2022年6月25日に発売されたフィアット初の電気自動車「500e」に試乗する機会が訪れた。瞼が半分閉じたような目つきの500eは、愛くるしいデザインのEV車として注目を集めている。
全長3,630mm×全幅1,685mm×全高1,530mmという日本の道路環境において扱いやすいボディサイズのAセグメントで、エントリーグレードの「Pop」と上級グレードの「Icon」、そしてIconと同等装備のカブリオレ「Open」の3グレード展開で、試乗はOpenグレードで高速道路を中心に約100kmを走行。電費は7.5km/kWhだった。
バッテリー容量は42kWhでリチウムイオンバッテリーを床下に搭載。WLTCモードで航続距離は335kmというスペック。試乗開始時SOC100%の表示で、航続可能距離は268kmと表示されている。もっとも道路状況によっては回生エネルギーを多く回収できれば航続距離は表示よりも伸びる。反面、回生ブレーキの使える場面が少ない高速走行では距離が短くなることもある。
今回の試乗では返却時SOC63%で航続距離は146kmと表示されていたので、実走行の100kmより多い120kmを走行した計算になる。やはり高速走行が多いと走行可能距離が短くなってしまうわけだ。
それと現状課題になっているのが急速充電用のアダプターがまだ国内にデリバリーされていないことがある。半導体問題もあり、納期は遅れ年明けを予定しているということだ。
また、購入を検討している人が気になるのは、サブスクリプション(リース販売)のみのモデルであることだ。これを残念と思う節もあるが、EV車の下取りを考えた時、現状バッテリーのリサイクル、リユースの環境が十分でないことから、格安になってしまうケースがままある。
そうした場合、リースであれば下取りの不安はなく、リースアップ時に別のモデルへの乗り換えや気に入った場合は買取りということも可能になるので、現状リースという販売方法はユーザーフレンドリーと言える施策だ。
メーカーとすれば常に自社でバッテリーが管理でき、中古車のリースまで展開できればバッテリーのライフサイクルでの回収まで責任を持つことができるわけで、SDGsの「作る責任、使う責任」といった項目にも適合するわけだ。
さて、そうした実用面ではじっくり検討する要素が残っているものの、この500eの見た目や走行性能など所有する喜びはひとしおだ。
試乗したOpenはルーフが大きく開き、オープンエアのEVは希少な存在だ。もちろんフル電動で開閉し、トランクを開けるときは自動でルーフが少し畳まれるプログラムも組み込まれている。ただ、ルーフフレームやピラーなど骨格部分はそのまま残るため、屋根の天板のみが開くスタイルで、これはICE搭載のフィアット500Cと同じだ。
だから外からの見た目はオープンカーというより大きく開放的なサンフルーフにも見えるものの、室内からは完全なオープンエアに感じられる心地よさがあるのだ。
そしてなんといっても500eの特徴はスタイリングにある。可愛らしいフェイスは何者にも似ておらずフィアット500の世界観でデザインされ、瞼を半分閉じたようなヘッドライトデザインは誰をも笑顔にする魅力がある。その下にある丸い灯火はウインカーで、点灯すると頬を染めたようにも見え、どこまでも可愛らしさが追求されているのだ。
インテリアも独創的で、ステアリングはD型デザインで2本スポークだ。そのスポークに先端のACC類やオーディオ、電話などの操作系がまとめられており、クラシカルな印象もありつつ装備は最新という安心感がある。
ダッシュボードには丸みを演出するトリムで柔らかさが表現され、デジタルの冷たい印象を受けない工夫がされている。メーター表示ではいくらでも情報表示可能なデジタルではあるが、バッテリ残量は一眼でわかるイラストを使うなどの工夫が盛り込まれていて好ましい。
また置くだけで充電できるスマホ・トレイにはトリノの街並みがデザインされ、ナビは10.25インチのモニターがインストルメントパネル中央に配置されている。Apple car play、Android Autoの接続も可能だ。
パワートレインは全モデル共通で最高出力87kW(118ps)、最大トルク220Nmの電気モーターを搭載。ドライブモードは3モードあり、ノーマルはこれまでのエンジン車と似たようなフィーリングで運転できるモードで、「RANGE(レンジ)」はワンペダル走行が可能な回生ブレーキが強まる設定。
慣れるとこのモードが使い易く、完全停止までする。そしてもう一つは「SHERPA(シェルパ)」アクセルのレスポンスをやや落とし、シートヒーターのオフなどによりエネルギー消費を抑え、航続距離を伸ばすモード。いわゆるエコモードになっている。
試乗では各モードを試してみたが、高速走行ではシェルパ、ないしノーマルがよく、市街地ではレンジが走りやすい。右足でのコントロールがうまい人であれば、どんなシチュエーションでもレンジがおすすめだ。回生エネルギーを最も多く回収するわけで、反面、前車との車間距離や一定車速運転にはある程度気を配る必要があるからだ。
こうした特徴をもつ500eは日常の生活の足として、非常に魅力的だし怒り顔やいかつい顔をしたクルマが多い中、誰もが笑顔になる顔の500eはユニークな存在と言える。