フェラーリ・ジャパンは2021年10月13日、フェラーリ初のPHEVのミッドシップ2座席スポーツカー、ベルリネッタ「296GTB」を日本で初公開し、10月31日から全国の販売店で順次展示すると発表した。このニューモデルは新たなファンtoドライブを定義する革新的なスポーツカーだ。
モデル概要
「296GTB」は、エンジンの排気量2.9L、6気筒、そしてグランツーリスモ・ベルリネッタの頭文字を組み合わせて「296GTB」という車名が選ばれている。
「296GTB」には新開発されたバンク角120度のV型6気筒エンジン+ターボをミッドシップに搭載している。エンジン単体での出力は663ps、これに加え電気モーターによって122kW(167ps)が上乗せされ、合計830psを発生する。なお跳ね馬のバッジを付けたロードカーに6気筒エンジンが搭載されるのはこれが初めてだ。830psという強大な総合出力を発生することで、常識を破るパフォーマンスと、革新的かつ刺激的でユニークなサウンドを実現している。
「296GTB」のプラグインハイブリッド(PHEV)システムは、抜群の利便性を誇るだけでなく、アクセルレスポンスを極限まで高め、電力のみを使うeDriveモードで25kmの航続距離を実現。また、コンパクトな車両サイズと革新的なダイナミック制御システムの導入、徹底的に磨き抜かれた空力特性により、ドライバーは驚異的な敏捷性と応答性を体感することができる。
なお、究極のパワーとパフォーマンスをサーキットで最大限に活用したい顧客のために、軽量パーツや空力的モディファイを含む「Assetto Fiorano(アセット・フィオラノ )」パッケージも選択することができる。
またインテリアも完全なデジタル コクピットとしているのも注目点だ。エンジンを停止中の、インストゥルメント クラスターは黒一色で、エンジンを始動するとすべてのコンポーネントが徐々に発光し、超モダンで人間工学的に優れたフルデジタルのインターフェースを体感できる。
助手席用にもディスプレイが装備され、助手席でもドライバーと同等のドライビング体験をすることができる。
パワートレーン
フェラーリのF1エンジンには実績があるが、ロードカーとしては初めてシリンダーバンク角が120度のV6ターボエンジンを搭載し、電気モーター(MGU-K)が組み合わされている。この等間隔爆発の新V6エンジンは白紙から設計/開発され、フェラーリで初めてターボをVバンク間に搭載。つまりホット・インサイド/バンク外側吸気のレイアウトを採用している。
この特別なアーキテクチャーにより低いパッケージングや低重心化、エンジン重量の軽減をもたらしたほか、驚異的なレベルのパワーも実現している。このV6ターボは、リッターあたり出力221ps/Lという量産車としての新記録を打ち立てている。
V6ターボエンジンの後方に電気モーターが組み合わされ総合最高出力は830ps、最高回転数は8500rpmに達し、後輪駆動スポーツカーのクラストップに位置することになる。
駆動系は8速DCT、Eデファレンシャルで、クラッチはエンジンとモーターの間に設置され、電気のみを使うeDriveモードではエンジンが切り離される。モーターと組み合わせて7.45kWhの容量を持つ高電圧バッテリーと、モーターを制御するインバーターが搭載されていることは言うまでもない。
なおバッテリーパックはフロア下に配置し冷却システムと構造部材は統合されている。バッテリーパックは直列に接続された80個のセルからなっている。
補機駆動はウォーターポンプ、オイルポンプ アッセンブリーを駆動する1本のタイミングチェーンと、バルブトレインを駆動するオフセット スプロケットおよび各バンク専用のタイミングチェーンを備えている。メインチェーンは専用の油圧式テンショナー、それぞれに油圧式テンショナーを持つ2本のサブチェーンからなり、さらにオイルポンプ アッセンブリー専用のチェーンが組み合わされている。
バルブ駆動メカニズムは、油圧式タペットを備えるローラー式ロッカーアーム式。最新の燃焼技術を生かすため、インジェクターとスパークプラグをセンターに配置し、噴射圧350バールの高圧噴射を採用。
IHI製ターボチャージャーは、より高性能の合金を採用しターボの最高回転数を18万rpmにまで高められ、過給効率は従来のターボより24%向上している。極めて高い出力を実現しながらも、V8エンジンに比べコンプレッサーホイールの直径は5%、タービンホイールの直径は11%縮小。
なおバンク外側はシリンダーヘッド一体式吸気ポート+スロットルボディとなっている。またエギゾーストマニフォールドと触媒ハウジングは高耐熱のインコネル合金製を採用している。
クランクシャフトは窒化処理スチール製で、クランク角を120度とするため、まず鍛造した粗形材にツイスト加工をしたあと、窒素を深く浸透させる熱処理を施して高負荷への耐久性を確保。このクランクシャフトにより新V6の点火順序(1-6-3-4-2-5)が決定されており、バランスは回転質量100%と往復質量25%が釣り合っており、振動を低減し、マウント部の付加を減らしている。
