2014年10月に発表されたBMW 2アクティブツアラーのデリバリーがようやく開始された。ライプチヒ工場では1.5L・3気筒エンジンを搭載する218iからロールアウトされており、2.0L・4気筒エンジンを搭載する225iの日本でのデリバリーは年末から年明けになるようだ。
ということで現時点での試乗車は218iのラグジュアリーグレードのみであった。改めて言うまでもないが2シリーズ・アクティブツアラーはBMW史上初のFFモデルとして注目されているが、世界を見回しても量産自動車メーカーの中では最後発のFFモデルとなる。
フロントエンジン、リヤ駆動、いわゆるFRに徹底してこだわってきたBMWも、ついにコンパクト・セグメントはFF駆動を採用する方向に舵を切った理由は、マーケットの動きに合わせたものだ。現在はBMWのラインアップの過渡期にあるため、1シリーズ(F20型)、2シリーズ・クーペ(F22型)はFR方式で、新登場の2シリーズ・アクティブツアラーがFFというフォーメイションになってるが、近い将来にはこのFFプラットフォームに統合されるはずだ。
2シリーズ アクティブツアラーはBMW初のFFモデルだが、正確に言えばMINIもBMWが開発している。ただMINIは極端にキャラクターを演出したクルマなので、BMWはどのようなコンセプトで、2シリーズ・アクティブツアラーの開発に取り組んだのかが興味深い。ユーザーターゲットは若いファミリー世代で、パッケージングは日常生活から趣味の世界までをカバーする多目的ハッチバックだ。セダンよりやや全高を上げて、フォワードキャビンにより室内を最大限に追求している。ライバルはメルセデス・ベンツBクラス、フォルクスワーゲン・ティグアンなどで、要するにこれまでのFRのBMWでは取り込めなかった層をターゲットにしているのだ。
日本では、軽自動車、コンパクトカー以外の市場は軒並み縮小傾向にあるが、プレミアム・コンパクトクラスだけは例外的に成長している。こうした流れに乗るために、BMWもコンパクトセグメントのモデルを急速に展開させる必要があるのだ。
担当エンジニアは、2シリーズ アクティブツアラーを開発するにあたり、スポーティであることと、FFのアンダーステア傾向とトルクステアを徹底的に消すことを重視したと語っていたのが印象的で、今の時代でこの言葉は驚きだった。今時FF車がアンダーステアと感じる人などいるのかと思うのだが、彼らにとっては大いに懸念した点だったのだろう。
ボディ全体のフォルムはキャビンフォワードで、やや背が高いハッチバック形状になっており、従来のBMWのラインアップ・モデルとはまったく違うのだが、デザイン的にはより低く、幅広く見せ、BMWのデザインアイコンを盛り込むことでファミリーの一員らしくまとめ上げている。
ボディサイズは、全長4350mm、全幅1800mm、全高1550mm、ホイールベース2670mmで、Cセグメントサイズであり、ライバルとほぼ同じである。ただし、2シリーズ・アクティブツアラーは、全高が高いフォルムをデザイン的な要素で嫌い、低めで後ろ下がりのルーフ形状にしている。なおヨーロッパ仕様の全高は1586mm(シャークフィン・アンテナ含む)だが、日本仕様は立体駐車場の高さ制限を考慮し、36mmローダウンしたスポーツサスペンションが標準装備となっている。
インテリアは他のBMWと同様のデザイン手法で、明るいベージュカラーが採用されている。シートポジションは「セミ・コマンドポジション」と呼ばれているように、セダン・シリーズより高めの着座位置だ。アップライトになっている分だけ見晴らしもよい。実際に車内に乗り込んでみると、広さが感じられた。
BMW 3シリーズに比べても足元が広く、センタートンネルの大きな出っ張りがない点も新鮮だ。FRのセダンは左右のフロントシートの中央部までトランスミッションが出っ張り、特に前後荷重配分にこだわるBMWはその傾向が強いのだが、その突出がないことや、Aピラーが前進したフォワードキャビンのため、目の前の広がり感もある。リヤシートもFFの恩恵を十分に引き出しており、足元スペースの広さも、5シリーズより広く感じるほどだ。つまり、BMWセダン共通の室内のタイト感がないのである。唯一気になったのはAピラー越しの斜め前方視界で、Aピラーが太い形状のため視界を狭めている。
リヤシートは、40:20:40の3分割式で、前後スライド量が130mm。さらにシートバックのリクライニング角は-1.5度~28.5度で、居住性、使い勝手に配慮されている。またラゲッジスペースの仕上げも上級ワゴンレベルの質感となっており、使いやすさとプレミアムクラスらしい質感を両立させている。
試乗車のグレードは218i ラグジュアリーで、タイヤは本来は205/60R16のランフラットだが、オプションのM Sport用の205/55R17(トランザT001 RFT)が装着されていた。しかし乗り心地はフラット、マイルドでランフラットらしいコツコツとした路面との当たりや、スポーツ・サスペンションであることはほとんど気にならない。スポーティ感があり、しかも快適といえるレベルだった。実際、開発段階でもライバル車より乗り心地、快適性を高めることが目標になっていたが、それは見事に実現されている。また走行中の室内の静かさもレベルは高く、3シリーズより静粛性は上ではないかと思うほどだった。
もう一つ、スラローム走行のように左右に切り返すようなシーンでの応答性、俊敏性もかなり高く、このあたりもBMWらしい味付けといえるが、その反面でどちらかといえばファミリー向けのこのクルマで、ここまで必要かとも感じた。またコーナリングでフロントが一気に切れ込む旋廻フィーリングはこのクルマ独特のもので、確かにニュートラルなフィールであり、こだわりを感じさせる。ちなみに前後の荷重配分は58:42。おそらく225iはもう少し前輪荷重が多いと想像できるが、さすがに3気筒エンジンでフロント荷重も小さく、旋廻での応答の良さを生み出しているのかもしれない。
直進性や安定性もきわめてレベルが高いが、新採用されているシングルピニオン式の電動パワーステアのセンター部分の締まり具合が今一つだと感じた。微小な遊びがあって、その領域を超えると一気に切れるというフィーリングで、もう少し締まり、落ち着きが欲しいと感じた。だがこの部分は、タイヤによっても変わるのかもしれない。
1.5L・3気筒直噴ターボエンジンは、すでにMINIにも搭載されている新世代エンジンで、6速のアイシン製ATと組み合わされている。このエンジンは低速から力強いトルクを発生し、滑らかに吹け上がるが、さすがに低回転ではごろごろとした3気筒の音質だ。しかしもう少し回転数が上がると、それも気にならなくなる。出力的には136ps/220Nmで、十分すぎる動力性能を持ち、最高速205km/h、0-100km/h加速は9.2秒だという。
2シリーズ・アクティヴツアラーは、BMWではこれまでは訴求してこなかったファミリー層をターゲットにしており、クルマ作りもユーティリティ、利便性をきちんと盛り込んでいる。それでいてBMW流儀のドライビングプレジャーをきっちり表現している、その点でもユニークというか、BMWらしいクルマであった。