マニアック評価vol52
新型エクスプローラー試乗動画 by 津々見友彦
21年前のデビュー以来、SUVのベストセラーとして人気を集めたのが、フォードのエクスプローラーだ。本国では2010年夏にフルモデルチェンジを受けたが、日本国内へは2011年5月24日から導入が開始された。大変身を遂げた新型エクスプローラーの試乗報告をモータージャーナリストの九島辰也氏がお届けする。
1990年にリリースされた初代エクスプローラーもすでに20年余の歳月を経た。アメリカでは高い人気を得ながらファイアストン問題(左後のタイヤがバーストする事故が相次いだ)などもあり、常に話題の多いクルマというイメージがあり、ハリウッド映画にもよく登場するクルマだ。そういえば、国は違うが韓国ドラマ「冬のソナタ」でヨン様が乗って注目を集めたこともあった。もちろん、韓国と日本だけのブームではあるが…。
↑フォード・ジャパンとしては今回で5代目ということになる
トーラスをベースにして一気に洗練
そのエクスプローラーがフルモデルチェンジを遂げた。しかも今回はこれまでとは違い、まさに大がかりな変更となる。ベースとなったのはパッセンジャーカーのフルサイズセダンであるトーラスだ。つまり、これまでフォード・レンジャー(コンパクト・ピックアップトラック)との共通パーツを多く取り入れてきた骨格とは大きく異なる。よって、エクステリアは全体的に無骨さが陰を潜めた。切り立ったグリルもスラントされ、パッセンジャーカー的となる。
また、フルサイズセダンをさらに3列シートにしたことでサイズアップされた。これまで全長はギリギリ5mに満たないところで進化してきたが、今回はその禁をついに破った。スリーサイズは全長5020×全幅2000×全高1805mm。アメリカではフルサイズのエクスペディションに次ぐミッドサイズSUVというポジションだが、日本の感覚だとフルサイズに値するだろう。ただ、不思議なことに実寸よりも車高だけは落ちたように見える。当然全体的な比率が変わったせいなのだが、デザイン的な視覚効果もそれを助長している。要するに、ここでも無骨さを感じさせなくしているのだ。
↑駆動モードはセレクター手前にあるダイヤルで「ノーマル」「マッド&ラット(轍)」「サンド」そして「スノー」を選ぶことができる
フレームやV8にも別れを告げた
そしてそれは中身も同じ。従来までのラダー式フレームはユニボディ(モノコック)となり、エンジン縦置きのRWDベースから横置きのFWDベースとなった。また、サスペンションも先代からすでに4輪独立懸架ではあったが、新型ではリヤサスをダブルウィッシュボーンからマルチリンクにしている。目的はオンロード走行での快適性や操作性の向上だ。つまり、日常使いにおいてパッセンジャーカー並みにより扱いやすいものにしようとしている。もちろん、その背景には、ここ数年アメリカの地で台頭するヨーロピアンSUVの存在が見え隠れする。モノコックや4輪独立懸架サスを標準と考える彼らと対等に勝負するには、それに見合った武器が必要だからだ。
では、なぜフォードはもっと早くそれを取り入れなかったのか。その理由はトーイング(牽引)にある。アメリカでは日常的にキャンピングカーやボートなどを牽引して出かける習慣がある。その時、フレームの堅牢なラダー式が必要となり、RWDベースが優位性を発揮するのだ。重い物を牽引するとフロントが浮いてしまうからである。が、今回はモノコックでありながら堅牢なボディを手に入れ、かつ電子デバイスでトラクションを制御することでそれをクリアした。データ上のトーイングキャパシティ(牽引能力)は若干落ちるが、ライバルよりは高い性能を持つ。
このほか、新型エクスプローラーのトピックスはエンジンルームにある。なんと従来型4.6LのV8型エンジンがカタログから消え、3.5LのV6型DOHCがメインとなった。これはリンカーンMKXに積まれる309psの3.7Lを294psにディチューンしたものと思われる。要するにマスタングとも兄弟ユニットになる。吸排気それぞれに可変バルブタイミングを持つことで、排気量以上にパワーを生み出すフォードグループ一押しのエンジンだ。
ちなみに、このあと遅れてもうひとつ別のエンジンが追加されることも決まっている。それはなんと2L直4ターボの“エコブースト”と呼ばれるもの。この車体をどれだけ快適に走らすのか興味は募る。
本領発揮はやはり高速クルージング
では、V6型エンジン搭載のモノコックボディを実際に走らせた印象だが、これが思いのほか軽快にワインディングを駆け巡ってくれた。直線からのブレーキング、そしてコーナー出口での加速感になんら不足は感じられない。ただ、カラダの大きさはそれなりなので、多少のコントロールは必要。ロールは比較的抑えられるが、ステアリング操作でしっかり荷重移動しないと揺り返しが起きる。とはいえ、本来そんな走りをするクルマじゃない。ハイウエイを使った高速移動が得意分野。その意味じゃ大きなシートに包まれての走りは快適そのもの。気分はアメリカ横断ロングドライブである。
話は変わるが、これまでエクスプローラーが残してきた功績は大きい。ヨーロッパ各社がこれからSUVを開発するといった時にベンチマークとしたのは、何を隠そうエクスプローラーだったのだ。理由は、90年代に年間40万台以上も売れていたビッグセラーであったから。ライバルより早く大きなエンジンを取り入れ、3列シートを用意したことで人気をさらった。それに当初は廉価版として2ドア版もラインナップしていた。
その意味からすると、近年は少し遅れをとっていたと言わざるを得ない。が、新型で巻き返しの準備は整った。大きなキャビンに小さなエンジン、それと新たにボイスコントロールを中心としたインターフェイスを導入したことで、SUVのカーライフは変わるかもしれない。とにかく、エクスプローラーはSUVの未来を占うのに、目の離せない1台である。
文:九島辰也