マニアック評価vol619
VOL.1ではDSオートモビルのプレミアムブランドDS7クロスバックについて、実車を見て、触れてのアウトラインをお伝えした。今回のvol.2では試乗してみてのレポートをお伝えしよう。
※参考記事:【DSオートモビル「DS7 クロスバック」 vol.1】モダンアートとハイテクが融合した唯一無二のクロスオーバー
爽快なエンジン・フィーリング
搭載するエンジンはガソリンが1.6L直噴ターボ+バルブトロニックのピュアテックTHC225を搭載する。出力は225ps/300Nmと、1.6Lとしては強力で、しかも最大トルクは1900rpmと低回転から発生する。実はこのエンジンはBMWとPSAが共同開発したプリンス・エンジン系列の最新版で、ユーロ6.2にも適合し、PM対策の黒煙粒子フィルター(GPF)も装備している。
フィーリング的には、レスポンスが良く滑らかで、しかも低速から大きなトルクを発生するため、軽くアクセルを踏み込んだだけで気持ちよく加速する。
もうひとつは2.0LのブルーHDi 180ディーゼルだ。尿素噴射によりNOxを低減する最新システムを採用し、出力は177ps/400Nmとガソリンよりさらに強力なトルクを発生する。面白いことに競合するヨーロッパの2.0Lディーゼルエンジンは、各メーカーともに190ps/400Nmという出力、トルクが定番になっているが、このブルーHDiはパワーはやや抑えめだ。
また走行モードのスポーツを選択すると、ガソリン、ディーゼルともに加速時にはスポーツ・サウンドが響くようになっている。ディーゼルの場合はまるでV8エンジンのような重低音でエモーショナルな気分にしてくれる。
しかし、ディーゼルを感じさせない滑らかな回転フィーリングはトップレベルにある。DS7 クロスバックというクルマの性格からいってディーゼルがメイン・エンジンになるが、ガソリンエンジンの気持ちよさも捨てがたいと思う。
いずれもトランスミッションはEAT8、つまりアイシン製の最新8速ATで、ギヤ変速比幅も8.20と広く、低速トルク型のエンジンとよくマッチして素早い、滑らかな変速が行なわれる。変速の煩わしさを感じることはなかった。
なおDS7 クロスバックはディーゼル・モデルで最低地上高185mm、ガソリン・モデルで200mmと十分な高さを持つ一方で、FF駆動のみというのはこれまでのPSAのクロスオーバー・モデルと共通だ。ソーシック・グレードはオプションで路面に合わせて駆動制御を選択できるグリップコントロールが設定されているのみだ。
滑らかで上質な走り
DS7 クロスバックは、「DSコネクテッドパイロット」と呼ぶゴー/ストップでも前車追従ができるアダプティブ・クルーズやレーンキープなど運転支援システムを標準装備している。カメラ、ミリ波レーダーを組み合わせたその機能はトップレベルで、こうした支援システムでは後発のPSAが一挙に最前線に飛び出してきた。特にアダプティブ・クルーズで走行中は、車線内の任意の位置で走行できる点は、車線中央に固定される他社のシステムより優れている。
もうひとつ、サスペンションやエンジン制御は、スポーツ、ノーマル、コンフォート、エコと4モードに切り替えができ、エコではエンジントルクを抑制し、アクセルオフ時にコースティングを行ない、スポーツではエンジンサウンドの演出とダンパーの減衰力がアップ、そしてコンフォートモードの場合は、ステレオカメラで前方の路面をスキャンし、凹凸のある場合はフィードフォワード制御でダンパーの減衰力を調整する機能を標準装備する。
しかし面白いことに、このDS7 クロスバックの試乗後に乗り心地がドタバタするという人と、乗り心地がふわふわだと評する人に2分されていた。しかし、そもそも試乗したグランシックは20インチ・サイズのタイヤを履いており、これを全く意識させない乗り心地になっている点はすごいことなのだ。
スポーツ・モードでは当然締まった乗り心地になり、コンフォートではソフト傾向になるが、決してふわふわではない。コンフォートでは、路面の凹凸がよりなめらかに、いなされるのが体感できる。またどのモードでも、完全にフラット感の強い乗り心地を目指しているのではなく、少しピッチングを許容し、それに合わせでドライバーがコントロールするという点はDSが目指す走りのイメージだ。
走行中のシャシーの剛性感の高さ、リニアなステアリングの効き、さらに高速道路でも静粛で重厚感のある乗り心地などを総合すると、プレミアムクラスの上質な走り味といえると思う。
DS7 クロスバックは、ハードウェアがしっかりしていること、最新のハイテクを積極的に搭載する一方で、フランス製らしいデザイン・センスが徹底され、しかもキラキラではなくエレガントにまとめられ、上質で居心地の良いインテリアと合わせ、他のプレミアムカーにはない独自の世界観を作り上げている。
この世界観に共感できる人にとってはコスト・バリューが優れていると感じる。またDSオートモビルは、今後は毎年ニューモデルを投入する計画というだから、それも楽しみだ。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>