DSオートモービルのDS3クロスバックに、100%電気で動くEVモデルがラインアップに追加され、試乗することができたのでお伝えしよう。
フレンチラグジュアリー
DSブランドはPSAグループが展開するラグジュアリーブランドで、シトロエンからの派生モデルとしてデビューしている。その後2014年に完全な独立したモデルとしてCセグメントのSUV「DS7クロスバック」がデビューし、そしてBセグメントのSUV「DS3クロスバック」との2モデルで展開している。
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PSAグループにはプジョーやシトロエンといった歴史あるブランドがあるが、DSはフレンチラグジュアリーのノウハウを自動車産業に注入することを使命として誕生したブランドなのだ。フランス文化をクルマにも!という狙いがあるブランドだから、ハードというよりデザインや素材、といった感性に触れるブランドということになるだろう。
具体的には1920年代のアールデコの建築デザインで、ラグジュアリーな空間を作り出す技術、そしてオートクチュールという1点ものの服やドレスを生み出すセンスと技術、ジュエリー時計を作り出すクラフトマンシップなど、そうしたフランスの文化そのものを取り入れたクルマがDSというブランドなわけだ。
磨きをかけるEV
そのフレンチラグジュアリーをBセグメントSUVに落とし込んだモデルがDS3クロスバックなのだが、そのラインアップに100%EVモデルが追加された。
モーター走行の特徴を振り返ると、シームレスに加速すること、変速ショックのない滑らかな加速、立ち上がりから最大トルクが発揮されること、静かである、といった項目が出てくると思う。そうした特徴をコンパクトラグジュアリーを謳うDS3クロスバックのパワートレーンとして採用すると、「ラグジュアリー」に磨きがかったように感じられるわけだ。
クルマに求められるラグジュアリーは、静かで滑らかなことが筆頭項目だろうが、モーターを使うことで、実現できる。高級車の重要な要素である静粛性と滑るように走るフィーリングはコンパクトSUVであっても実現できるというわけだ。
野暮な解説
そうした感性に訴えるモデルに対して野暮な話となるが、プラットフォームはeCMPでICE搭載モデルと共通でH型に床下にバッテリーを積んでいる。搭載するモーターは100kW(136ps)/260Nmで、車両重量は1580㎏。50kWhのリチウムイオンバッテリーは航続距離JC08モードで398km、高速モードを含むWLTCで320kmの航続距離を確保している。欧州のコンパクトセグメントの1日の走行距離平均は40kmであり、週に1回の充電で賄えるのだ。
充電時間は200V/3kWの家庭充電で18時間。 50kWだと3時間というデータがあり、CHAdeMO規格の50kWだと80%まで50分で充電可能だ。またバッテリーの保証として8年間16万km走行が保証されている
ボディサイズは全長4120mm☓全幅1790mm☓全高1550mm、ホイールベース2560mmであり、立体駐車場に入るSUVサイズになっているのだ。そして最低地上高が185mmあり、SUVとしてのアクティブな顔も見せている。
価格は2つのバリエーションがあり、So Chic(ソーシック)とGrand Chic(グランシック)で499万円〜534万円。試算では3年3万km乗ればガソリン車との差が埋められるとグループPSAジャパンでは説明している。もちろん、走行距離によって個人差があるので必ずしも3年ということではないが。
このグレード違いはまさに、フレンチラグジュアリーの極みとでも言うのか、見た目の質感や触感、素材といったものの違いによるもので個人の感性で選べるようになっている。
内外装インプレッション
そこまでハイセンスなクルマとなると、ドアを開け乗り込むという動きより、身に纏うという表現のほうが正しいのだろうが、フランス人にはなりきれないので、普通に乗り込んだ。試乗車はグランシック グレードで、ボディカラーはE-TENSE専用色となるクリスタルパール。
この色がまだ絶妙で、メタリックホワイトを基調に、ハイライト部にほのかにシャンパンゴールドが覗くカラー。インテリアは真っ白だ。ステアリングまで白い。RIVOLIインスピレーションはフランスの高級ブランドストリート名「RIVOLI」がインテリアのイメージネームになっている。
センターコンソールやダッシュボードまわりはICEモデルと同じで、ジュエリーをイメージさせるデザインやBセグメントでありながらレザーをふんだんに使ったインテリアは高級ブランドであることを容易に感じさせてくれる。使い勝手が悪い面もあるが、それも野暮だ。
ちなみに、シートはサイドにナッパレザーを使い、中央はホワイトファブリックを使ったRIVOLIがグランシックの標準装備だが、オプションでフルレザーシートを選択することも可能だ。こちらのレザーシートは1枚革を使った縫製で仕上げてある。通常は切ったレザー同士を接着し縫い合わせるという手法でシート座面を作るが、このレザーシートは全く切らずにステッチ部を織り込むようにして1枚革で仕上げてあるという。もちろん、座り心地を良くするための技術とセンスというわけだ。
エクステリアでは、細部でICEモデルと異なりE-TENSEだけの専用デザインがいくつもある。が、そこは控えめとしているあたりがエレガントでもある。例えば、クローム部はより繊細にサテンクローム仕上げにている。ボンネット先端のエンブレム、リヤエンブレム、フロントグリルもフランスの伝統色アンスラサイト(炭色)で控えめな違いを作っている。
またICEとは共通だがドアハンドルに目が行くと思う。ドアパネルとツライチになるフラッシュサーフェスも新鮮。キーを持ってクルマから離れると、自動でドアロックされ、ドアハンドルも格納される。そしてドアミラーもたたまれる。クルマに近づくとドアハンドルがせり上がり、ドアロックも解除され、おもてなし気分も味わえる。
走行インプレッション
ドライブモードが3つある。スポーツ、ノーマル、エコでこれはモーター出力を制限していた。スポーツは100kW、ノーマルが80kW、エコ60kWで、市街地でも高速でもエコで十分力強い走りができる。これはやはりモーターの特性で瞬時にトルクが立ち上がるため、最大値を必要とするシーンは日常の走行では遭遇しないというわけだ。
またこうしたエネルギーマネージメントはフォーミュラEでのノウハウも生かされているという。100%電気で走るフォーミュラEはシーズン5、6の2年連続シリーズチャンピオンを獲得している。もちろんライバルはドイツ勢で、ポルシェ、メルセデス、アウディ、BMWを抑えてのチャンピオンなのだ。
減速シーンではセレクターが「D」のポジションでは、エンジン車の3速、4速と似たような減速感がある。もちろん回生エネルギーを蓄えているが、シフトレバーを手前に引くと「B」モードになる。Bの減速Gはさらに立ち上がり、停止寸前まで減速するのでほぼフットブレーキを使わずに減速し、完全停止直前で摩擦ブレーキを使うといったことが可能だ。ちないにパドルシフトは装備していない。
今回はあまり細かくテストできなかったがADASもレベル2相当が装備され、渋滞時の停車から3秒以内は自動で再発進したり、車線内維持では車線中央維持でなく、車線内任意の場所で維持されるので、大型トレーラーなどが多く走る場所など、少し左に寄っておきたいといった場面で有効だ。
こうしたゴージャスなEV車を試乗すると、エンジンから発する音がノイズとなって聞こえてくるから不思議だ。将来的にはそうした感性の変化も起こり、普通のエンジンには終焉が訪れるのかもしれないと感じる試乗だった。<高橋明/Akira Takahashi>