2012年11月、BMWジャパンはBM本社からエンジニアを招いて技術講演会「BMW Group Innovation Day in Japan」を開催した。内容としては、最新クリーンディーゼルエンジンの現状(ディーゼルエンジン開発担当:クリスチャン・メルツェンガー氏)、アクティブハイブリッドの現状(アクティブハイブリッド・パワートレイン開発適合担当:デニス・ポール氏)、MINIコネクテッド(MINIとiPhoneの接続アプリ開発担当:佐藤毅氏)の3テーマが講演された。
■クリーンディーゼル技術
BMWは1983年に同社初の6気筒ディーゼルエンジンを524tdに搭載した。BMWはディーゼルエンジンでは後発メーカーだが、それ以後は急ピッチで開発を進めている。1990年に酸化触媒を装着し、1998年に直噴ディーゼルを開発。これを搭載した320dがディーゼル車として始めてニュルブルクリンク24時間レースに出場し総合優勝を果たした経緯がある。
2001年には第2世代のコモンレール式直噴を採用し噴射圧は1600気圧に。そして2007年に第3世代のコモンレール&ピエゾインジェクター直噴(2000気圧)を採用し、2012年には2200気圧にまで達している。また2004年以来、2ステージターボ技術も投入、という具合に驚くべきスピードで開発を進めているのだ。この間の29年間でトルクは352%アップ、出力は329%アップさせている。燃費は11%向上しCO2排出は99%低減させている。
また、こうした開発の成果として、BMWのクルマは全世界での販売台数のうち40%がディーゼルエンジン車となっているのだ。地域別では、ヨーロッパで68%がディーゼルとなっている。
車種別ではX1〜X5シリーズは95%、X6が85%、5シリーズが85%、1、3、7シリーズは2/3がディーゼルと、驚異的なディーゼル比率となっており、BMWはディーゼルがメインのメーカーと言っても差し支えない。その理由は、ディーゼル・トルクの強力なことと燃費が優れていることからだ。
2012年に日本に導入されたBMWディーゼルエンジンは、最初に導入されたX5の後処理システム、SCR(尿素還元触媒付き)方式ではなく、NSC(NOx吸蔵還元触媒)を採用し、日本のポスト新長期規制に適合させている。
このNOx後処理対策の違いは車両重量とエンジンの出力により使い分けているという。今回、その構造が初公開された。BMWのNSCはユーロ6、日本のポスト新長期規制に適合するシステムで、触媒部分はNOx吸蔵還元触媒とDPF(粒子状物質除去フィルター)とを一体化させ、前後に空燃比センサーを装備している。エンジンの運転モードに合わせてNOx吸蔵還元触媒にNoxを貯蔵・還元するシステムだ。このシステムは当然ながらアドブルー(尿素水)を消費するSCRより構造は簡素で、尿素水の補給も必要ないため有利となる。
また、ヨーロッパでの排気ガス規制はまだユーロ5適合レベルが主流であるため、日本仕様がBMWにとっても最も先端のシステムとなっているのだ。このシステムは今後、ヨーロッパでも採用されユーロ6規制に対応することになる。
BMWのディーゼルエンジンに関する戦略は、現状でディーゼルエンジン比率が極めて高いため、ガソリンエンジンの製造コストを下げる必要があり、3気筒〜6気筒エンジンのモジュール設計化を推進するとしている。具体的には、3気筒〜6気筒の間で60%以上の部品を共通化することとなる。さらにガソリンエンジンとディーゼルエンジンとの間でも30〜40%の部品を共通化させる計画だという。概略ではシリンダーの共通化、補機の共通化を重点的に進めていくということだ。
■アクティブハイブリッド技術
BMWはエンジン本体以外での燃費低減技術として、減速エネルギー回生、スタート&ストップ・システムに加え、GM、ベンツ社と共同開発したアクティブハイブリッドという新たなコンセプトをX6に搭載して打ち出している。一方で、7シリーズにはマイルドハイブリッドを採用し、2011年からはデュアル・クラッチを搭載したパラレル式フル・ハイブリッドに変更している。このシステムはすでに3、5シリーズにも搭載しており、ハイブリッド化も着実に開発を進めている。
