BMWブランドの歴史の中で2014年は横置きエンジンの前輪駆動車を市販した最初の年として記憶されるだろう。開発コードF45と呼ばれる2シリーズ・アクティブツアラーという名前と共に。
◆BMWがなぜFFを?
これまで「駆け抜ける歓び」をテーマとしたクルマ創りを目指すために、BMWは後輪駆動に固執してきた。しかし時代の要請によってついにBMWもFFも造るようになったのだ。その時代の要請というのは、コンパクトで室内の広さを要求ということだ。小さなボディサイズで大きな室内空間を求めようとするとやはりFFになるわけだ。
年間200万台を突破する勢いのBMWにとって、ヤングファミリーを中心とした大きなマーケットを無視できなくなっている。それは2020年のCO2排出量を95g/kmにまで減らさなくてはならないからという理由もある。燃費の良いモデルで数を稼ぐのが得策なのだ。
もうひとつBMWがFFに踏み切った理由がある。それはコンパクトクラスに乗っているユーザーのアンケート結果を見ると約80%が自分のクルマがFRかFFか知らないと答えたことだ。つまりこの層に対して後輪駆動にこだわったクルマ造りをしても、大きな意味をもたないことが判ったからだ。
しかし筆者は、FRの味を知っているユーザーにも受け入れられるFFをBMWがつくり出せたのか、多いに興味をそそられながらオーストリアはインスブルックで開催された国際プレス試乗会に参加してきた。
全長4342mm×全幅1800mm×全高1555mmというスリーサイズで、ホイールベースは2670mmである。FFにしては全長のわりに前後のオーバーハングは短く、ホイールベースが長めなのはFRメーカーならではだ。3代目のE36型3シリーズの全長が4433mm、ホイールベースが2700mmだったからちょっと小さいサイズではあるが、全幅と全高が比べものにならないほど大きくなっている。つまりこれがコンパクトサイズに大きな室内の元である。
◆エンジンは3種類をラインアップ
デビュー時にはエンジンは以下の3種類が用意されている。
BMW218iアクティブツアラー:B38A15 M0型(MINI Cooperと同じ)。1.5L・直列3気筒ガソリンターボで136ps/4400-6000rpm、220Nm/1250-4300rpm(オーバーブースト時230Nm)
BMW225iアクティブツアラー:B48A20 o0型(ほぼMINI CooperSと同じ)、2.0L・直列4気筒ガソリンターボ。231ps/5000-6000rpm、350Nm/1250-4640rpm
BMW218dアクティブツアラー:B47C20型、2.0L直列4気筒ディーゼルターボ。150ps/4000rpm、330Nm/1750-2750rpm
これに2014年秋以降に追加される車種として次のバリエーションが用意されている。
BMW220iアクティブツアラー、BMW220dアクティブツアラー、BMW216dアクティブツアラー、B37C15(MINI Cooper dと同じ)。そしてさらにBMW220dアクティブツアラーとBMW225iアクティブツアラーにはxDrive仕様が追加される予定だ。これはMINIのタイプと異なり、フロントのトランスミッション付近に電子制御多板クラッチを設けて後輪を駆動するタイプになるようだ。
新エンジンは1気筒当たり500ccというBMWの研究によると理想的な排気量のシリンダーを直列に並べる構造原理で作られたもので、ガソリンは3気筒、4気筒ともにツインスクロールターボチャージャー、直噴、ダブルVANOS、バルブトロニックが装備されている。
ディーゼルは可変インテークジオメトリーターボチャージャーに最大噴射圧2000barのコモンレール式ダイレクトインジェクションを備える。オールアルミ製のエンジンはクローズドデッキ構造のシリンダーブロックで極めて剛性が高い。
シリンダーの摺動面にはツインワイヤーアークスプレーコーティング(溶射複合コーティング)を施し、重量を抑えると同時にフリクションを最小化している。バランスシャフトは3気筒エンジンには1本、2気筒エンジンには互いに逆回転する2本が組み込まれている。