オイルポンプは可変容量式で、エンジンECUがクローズドループ制御を行ない、ソレノイドバルブを使って流量と圧力をコントロールして、エンジンの付加を低減するとともに信頼性を高めている。オイルパンは飛沫拡散によるロスを最小限にするため、6個のスカベンジローターを使用して吸引システムを強化。3個のローターはクランクスロー下のクランクケース専用で、他の1個はバルブ駆動部用、他の2個はシリンダーヘッド用に割り当てられ、いかなる横Gにも耐えられるようになっている。
空気力性能重視のパッケージ
エンジンとトランスミッションはミッドシップ配置で、それらの冷却は、車両前方に搭載する2基のラジエーターが担当。フロントタイヤの前には、高電圧バッテリーの冷却用コンデンサー2基も装備している。
高温の空気はアンダーボディに沿って排出され車体側面上部を流れるため、インタークーラーに取り込まれる冷却エアには干渉することがない。ハイブリッドシステムのラジエーターは排気口が2個あり、スポイラーの両サイドのすぐ下に位置し、この結果フロント中央部の空間はダウンフォース発生に利用できたほか、様々な経路の最適化につながっている。
エンジンベイには、最高900℃を超える温度でも機能する通常のエンジン用コンポーネントと、それより低い温度でしか機能しない電気・電子コンポーネントが存在する。そのため、ターボのレイアウトと排気ラインは電気系に影響しないようにレイアウトされている。
ブレーキの冷却もユニークでエアロ・キャリパーを採用。鋳造キャリパーの内部に通気ダクトが組み込まれており、フロントバンパーのエアインテークからの冷却エアをホイールアーチまで正確に導くため、ヘッドライトのデザインに組み込まれたインテークからフェンダー内のダクトを通ってホイールアーチにつながり、ブレーキに冷却エアを供給するようになっている。
空力効果は、フロント中央部にスペースを作ったため可動エアロメカニズムを設けずに、フロントスプリッターによりフロントアンダーボディでのダウンフォースの発生を可能にしている。さらにフロントフロアの後方にはボルテックスジェネレーターが装備され、ボディ中央部の気流を加速させている。
またリヤ部にはディフューザーの装備の他に、アクティブスポイラーを装備し、高速域では+100kgのダウンフォースを発生させることができる。
運動性能
コンパクトなボディ、軽量なパワートレーン、ショート・ホイールベースなど基本要素の素質の良さに加え、「296GTB」は自動車業界では世界初となる6ウェイ・シャシー・ダイナミック・センサー(6w-CDS:X、Y、Z軸のセンシング)を採用。さらに6w-CDSが収集したデータを活用するABSevoコントローラーや、電動パワーステアリングとグリップ推定機能の統合といった新機能を搭載している。
電気のみで走るeDriveモードでは最高135km/hとし、ハイブリッドモードでは、高いパフォーマンスが求められたときにエンジン+モーターで走行する。また、新たなABSevoの働きと6w-CDSセンサーとの統合によって、ドライ路面での制動距離が大幅に短縮され、ヘビーブレーキングを繰り返しても一定の制動力が保たれるようになっている。
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シャシーでは、これまでのフェラーリのミッドエンジン ベルリネッタよりホイールベースが50mm短縮され俊敏性が向上。その他にブレーキbyワイヤーシステム、電動パワーステアリング、リヤの可動エアロ・デバイス、磁性流体ダンパーのSCM-Frsが組み合わされ、至高の運動性能を実現。
また、車両の軽量化により乾燥重量は1470kgとなり、クラストップの1.77kg/psというパワーウェイトレシオを実現している。
ドライブ・モードは、次のようになる。
・eDrive:エンジンは停止し、純粋に電気のみで後輪を駆動。バッテリーがフル充電の状態で25kmの走行が可能で、最高速度は135 km/h。
・ハイブリッド:始動時のデフォルトモード。パワーフローは効率を最大化するようマネージメントされ、制御ロジックによりエンジンの介入を決定。エンジンを稼働すると、車両の最大のパワーとパフォーマンスが引き出される。
・パフォーマンス:エンジンを常に稼働してバッテリーの効率を維持し、いつでもフルパワーが発揮できる状態。スポーツ・ドライビングに最適な設定。
クォリファイ:バッテリーの再充電を抑えて、最大のパフォーマンスを発揮。
サイド・スリップ・コントロール(SSC)システムは、電動パワーステアリング(EPS)をベースとする第2の運動制御デバイスだ。EPSから情報とSSCが推定する横滑り角と相互参照することで、限界域での走行でも、そうでないときもステアリング操作におけるタイヤのグリップを推定。
これにより、制御システムによる介入がグリップ状況に応じた正確なものとなり、サーキット走行では、グリップ推定時間が従来のヨーレートセンサーによるシステムより35%短縮され、横滑りを許容しながら最速で駆け抜けることが可能になっている。