2012年11月15日、フィアット・クライスラージャパンはクライスラー・ブランドとして4年半ぶりとなるニューモデル「クライスラー300」、「クライスラー・イプシロン」の2モデルを発表し、12月15日から発売を開始する。
新型車発表会で、ポンタス・ヘグストロムCEOは2012年の販売実績で、フィアット・クライスラーグループのブランドの中でアルファロメオが前年比で133%アップ、ジープが59%アップと大幅な伸びを示し、特にアルファロメオは全乗用車の中ででナンバーワンの成長率だったこと、外国メーカー輸入車の販売台数ベスト10の中に同グループの3ブランドがランクインしたことを発表した。
2012年の同グループは合計1万5000台の販売見通しとしている。したがって今回、新たにクライスラー・ブランドを導入することで2013年はさらなる飛躍が期待され、ヘグストロムCEOは「フィアット・クライスラー・ジャパンの新しいチャプターのスタート」だと語っている。
クライスラーの導入にあたり、2013年から全国の販売店を、従来の「クライスラー・ジープ」から、「クライスラー」、「ジープ」というブランド別の呼称に変更し、2ブランド併売の店舗とする。これは今後さらにクライスラーの車種ラインアップを充実させる布石と考えられる。そして販売店ネットワークはさらに拡充させるとしている。またフィアット・クライスラー・グループのグローバル戦略で「ダッジ」ブランドはアメリカ専用のブランドと位置付けられ、日本での今後は、クライスラー・ブランドのみに絞ることにしている。
発表会では、クライスラーのデザイン統括を行うブランドン・ファウロート氏が登場し、クライスラー・ブランドの特徴、個性、デザインコンセプトを説明した。
「クライスラー300」「クライスラー・イプシロン」のデザイン的なプレゼンテーションを行い、続いてマーケティング本部長のティツアナ・アランプレセ氏がクライスラー・ブランドのマーケティング戦略、クライスラー・ブランドのスピリッツ、「Stay Driven(突き進め、どこまでも)」の紹介、同グループのCRS活動(重い病気を患っている子供たちとその家族をケアするNPO法人をサポート)などのプレゼンテーションを行った。
さらにサプライズ・ゲストとして、クライスラー・ブランドのアンバサダー役に就任した俳優の浅野忠信氏が登場した。
■クライスラー300
クライスラー300はクライスラーのフラッグシップモデルで、歴史的には1955年のC-300や現在の300シリーズの原型となっている。C-300は5.4LのV8型を搭載したフルサイズ・クーペで、その後はさらにパワーアップし340psのへミヘッドV8型、テールフィンを備えた300B、さらに1960年モデルの300Fでは6.8LのV8型エンジンを搭載したスーパーモデルへと発展し、圧倒的な動力性能で好評を得た。
この大排気量V8型による高出力エンジンを搭載した300シリーズは1970年までモデルが継続されていた。また、アルファベットの付かない300(セダン)も大排気量V8型エンジンを搭載し、1962年から71年まで販売されクライスラーのメイン車種となっていた。
現在の300は、伝統ある「300」の名称を受け継ぎ2005年に新生300としてデビュー。往年の傑作シリーズの名称を冠したフルサイズのFRセダンとして復活した。プラットフォームはダイムラーとクライスラーの提携成果として、メルセデスEクラスと大部分が共通となるLXプラットフォームを採用している。そしてデザインチェンジした2代目は2011年に登場し、今回発表された300は2013年イヤーモデルという位置付けになる。ちなみに、クライスラーはフィアット・グループと合体したため、現在のモデルはヨーロッパでは「ランチア・テーマ」の名称で販売されている。
エンジンのラインアップは3.6LのV6型から6.4 LのV8型まであるが、日本に導入されるのは3.6L・V6型エンジン仕様となる。グレードは、「300 リミテッド」、「300C ラグジュアリー」の2機種だ。
フラッグシップにふさわしい高級素材を採用したクライスラー300 は、一目でわかるアメリカンスタイルとクライスラーのDNAを表現したエクステリア・デザインを採用している。