今回試乗できたのは最上位モデルBMW225iアクティブツアラー(8速AT)とBMW218dアクティブツアラー(6速MT)の2車種である。6速MTはゲトラグ製、4気筒エンジンの8速ATはアイシンAW製で、まだ試乗していないが3気筒エンジンの6速ATもアイシンAW製である。
この多彩な2シリーズ アクティブツアラーの中で日本仕様として選べるのはどのバリエーションなのか楽しみではある。BMW220d xDriveアクティブツアラーがあると雪国のユーザーには受けると思うのだが、どうなるか。
◆パッケージラインアップ
最近のBMWと同じようにオプションをパッケージしたようなデザインラインが用意されている。スポーツラインはハイグロス仕上げのキドニーグリルを筆頭に、専用デザインのエアインテークやリヤエプロンのアクセントストリップなどでダイナミックさをアピールしている。
エレガントさを強調しているのがラグジュアリーラインだ。この2つのラインはサスペンションに手を加えていないが、M Sportパッケージは車高を10mm下げ、硬めのサスペンションにすることで、さらにスポーティ度を高めている。M Sportパッケージ以外でも日本仕様は機械式駐車場に入れられるようにするために、全高を1550mmにするはずだから少なくとも5mmは低くなって登場するだろう。
サスペンションはフロントがL字型のロアアームを持つストラット式で中空のアンチロールバーが付く。リヤはトーとキャンバーの動きをうまく制限するタイプのマルチリンク式である。
リヤゲート付きで後部に広い開口部を持つボディを補強するために、フロア下にはハの字型の補強ブレースが取り付けられている。BMWブランドとしては初のFWDではあるが、これまでMINIで築き上げてきたノウハウが相当あるので、FFに関して素人ということはない。
パワーステアリングは当然電動であるが、FRのBMWのようにラックに平行にモーターが付くタイプではなく、ステアリングシャフトのピニオンの直前を回すようにレイアウトされている。
FF独特のキャラクターとどう付き合うか、メリットを活かしてデメリットを消すことに注意を払ったようだ。操舵したときの正確さ、方向安定性、レスポンスというトータルのステアリング品質の高さにより、BMW2シリーズ・アクティブツアラーはクラス最高のパフォーマンスを発揮するという。
エクステリアデザインはBMWのデザイン手法に則って、キドニーグリルやDピラーのホフマイスターキンクなどで初めてこのクルマに対面したとしてもすぐにBMWと判る。ただしルーフが低い流線型ではなく、ちょっと背の低めのミニバン風の形をしている。
乗り込むときに地面からシートまでの高さがちょうど良く、腰をかがめなくても済むのはBMW X1などと同じだ。ちなみに2シリーズ・アクティブツアラーのシート位置はX1より10mm高い。これは若い層だけでなく、熟年ドライバーにもありがたい。
シートクッションとフロア間の距離もセダンより大きいので、ドライビングポジションはアップライトな感じで座るとぴったりくる。シートの位置が高くなっているが、フロアパンにプレスで凸をつけてその上にシートスライド用レールを配置しているから、シートの剛性も高いままだ。
普通より高いシートレール位置になったので、サイドシルとつながったウーハースピーカーの存在が見える。全高が高いおかげでヘッドクリアランスもたっぷりあり、室内の広さを実感できる。
後席は3人乗りだが、横幅も高さも外から見るコンパクトボディの印象はない。十分に広く感じる。本国仕様ではオプションで左側2人、右側1人の別々に前後スライドができるタイプも設定されている。リヤ席はリクライニングも可能だし、前に倒してラッゲージスペースを大きくすることもできる。ラッゲージスペースはフロア下の収納もかなり広いから、使い勝手がよくなっている。
◆FFをBMWがつくるとこうなる
走り始めてFFを意識しなくてはならない状況にはなかなかならなかった。フロントヘビーな感じもなく、路面のアンジュレーションにハンドルが取られることもなく、FRに馴染んだドライバーでもまったく違和感なく乗ることができるだろう。さすがにBMWが造っただけのことはあり、FFのデメリットを消し去り非常に素直なクルマに仕上がっている。
