フェラーリは、2019年5月31日にマラネロで、ブランド初となるプラグインハイブリッド(PHEV)シリーズ最初のモデル、「SF90 ストラドーレ」を発表し、フェラーリの歴史に新たな一歩を刻んだ。
モーターは3個搭載
このニューモデルは、あらゆる面で突出しており、正に電動化によるパラダイムシフトを象徴している。最高出力1000ps、パワーウェイトレシオ 1.57kg/ps、250km/h走行時のダウンフォース390kgという性能は、このセグメントのみならず、ブランド史上初めてV8型エンジンにより頂点を極めたといえる。
SF90 ストラドーレには3990ccの90度V8ターボエンジンを搭載し、フェラーリのV型8気筒史上最高となる出力780psを発生。最大トルクは800Nm/6000pmだ。新採用のセンター配置の350barの高圧直噴インジェクターを備えている。また排気マニホールドは従来のスチールからインコネル合金製に変更されている。
このエンジンに加え、さらに3個の電気モーターによって220psを発生する。1個はF1マシン由来のMGUK(モーター/ジェエレーターユニット:キネティック)で、エンジンと新開発のドライサンプ式8速デュアルクラッチトランスミッションの間に搭載し、リヤ・ホイールを駆動。残る2個はフロント・アクスルに搭載され、左右のホイールを駆動する。ドライバーは4つのパワーユニット・モード(eドライブ、ハイブリッド、パフォーマンス、クォリファイ)から状況に応じて選択することができる。V8エンジン、モーター、バッテリー間のパワーフローは、高度なエネルギー制御ロジックによってコントロールされる。
eドライブモードでは、リチウムイオン・バッテリーに蓄えた電力によりフロントのモーターだけで25km走行できる。またモーターのみで最高135km/hでの走行が可能だ。さらに後退時はエンジンは停止し、モーターのみで行なうようになっている。
SF90 ストラドーレは、フェラーリのスポーツカーとして初めて4WD駆動を採用している。これは、ハイブリッドのパワートレーンが発揮する強力なパワーをフルに活用するために必須なのだ。また、この4WDシステムにより0-100km/h加速2.6秒、0-200km/h加速6.7秒という発進加速の新しいベンチマークが達成できている。
またダイナミック制御のレンジをさらに広げる、フルエレクトリック・フロントアクスル、RAC-e(電子コーナリング・セットアップ・レギュレータ)を導入している。これはフロントは電動走行で駆動力を供給するだけでなく、2個のフロント・モーターが独立してトルクを制御し、トルクベクタリングを実現。ビークルダイナミック・コントロールに完全統合されたこのRAC-e は、トルクの分配を管理し、限界域でのドライビングをより容易にしている。
このプラグインハイブリッドのアーキテクチャーを導入する上での技術課題は、270kgのバッテリー重量対策だった。車両全体の最適化と軽量化を徹底的に追求して解決を図っている。重量、剛性、重心を考慮して最大限の性能を発揮させるために、SF90 ストラドーレのシャシーとボディシェルは、最新のカーボン材とアルミ材による複合材料技術を導入している。この結果、ねじり剛性、曲げ剛性も従来モデルより大幅に向上している。
またエアロダイナミクスも重要な課題であった。特徴的なデバイスとしては、斬新的な可変式シャットオフ・ガーニーフラップ(ウイング形状後端部に突出するフラップ)だ。これは、フェラーリが特許を取得したアクティブ空力システムで、車体後部に装備され、横方向のダイナミック荷重が低い高速走行時でのボディ上面気流を制御し、コーナリング、ブレーキング時にダウンフォースを強化するシステムだ。
キャビン・フォワード・デザインを採用
なおスタイリングに関しても、このニューモデルは画期的で、従来のデザインを踏襲せず。近年のスクーデリア・フェラーリからインスピレーションを得ており、コックピットは従来より小さくなり、さらにドラッグ低減を図るために位置が車体前方に移動されている。しかしキャビンのコンフォート性能は十分に確保されている。
またこのニューモデルからは、インテリアのエルゴノミクス、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)とインテリア・レイアウトは、これまでのモデルとは完全に異なる新しいものとなった。
ヘッドアップ・ディスプレイを装備し、ステアリングホイールはタッチパッドとハプティック(触覚反応)ボタンによりドライバーは親指だけで様々な機能を制御できる。中央のメーターデイスプレイは、完全デジタル化され、ステアリングホイールに設置したコントローラーで全ての設定、操作ができる業界初の16インチ曲面・HD スクリーンを備えている。
SF90 ストラドーレはパーソナライズされた完全キーレス技術によるイグニッション・キーも初採用されている。これは今後の全てのモデルに導入されるもので、センタートンネル上のデザイン性も配慮して設置されている。
このSF90 ストラドーレは、フェラーリとして初めて標準仕様車と、スポーツ仕様車のふたつのバージョンが設定され、好みに応じて選択できる。スポーツ仕様のアセット・フィオラノ・モデルには、GTレーシング由来の大幅なアップグレード要素として、マルチマチック・ダンパー、カーボンファイバー(ドアパネル、アンダーボディ)、チタン(スプリング、エグゾーストライン全体)など、高性能素材を採用した超軽量コンポーネントが含まれており、これによって30kgの軽量化を達成。
さらに250km/hで390kgのダウンフォースを発生する、高ダウンフォース・カーボンファイバー製リヤスポイラーも装備。タイヤはドライ路面のサーキットでの性能向上に向けて、専用に開発された ミシュラン・パイロットスポーツ Cup2タイヤが装備される。標準タイヤに比べて、よりソフトなコンパウンドと浅いグルーブが特長だ。