デザインテーマは、タイムレス、現代にふさわしい洗練、シンププルでありながらエレガント、路上でも一目でわかる存在感を盛り込むことだ。そのため、シンプルなラインや面の表現を多用した正統派の6ライトキャビンを備える。ベルトラインは従来より低められ、ピラーを細くしたことで、視界を15%向上。また空力性能も高められ、燃費を向上させている。ボディ品質では、ルーフパネルとルーフレール部の接合にレーザー溶接を採用し、継ぎ目のないルーフを実現。印象的なフロントグリルはサテンクローム仕上げを採用し、シックな味わいを放つ。
インテリアは、広々感、ラグジュアリーさと、クラフトマンシップを感じさせる上質な仕上げ、先進的な機能性を盛り込んでいる。メーターパネルなどの照明はサファイアブルーのLED照明を採用。シート表皮はリミテッド・グレードではプレミアムファブリック、ラグジュアリー・グレードは100%ナッパレザーシート、ドアトリムに採用。その他のトリムにはポルトローナ・フラウ製の「フォリーニョ」レザーを採用し高い質感を実現している。
またラグジュアリー・グレードは、デュアルパノラミック電動サンルーフを標準装備し、開口部はルーフパネル面の70%以上におよぶ。この電動サンルーフにはチルトアップ機能と、クイックオープン機能を備えており、内側のサンシェードはルーフライニングと同等のカラーと素材を採用している。カラーディスプレイは8.4インチサイズのタッチスクリーン式で、車両情報やナビ、通信機能、マルチメディア機能に対応している。
搭載されるエンジンは3.6LペンタスターV6型エンジンだ。このV6型はバンク角60度の高圧鋳造によるオールアルミ製だ。動弁システムはフリクションを減らすためにローラーフィンガーフォロワーと油圧式ラッシュアジャスターを組み込んだDOHCで、もちろん吸排気カムともに可変バルブタイミング機構を装備する。燃料噴射はポート式。
この軽量な省燃費特性を備えたエンジンは、JC08モードで9.2km/Lを達成している。最高出力は286ps/6350 rpm、最大トルク340Nm/4650 rpmを発生する。新開発の8速ATとの組み合わせで0-100km/h加速は7.0秒をマークする。
トランスミッションはZF社製の8速ATを採用。新開発のシフトバイワイヤー「Eシフト」も装備し、ドライバーの運転モードに変速を最適化させるアダプティブ制御も備えている。8速ATとの組み合わせにより、ワールドクラスの走りと燃費を両立させているといえる。なおアメリカ車でこの8速ATを搭載するのはクライスラー300のみだ。
この8速ATの採用により、クイックでショックのない変速を実現し、快適、スポーティな走りを楽しむことができる。なお従来のクライスラー300の5速ATと比較し、ZF8速ATはわずかにプラス3kgに収まっている。また、ワイドな変速比幅とクロスレシオを両立させた8速ATの採用に合わせ、最終減速比は2.647と高いギヤ比となっている。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤはマルチリンク式で、液体封入ブッシュの採用や、改良型ダンパーの採用、スプリングばね定数の見直し、再設計した前後のサスペンションジオメトリーの組み合わせにより、ハンドリングと乗り心地をより高いレベルに仕上げている。
また基本要素として、クライスラー300の前後荷重は分は50.9:49.1とほとんど50:50に等しくすることで運動性能の資質を高めているのだ。
新型クライスラー300は、多くのボディ構造での改良を行い、高張力鋼板を導入することで非常に頑丈なプラットフォームを形成している。プラットフォーム側の約67%、アッパーボディの約53%に高張力鋼板と超高張力鋼板を導入。さらに超々高張力鋼板もAピラー、Bピラー、ボディパネル補強メンバーに採用している。
また静粛性を高めるために、2重合わせガラス式アコースティック・フロントガラスとフロントドアガラス、ボディ各部に施した吸音材、フェンダーアーチ内のファイバー製吸音材、アンダーボディ全面に備え、ロードノイズを大幅に軽減するアコースティックアンダーボディクローズアウトを装備している。このため高速域でもきわめて静粛なキャビンとなっている。
