DSオートモービルのフラッグシップとなるDS9に試乗してきた。DSはシトロエンのサブブランドとして2009年スタートしたニューカマーで、シトロエン、プジョーが量産大衆ブランドであるのに対し、プレミアムブランドとしての位置付けだ。
DSではパリ・ルーブルのガラスの四角錐をモチーフとしたデザインでタイアップをしており、DS9にもその要素がふんだんに使われている。DSブランドはこれまでDS3クロスバック、DS4、DS7クロスバックとラインアップしているが、このDS9が「エクスクルーシブ・サルーン」に位置付けられ、フラッグシップとしてラインアップに加わった。もっとも、本国以外の最大のマーケットは中国に定め、深圳工場で生産しているモデルなのだ。
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しかも単に高級車というだけでなく、フランス文化を伝承する役目も担う位置付けにし、フランス文化を自動車産業に注入するという目的を持っている。具体的には1920年代前後のアールデコ様式のデザインが中心だ。アールデコは、幾何学模様をモチーフとし機能的とか、合理的というイメージのデザインのこと。
DS9にはヘリテージとアバンギャルドという理念をベースしており、前述の「フランス文化」の注入という、そうした目線でDS9を眺めてみるとエクステリアデザイン、インテリアデザインともに個性が溢れており、他の何にも似ていないDS9オリジナルな存在であることが伝わってくる。
個性的なフロントフェイスには、立体的で輝きのあるパラメトリック3Dと言われるグリルがデザインされ、テールランプには菱形にカットされた彫刻的なリフレクターが埋め込まれている。
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ボディサイズは全長4940mm、全幅1850mm、全高1460mmでホイールベースは2895mmと長く、D/Eセグメントサイズになっている。このロングホイールにより、アルーデコの空間の創出という概念が実現し、クーペライクなルーフデザインでありながら広々とした空間が生み出されている。膝下レッグスペースは約277mmと余裕たっぷり。ちなみにプラットフォームはプジョー508などに使われるEMP2を採用している。
「フランスらしさ」に包まれるインテリア
インテリアでは試乗車のOPERAグレードには、なんとも表現の難しい色のレザーシート&インテリアに仕上げられている。広報資料には「アールルビィ」とよばれるムラ染のレザーを張り込んでいるとなっている。これまでクルマのインテリアカラーで、DS以外では見たことのないカラーで、斬新かつ、ハイセンスを感じさせ、フランスらしさが容易にイメージできる。
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リヤシートはロングホイールベースを活かし「DSラウンジ」コンセプトで仕上げられ広々としている。また、装備としてクラス初となるマッサージ機能やシートヒーター、ベンチレーションを備えファーストクラスをイメージさせる豪華装備を持っている。
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フロント周りでは至る場所で菱形をモチーフにしたデザインで仕上げられ、8インチタッチスクリーンの上部にはフランスのラグジュアリーブランドの時計「B.R.M(べナール・リシャール・マニファチュール)」がエンジンスタート同時に起き上がる。
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空調など実際の使い勝手は正直なところあまり良くないが、ファッションはガマンと言われるように、デザインを楽しむには多少の使い勝手は犠牲にしてしまう辺りもフランスのブランド文化なのかもしれない。具体的には機能が分かりにくいとか、操作動作が従来のクルマと異なる、あるいはパワーウインドウなどの操作系のスイッチの場所に迷うなどで、機能的に劣るという意味ではない。
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1.6Lターボでも十分なパワー
搭載するパワートレインは1.6Lのピュアテックターボエンジン(ガソリン)+8速ATとPHEV搭載のE-TENSEがラインアップする。注目はPHEVモデルだが、今回の試乗ではガソリンモデルに試乗した。
225ps/300Nmの出力のピュアテックターボは実績十分なガソリンエンジンであり、直噴、ツインスクロール・ターボ、吸排気可変バルブタイミングなどの先進技術は投入されており、ウエストゲートバルブの電動化やガソリン微粒子フィルターの装備などアップデートも行われている最新の環境エンジンだ。
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D/Eセグメントサイズあるボディ重量にも十分なパワーがあり、また室内の静粛性は特筆ものだ。エンジン音も車内に入り込まず、滑らかな走行をする。PHEVモデルであればさらに滑らから走行が期待できるだろう。
ハンドリングはフランス車らしく高い直進性を感じさせ、長距離の高速移動も楽にドライブできた。またワインディングではフラッグシップサルーンらしく、鷹揚なステアフィールでありながら回頭性をドライバーへフィードバックされるので、早めの操舵もしやすく乗り心地と相まってゆったりとした車格に見合うハンドリングに味付けされていた。
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車両開発においてMBDが主流(欧州車)の現在、数値化されることで性能、機能の担保ができる反面、個性の作り込みがひとつの課題になっている。そうした中でデザインの数値化は協調領域を飛び越え、個性を作り出す技術へと繋がり次世代車においてはデザインがひとつの「魅力品質」へと昇華する可能性が高いと思う。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>
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