BMWのフラッグシップ、7シリーズは2006年に水素とガソリンを両用できるハイドロジェン7を100台製造するなど、次世代に向けての技術的な挑戦を具現化する役割を果たしている。そして新型7シリーズ(F01/F02)が2009年に登場し、そのラインアップには、新たにアクティブハイブリッド7が加えられた。すなわちBMWとしては初のハイブリッドカーが7シリーズをベースに開発されたのだ。
アクティブハイブリッド7は、ヨーロッパでは2009年秋から販売され、日本には約1年遅れで2010年夏から導入されている。つまりBMWで同じアクティブハイブリッドを名乗るX6ハイブリッドよりひと足先にデビューしており、メルセデス・ベンツ・ハイブリッド(S400ハイブリッド)よりわずかながら遅れての発売となった。
ボディサイズは、メルセデスSハイブリッド、BMWハイブリッド7ともに標準タイプとロングホイールベース・タイプをラインアップしており、ロングボディは主としてVIP用とされている。
ハイブリッドのユニットはメルセデス・ベンツと共同開発
ハイブリッド7のハイブリッドシステムは、メルセデスとBMWで共同開発したもので、基本システムは共通である。そのシステムはパラレル式であり、エンジンとモーターは直結されており、モーターのみでの走行は行わず、モーターがエンジンをアシストする方式である。
メルセデスのハイブリッドはSクラスがベースで、搭載エンジンは最も排気量の小さい3.5LのV6型272psで、ハイブリッド用のチューニングとして、吸気バルブの遅閉じとするなどの変更がされている。組み合わされるミッションは7速ATだが、BMWのハイブリッド7は最新の4.4LのV8型直噴ツインターボ449psに、これまた最新の8速ATとの組み合わせを選んでいる。エンジンの選択がBMWとメルセデスではまったく違うというのも興味深い。
日本の10・15モード燃費は、メルセデスSハイブリッドが11.2km/L、BMWハイブリッド7は9.3km/Lとなる。CO2排出量はメルセデスSハイブリッドが186g/km、BMWハイブリッド7は219g/kmで、これはレクサスLS600h(ハイブリッド)と同等である。もちろん動力性能はハイブリッド7とLS600hでは大きな差があるのはいうもでもない。
その動力性能ではBMWハイブリッド7がライバルより圧倒的に優れており、V12エンジンに匹敵する性能である。0→100km/h加速の4.9秒はそれを物語っている。つまりBMWはアクティブハイブリッドと名称を冠しているように、最上級ラグジュアリークラスにふさわしく、燃費性能には特化せず、圧倒的な動力性能と燃費向上というバランスを取りながら実現するというコンセプトを明確に主張している。
ハイブリッド7が搭載するV8型エンジンは、最新コンセプトの高出力/ダウンサイジングを取り入れたエンジンで、吸排気がVバンクの外側吸気、内側排気という通常とは逆のレイアウトを採用している。そしてVバンクの谷間にツインターボと触媒を収納している。このため排気ポートとターボを接続するエキゾーストマニホールドが最短になり、ターボレスポンスを最大限に高めることができるのだ。
また、各気筒の点火プラグのすぐ近くにはピエゾ式直噴インジェクターをレイアウトし、噴射圧は200気圧ときわめて高い。もちろんエンジンは低速重視型にチューニングされており、2000rpm〜4500rpmで650Nmという最大トルクを発生する。
このエンジンと8速ATの間にはモーターがサンドイッチされている。このモーターはきわめて薄型・コンパクトで重量は23kg。このようなモーター配置のため、エンジン→モーター→トルコン→ATギヤという駆動伝達経路となるが、外見上は薄型モーターとATユニットは一体化されている。
モーターの定格出力は20ps、最大トルク210Nmである。また充電モード時は27psを発生する。そして、エンジン出力とモーター出力を合わせたパワーユニットの総合出力は465ps、最大トルクは700Nmに達する。
ミッションはZF製8速ATでアイドルストップ付き
搭載されるハイブリッド用の電池はリチウムイオン式を採用。また、通常の12V用電池も搭載している。リチウムイオン電池は120V、400Whの容量で35個のセルからなり、サイズは従来の12V電池とほぼ同等といえるほどコンパクトにまとめられ、重量はわずか27kgしかない。大型のニッケル水素電池を搭載するレクサスLS600hと大きく異なるのがこの電池といえる。ちなみにメルセデスSハイブリッドのリチウムイオン電池パックはエンジンルームにレイアウトしているが、ハイブリッド7ではリヤアクスル上に置いている。なお、モーター、リチウムイオン電池、パワーコントロールユニットという、ハイブリッドシステムのコア部分はメルセデスと共通のパーツで、リチウムイオン電池はコンチネンタルグループと共同開発されている。ただし、パワーコントロールの制御はBMW独自で、ATユニットもメルセデスは7速、BMWはZF製の8速を採用するという違いがある。
このZF社製の8速ATは従来の6速ATと同等のサイズにまとめられており、変速比幅を広げつつクロスレシオを持ち、なおかつ瞬時のギヤチェンジが可能な最新ユニットだ。8速ATは現在のところBMW760i(V12)とハイブリッド7のみの採用で、その他のグレードは6速ATとなっている。しかしそれも順次8速に換装されるはずである。というのは、すでに5シリーズは8速化が行われており、これらのことからも容易に想像できる。
BMWハイブリッド7は、メルセデスSハイブリッド同様にスタートストップ・システムを取り入れているが、メルセデスは15km/h以下になるとエンジンが自動停止するのに対し、ハイブリッド7はブレーキを踏んで停止するとエンジンがストップするようになっている。そして、ブレーキペダルを離すとエンジンが始動するという制御だ。その際、エンジンの始動はモーターが行っている。
またエンジン再始動時のAT油圧の立ち上げは、ZF独自のスプリングを利用したハイドロリック・インパルス・オイルストレージ(HIS=油圧蓄積システム)を使用し、AT用の油圧モーターは存在しない。
電動エアコンはリチウムイオン電池からの電力で駆動され、エンジンの始動、停止にかかわらず作動させることができる。また駐車中もリモコンでこのエアコンを作動させることができるようになっている。
ハイブリッド7の価格は標準ボディが1280万円、ロングが1420万円。面白いことに、メルセデスSハイブリッドはそれぞれ1270万円、1405万円とほぼ同レベルとなっている。いずれにしてもハイブリッド7は、7シリーズのトップモデル、760iと同等のポジションを与えられていることが分かり、動力性能も環境対応も両立させるというアクティブハイブリッドというコンセプトは明確である。
文:編集部 松本晴比古