米国道路安全保険協会の安全テストでも最高評価を獲得しており、パッシブセーフティはもちろん、ドライバー支援システムもラグジュアリー・グレードは前面衝突警報や、ターンシグナル内蔵の電動格納式マルチファンクションドアミラー、アダプティブクルーズコントロールなどで構成される、セーフティーテックグループと呼ぶ安全装備品を標準で装備している。
新型クライスラー300は、価格的にも装備や性能でもトヨタ・クラウンや日産フーガなどと競争力を備えており、発売後は他銘柄からの乗り換えを積極的に促す戦略を立てている。ハンドル位置はアメリカ車としては異例の右ハンドルのみの設定だ。
<クライスラー300 価格>
クライスラー300 リミテッド 398万円
クライスラー300C ラグジャリー 538万円
■クライスラー・イプシロン
クライスラーの新たな挑戦として、圧倒的なデザインパワーを備えたプレミアムコンパクト5ドアハッチバック「イプシロン」を新発売した。このイプシロンは、もともとは高級車ブランドのランチア製のプレミアム・コンパクトカーなのだが、フィアット・グループとクライスラーが提携した結果、クライスラー・ブランドでも販売が開始され、日本にも導入できるようになったのだ。なおクライスラー・イプシロンは、ランチア製とフロントグリルのデザインが異なっているのが特徴だ。
イプシロンの最大のアピールポイントは、圧倒的とも言える個性的で美しいデザインだろう。イプシロンのデザインの核心は、プレミアムカーというコンセプトへの独創的なアプローチといえる。
「エレガンス」という言葉の意味を、独創、品格、テクノロジー、スタイルを愛する人たち、クオリティとイノベーションを大切にする人たちを魅了するものと再定義し、それを実現したことにあるとしている。
所有することの喜び、ユニークでありたい、他人の判断に左右されることなく自分の真の個性を表現したい、といったユーザー層に向けた製品なのだ。イプシロンのグレードは、「ゴールド」と「プラチナ」の2機種を設定。
イプシロンは、このようなイタリア・デザインの価値観と、性能と燃費を高い次元で両立させ、最新のツインエア・エンジンに象徴されるハイテクを備えたファッショナブルなシティカーである。
洗練された斬新な5ドア・ハッチバックモデルのイプシロンはB セグメントに属し、ボディサイズは全長3835mm、全幅1675mm、全高1520mm、ホイールベース2390mm とBセグメントに中でも幅は狭いが、5人乗りの室内の広さと快適さは十分考慮されている。インテリアは高品質で、デザイン的に洗練された素材とカラーの組み合わせ、ディテールへのこだわりといった部分はランチア製であることを改めて実感できる。
エンジンは最高出力85psの2気筒・0.9Lのツインエア・エンジンで インタークーラー付きターボを装備した最新のダウンサイジング・コンセプトのエンジンだ。最大トルクは145Nm/1900rpmで、低速トルクが強力なため扱いやすい性格を備えている。なおスイッチでECOモードを選択すると最高出力は77ps、最大トルクは100Nmにに抑えられる。また同時にトランスミッションの変速制御も燃費重視の設定に切り替わる。スタート&ストップシステムも装備する。
ツインエアは、連続可変吸気バルブリフト機構を持つスロットルレス・エンジンで、フィアットグループの最新技術を投入し、ダウンサイジングにより燃費と走りを両立させ、エンジン・オブザイヤーも獲得している最新の2気筒エンジンだ。
トランスミッションは、デュアルファンクションシステムと呼ばれるATモード付き5速シーケンシャル式、すなわち軽量な自動シングルクラッチ、2ペダルのAMTだ。変速はシーケンシャル・マニュアル操作と、「オート」を選択できる。
サスペンションはフロントが入力分離式のストラット式で、軽量なモノコック式ロアアームとの組み合わせ。リヤサスペンションはトーションビーム式を採用している。
シャシーの安全システムとしエンジンブレーキ自動制御もできるESP、トラクションコントロール、ヒルスタートアシスト、ブレーキアシストなどをフル装備している。
<クライスラー・イプシロン価格>
イプシロン ゴールド 235万円(右ハンドル)
イプシロン プラチナ 260万円(右ハンドル)