ハンドル応答性はシャープ過ぎることもなく、ダルでもなく普段使うにはちょうど良いゲインである。やや軽めの手応えだがダイレクトな感触でクルマと一体感を持って走れるから、駆け抜ける歓びを満喫できる。基本的にサスペンションはMINIと同形式ではあるが、その味付けに関してはまったく別物で、BMWらしさが溢れている。
最近のBMWはATのセレクターが電子シフトになっているが、この2シリーズ・アクティブツアラーのATセレクターは機械式である。だからDレンジに入ったままエンジンを止めても残念ながらPレンジに自動的に入ることはない。この辺はコンパクトカーとしてのコストの問題があるのだろう。ZF製からアイシンAW製に変わったというのも影響しているのか。
その代わりといってはなんだが、1シリーズ、2シリーズクーペ、3シリーズでは手動式のハンドブレーキだが、2シリーズ・アクティブツアラーは電動パーキングブレーキになっていた。左ハンドルではシフトレバーかセレクターレバーの右側のiDriveのコントローラーの前方にそのスイッチがある。ちなみにパーキングブレーキは自動リリース式である。
2.0Lガソリンエンジンはたった1250rpmから350Nmも発揮できるから、約1400kgの軽量のボディを引っ張るには十分なトルクである。ターボエンジンではあるが、ターボラグを感じることはなくアクセルペダルを踏み込むのと同じように加速していく感じだ。ちょっと意地悪をして停止からアクセル全開を試してみたが、初期に軽いホイールスピンをしただけでストールすることもなく見事に加速していった。
6500rpmからゼブラゾーン、7000rpmからレッドゾーンになるが、6000rpmオーバーまで軽快に回る。もっと上まで回る余力はありそうだが、トルクを感じる加速ができるのは6000rpmくらいに留めておいたときだ。高回転になってもエンジン音も排気音も意外と静けさを保っている。
Dレンジで100km/hのときのエンジン回転数は1700rpmだから、燃費も期待できるだろう。そこからアクセルペダルの踏み方で8速をキープしたまま加速することもできるから燃費走行ができるドライバーはさらに良い燃費をマークできる。少し速くアクセルペダルを踏むと瞬時にキックダウンして、踏み方により1段か2段低いギヤで加速していく。
同じ2.0L・4気筒のディーゼルエンジンは、330Nmの最大トルクを1750-2750rpmで発揮でき、NAの3.0Lエンジンの最大トルクを越えるから、こちらもコンパクトなボディには十分なトルクである。6速MTは楽しかった。クラッチペダルの操作感が良く、遅れずにダイレクトに反応してくれるから扱いやすいのだ。
確かにガソリンエンジンにはパンチ力で劣るが、ディーゼルエンジン独特の太いトルク感を感じながら走るものいいと思った。スピードが下がっても6速をキープしながらトルクでスピードを回復させるのも楽しい。エンジン回転も5000rpm からゼブラゾーン、5400rpmからレッドゾーンというくらいディーゼルと思えないほど高回転までよく回る。シフト操作もゲートはハッキリしていて、スコン、スコンと気持ちよく入るからスポーティドライビングも可能だ。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)は通常のBMWのようにウインドシールドに映すタイプではなく、プジョーのようにメータークラスターの上にせり上がってくるプラスチックパネルに映すタイプだ。スピード、ナビの案内、クルーズコントロールの状態、さらに欧州では制限スピード、追い越し禁止などが表示される。
コンパクトカーというとホイールベースが短く車重が軽いせいで乗り心地が悪いイメージがあるが、2シリーズ・アクティブツアラーに関してはそんなことはない。しなやかだがしっかりしたサスペンションは、剛性の高いボディとともに滑らかな乗り心地を作っている。
2シリーズ・アクティブツアラーはなかなかできの良いクルマだと思った。これからBMWは1シリーズ、2シリーズ、X1がすべてFFベースになるというが、今回の試乗で安心した。FRメーカーがFFを創るとこうなるということが判ったからだ。