従来のガソリンエンジンと、ハイブリッド・システム搭載でのNEDC燃費での比較では、マイルドハイブリッドは-8〜-12%、フルハイブリッドでは-18〜-20%の燃費削減を果たしている。もちろん同時に、BMWは「i」ブランドを立ち上げ、2013年から電動化(EVとレンジエクステンダーEV)を一挙に推進しようとしている。
そうした意味で、BMWはもはや電動化という方向性は確立されたと言える。しかしその一方で内燃エンジンの販売比率は当分主流であり続けるし、ハイブリッドや電動化に伴うリチウムイオン電池のコストを劇的に抑えることは難しいことも理解している。
こうしたハイブリッドシステム搭載によるコスト高を吸収するとともに、BMWの企業テーマでもあるドライビングプレジャーを訴求するためには、ハイブリッドカーに内燃エンジンを搭載し、シリーズのトップに位置する存在としているのがBMW流になっている。
現在のデュアルクラッチ/パラレル式ハイブリッドを採用した3、5、7シリーズのアクティブハイブリッド車は、共通仕様の直6+ツインスクロールターボ・エンジンを搭載し、ZF製8速ATと組み合わせている。
つまり225kW/400Nm(7シリーズのみは450Nm)という1種類のエンジン、それにトランスミッションに内蔵されるモーターの40kW/210Nmの1種類という共通コンポーネンツ式のハイブリッドシステムを横展開しているのが特徴だ。また搭載するリチウムイオン電池も、BMWと共同開発したアメリカの「A123」社製を共通ユニットとして採用している。
ZF製の8速トランスミッションは、基本構想の段階から縦置きエンジンの全クラスをカバーするトルコンATであることと、マイルドハイブリッド、デュアル・クラッチ式パラレル・ハイブリッドをも展開できるモジュール設計を採用している。そのため、ATのトルコン部分をモーターやクラッチに置換することで、通常の内燃エンジン車とまったく同じ搭載方法でハイブリッド車を展開できるメリットを持っているのだ。
従ってBMWのアクティブハイブリッドのモーター、クラッチ、変速ギヤユニットの開発・設計はZF社が担当し、BMW側はギヤ比やモーターの出力チューニング、パワーエレクトロニクス開発、機種ごとの車両適合性を担当するという分業により、アクティブハイブリッドが成立している。
BMWの電動化路線で一番大きな課題は、これまでのパートナーであったA123の経営が不安定化しているため、リチウムイオン電池の更なる開発や供給をどのようにするかというということだろう。
■MINI NAVI/MINI CONECTED
日本で開発されたMINI NAVIは、MINI専用にiPhoneを搭載することでナビゲーションシステムとすることができるシンプルなナビ方式で、アイシン製のアプリをカスタマイズしたものだ。このシステムはまず「ナビゲーションパッケージ(14万5000円)を選択し、iPhoneは専用のホルダーでダッシュボードに固定。アプリケーションはAppストアで購入しダウンロードする。
システムの特徴は、ルート案内をする矢印アイコンがMINIの画像になっていること、車両側のジョイステックでiPhoneの画面のナビを操作できること、車両情報とも連携していることだ。そのため、単なるiPhoneアプリのナビではなく車速や操舵角情報もナビ・アプリに送られることでより正確なナビ情報が得られると言う特徴がある。
MINI CONECTEDは、iPhoneに「MINI CONECTED」アプリをダウンロードすることで実現する。
FaceBook、Twitterとの連携、最新ニュースの受信などインターネットへの接続以外にユニークな機能として「ダイナミック・ミュージック」機能がある。これは運転状況に合わせて最適な音楽が演奏されるもので、加速中は音楽のリズムやテンポが速まるといった、音楽とドライビングの一体感を演出するシステムだ。
また、ミニマリズム・アナライザーも含まれており、エコ・ドライブすることで運転の採点を行い、点数に応じてプレゼント画像が表示される。そしてドライビングエキサイトメント機能は、車両のコンディションや走行中の加速度のグラフ、回転数の表示などスポーツドライブ向けの情報が表示されるという点がユニークだ。