過給圧は1.38barで、最高出力276ps、最大トルク353Nm/1700rpm〜5500rpmという強力でフラットな特性を生み出している。そしてフリクションの低減を狙い、可変容量オイルポンプやアクティブ・サーモスタットも装備する。
エキゾーストマニホールドはステンレス製で、デュアル・スクロール形状、当然ターボもツインスクロール・タイプだ。または排気バイパスバルブは電子制御、排気バルブはナトリウム封入式。本格的な高出力エンジンに仕上げられていることがわかる。なお燃費はNEDC計測で8.2L/100km。
トランスミッションは、6速パドルシフト付きハイドラマチック6L45型ATを搭載する。アダプティブ制御も組み込まれ、Dレンジでもドライバーの運転モードに合わせて変速プログラムは適合できるようになっている。
キャデラックATSは安全システム、ドライバー支援システムも完備している。5個のレーダーと走行レーン監視カメラを組み合わせ、前走車を補足し、追従走行や追突防止、死角から接近する車両の警報(プレミアムのみ)、前後方向のパーキングアシストなどが行われる。またドライバーに警告するためのセーフティアラートシートを採用。前方の障害物警報はシートの左右が振動し、走行レーン逸脱時には逸脱した側のシートが振動してドライバーに警告するようになっている。またプレミアムグレードは、全車速追従型クルーズコントロール、衝突軽減自動ブレーキも装備してる。
キャデラック・カフェが東京にオープン
キャデラックATSの発表の翌日、2012年11月16日からキャデラック・ブランドのインフォメーション・ハブとして、「Cadillac Cafe」がオープンした。都会的なアメリカン・ラグジュアリーの世界を体験できるカフェで、キャデラックの展示や情報発信を行う場所となるカフェだ。
このキャデラック・カフェは東京・港区六本木のけやき坂下にオープンしたラグジュアリー・エンタテインメント・レストラン「ColoR.」とのコラボレーションにより実現し、「ColoR.」内に常設された。ここは、キャデラックのインフォメーション・ハブとして、キャデラックの情報を提供し、キャデラックが常時1台展示される。
カフェのメニューは話題のアメリカン・ホットドッグをはじめ、女性に人気のメニューなど、モダンなフードやドリンクをラグジュアリーなスペースで提供するユニークなカフェだ。
「Cadillac Cafe」の概要
名称:「Cadillac Cafe」
営業時間:午前11時〜午後18時(18時以降はラウンジとして営業)■休日:年中無休
住所:東京都港区六本木5-10-25 EXけやき坂ビルR棟1階(「ColoR.」内)
URL: http://www.cadillac.co.jp/cadillaccafe/