BMWはラグジュアリーセダンの最高峰として、大幅に刷新された新型7シリーズを、2019年6月にリリースした。その数年前の2015年にドライビング・ラグジュアリーとして6世代目の7シリーズが発売されているが今回のマイナーチェンジで大きく変更されている。そこで、どこが、何が変わったのかを深掘りしてみた。
プレステージ性を大幅に強化
BMWはどのモデルにおいてもオーナードライバーが楽しめることを重視している。そうしたポイントが他のプレミアムクラスのモデルとの差かもしれない。一般に大型のセダンになればなるほど居住性、乗り心地、装備などに注力し、ダイナミック性能の味付けもおとなしい設定になっていくものだ。
しかし、BMWは最高峰のセダンであってもドライバーの「駆けぬける歓び」を基本としていることには変わりはない。その他車には無いスポーティーな走りが評価される一方で、市場からはラグジュアリー・セダンに求められる豪華さや、見た目のプレステージ性への物足りなさは指摘されていたという。
6月のマイナーチェンジではその顧客要望に対応すべく、走りを損なわずに最高峰のラグジュアリー・セダンにふさわしい、そしてショーファーな使い方も視野に入れた仕様に変更したというのがポイントだ。つまり、ドライビングを愛する人だけでなく、プレステージ性を知る人にも響くモデルへと変わったと言ってもいいだろう。
カーボンテクノロジー
オーナードライバーだけでなく、同乗する家族、友人、さらには取引先の人たちへ最上級の空間、乗り心地を提供するために独自の先進テクノロジーがあるというのもBMWらしいものづくりだ。
その中でフォーカスしたポイントはカーボンテクノロジーだ。使用するプラットフォームはBMWのFR用「CLAR」ではあるが、7シリーズではキャビン全体とセンタートンネルを強固なカーボン素材で成形している。そのため快適な室内を実現する長いホイールベースであってもボディの剛性は確保され、サスペンションがその性能を最大限に発揮しやすいバランスに仕上げているのだ。
こうしたカーボンコアテクノロジーはBMWには、「i」シリーズがあり、すでにカーボンボディを使ったノウハウの多くが蓄積されていることも背景にある。製造はミュンヘン郊外にある最新鋭の設備を誇るラグジュラリー・クラス専用のディンゴルフィング工場で生産されている。
こうした技術をベースにした新型7シリーズは、世界最高峰のプレステージ・ラグジュアリーカーであると自負しているのだ。
改良ポイントはこれだ
市場からの評価では、これまでは街中での存在感、質感を高めて欲しいという声があったという。そのためスタイリングに大幅な投資をしたというのがポイントになる。通常マイナーチェンジでは外板パネル、鋼板類の変更はなく、バンパー形状やダクトなど樹脂で加工しやすいものの変更で印象を変えていく手法を取るが、この7シリーズのマイナーチェンジでは、ボンネット、フェンダーパネルを変更しているのだ。
ひと目見ての違いはキドニーグリルの大きさだ。BMWの最新モデルの流れに従い約40%大型化している。そのため市中での存在感や押し出し感が強められた。また、フロンフェンダーのタイヤハウス後端からのシルバー加飾のラインなど、走りをイメージさせつつプレステージ感が強まるエクステリアに変更した。
インテリアも同様に、プレステージ感を増すために装飾、装備を充実させ、センターコンソール表皮のキルディングステッチで全体的な風合いを高めている。後席にはリクライニングやマッサージ機能、オットマン、足元の広さなどの快適性を備える変更を行なった。
駆けぬける歓び
「さすがBMWだ」と唸らせるダイナミック性能がある。「インテグラルアクティブステアリング」という機能で、いわゆる4輪操舵=4WSのことだ。これまで市販されている4WSはどれもドライビングパフォーマンスの向上がポイントになる。これはステアリングを握るドライバーには快適であることは間違いないが、同乗者や後席ではどう感じるのだろうか。
実は、ステアと同時にリヤが操舵されると発生する横Gが小さい。人はステアされた時に「これくらいの横Gがあるだろうな」というのを無意識にイメージするという。そのため後席に乗っている状態で、4WSが働くと横Gの急激な変化を感じないで曲がるため、違和感として伝わってくる。
そこでBMW7シリーズでは、その4WSの稼働タイミングを微妙に変え、後席の人が横Gをイメージし、体感した直後から稼働するように変更している。そうすることで「横Gが小さく乗り心地が素晴らしい」と感じるのだという。
こうした味付けは官能評価ではあるが、とことん走りにこだわるBMWだからこその制御と言えるだろう。ドライバーのステア応答、正確性にプラスして後席の乗り心地を考慮した制御としているのが、7シリーズの最大の特徴と言えるだろう。
ちなみに、ステア操舵したインプレッションだが、大柄なボディを感じさせないほど正確に応答し、操舵初期はヨーとロールをわずかに感じさせる。さらに切り込むと通常ロールモーメントは大きくなるが、7シリーズでは変化が小さい。そしてタイトコーナーなど大きく切り込む場面では、クルッと回頭する動きをし、ひとまわり、いやふた回り小さいクルマのような取り回しの良さを感じることをお伝えしておこう。
注目のプラグインハイブリッド
トピックはPHEV(プラグインハイブリッド)に直列6気筒エンジンを搭載したことだろう。以前のPHEVは4気筒エンジンだったため、7シリーズにより相応しいスペックに変更したことになる。BMWの6気筒は「シルキーシックス」の別名があるように、絹のようになめらかに回るエンジンだ。静粛性と滑らかさを兼ね備えた7シリーズのプラグインハイブリッドが導入されたということだ。
ここではその滑らかさの他に訴求したいポイントとして、エンジン(ICE)とモーターというトルク特性の異なるパワートレーンを緻密に制御してドライバーの意図通りに、かつ効率的に走らせていることをお伝えしたい。
組み合わされるトランスミッションはZF製の8速ATでトランスミッション内に組み込まれたモーターはエンジンとモーターの間にクラッチが設けられ、モーター走行が可能だ。140km/hの車速までEV走行が可能で、満充電から約50kmのEV走行も可能になっている。
さらに魅力的なパワートレーンには12気筒エンジン搭載モデルがラインアップしていることだ。M760Liに搭載されるV型12気筒は、現在のエミッション規制を考えると市販できる12気筒エンジンが市場から消えつつある。そうした中最新のエミッション規制をクリアしながら強烈なパワーと滑らかさを体感できるのは、幸せなことだと思う。
こうしたエンジンの開発を続けられる背景には、グループにロールス・ロイスがあるということが大きい。いろんな車種展開を可能にしたこともBMWグループだからこその恩恵だろう。
7シリーズでも駆けぬける歓び
最後はIPAだ。インテリジェント・パーソナル・アシスタント、つまりAIの搭載だ。「OK BMW」の発話型ナビゲーションシステムは、音声案内だけでなくクライメイトコントロールや、オーディオの選択、ボリュームコントロールなど、学習機能を持ちながらのAIなので、使い込むほど賢くなってくる。また、BMWのこのパーソナルアシスタンスは呼び出し名を自分の好きな名称に変更することが可能になっている。
そして60km/h以下であればハンズオフができる高度運転支援機能も搭載している。主に高速道路の渋滞時にハンズオフが可能で、運転負荷が軽減される。とはいえ、セカンドタスクをやってもいい訳ではなく、あくまでも運転支援なので、ドライバーが運転をすることが前提条件の運転負荷軽減機能だということは理解しておく必要がある。
ビッグマイナーチェンジを果たした新型7シリーズは、BMWらしい駆けぬける歓びを大型セダンでも抜かりなく仕上げている。そして、見た目の存在感、触っての質感などプレステージクラスを知る人にこそ、このモデルの価値を深く理解できるレベルに仕上がっている。ショーファーでもオーナーでも、すべの乗員が高い満足度が得られるBMWらしい最高の一台だ。